テラーバードの帝国

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梗 概

テラーバードの帝国

西暦二〇三〇年。八十八年前に「貴族」と呼ばれる異世界の翼を持たない鳥の怪物に侵略された地球。労働は彼らの奴隷「タウロ」が引き受け、一部の官吏を除き多くの人類は都市に集められ、侵略された第二次世界大戦時より衰えた文化水準の中、配給を待つ生活に甘んじていた。

糧食調査官の青年、有馬灰斗ありまはいとは闇市で違法に流通する貴族用糧食を追うが、上司の黒塚くろづかは調査を禁じる。調査を続行する灰斗は未成年のタウロ、リムを助け出す。両性具有の彼らは婚姻せず性成熟できないと貴族に嫁ぐ風習があると灰斗は知る。それは貴族の生き餌になるという事だった。灰斗はその非道さに憤るが、リムは普通の事だと奇妙な顔をする。貴族用糧食もその素材はタウロの肉だった。故郷の村が災害に遭い、身寄りも無く都市へ不法侵入したリムを匿う灰斗。

市民用糧食の保存期間を改竄し廃棄を装い横流しした嫌疑のある闇市の住人、喜多方きたかたを貴族用糧食の出所に絞る灰斗。記録改竄は灰斗の所属する食務省にしか出来ない。同期の中埜なかのに協力を仰ぎ、配給システムのログを喜多方の仕入れ状況と付き合わせると整備計画局次長、白石しらいしの名が浮かぶ。灰斗は白石の記録を喜多方の帳簿に求め、リムを姪と偽り事務所で働かせる。喜多方の帳簿を手に入れたとの灰斗のブラフに踊らされた白石が帳簿を確認しに来た所を見られ、リムは易々と帳簿を入手する。

帳簿で白石の犯罪が立証された。黒塚に調査を求めるが、逆に窃盗でリムと共に拘留される。しかし灰斗は中埜に頼み事をしていた。配給の時間、市民が食糧と共に受け取ったレシートにはこう印字されていた。貴族はタウロの肉を食う。闇市に流れる貴族の糧食も人と同じタウロの肉だ 。配給システムがハックされ貴族の食人が告発された。ラジオも電話も無いこの世界の市民に、このアジテーションは強烈だった。ここで二級市民と呼ばれるタウロの血が入った人々が立ち上がった。彼らは市民権を持つが差別されていた。貴族への怒りから差別撤廃を求め集団行動を取った彼らは、打倒すべきシンボル食務省本部に集った。しかし同様に危機感を持って集まった一般市民と諍いが起こり騒乱状態となった。暴動化したデモは食務省の武装執行官に鎮圧された。

翌朝、灰斗とリムは解放された。暴動を背景に白石の職権濫用がこの事態を引き起こしたとして黒塚が上層部に訴えた。灰斗の計画は中埜から伝えられており、黒塚は灰斗達の身の安全を図ったのだ。白石は即日拘束され喜多方も逮捕された。灰斗は自分の志した正義が実を結んだと感じた。ふと灰斗の持つ母親の形見の指輪がタウロの工芸品だとリムが言う。部族で決まった紋様が彫られておりその部族を訪ねた灰斗は、生前の母が貴族に嫁する所を亡父威彦たけひこが助けたと知る。自分もまた混血だったと知り、なぜか密やかな安堵を得る灰斗。

文字数:1197

内容に関するアピール

米国から広がった人種差別抗議運動と、コロナ禍とDXで急速に進展する接触しない社会を旬のネタとして用いました。またエンタメとして成立させるため、今年大ヒットしたテレビドラマ『半沢直樹』の物語構造を借用しています。

また、貴族と呼ばれる怪物は恐竜絶滅後、生態系の頂点に立った恐鳥(テラーバード)です。彼らは哺乳類の台頭を許さず、一千万年以上の長きにわたり道具や機械を用いない精神感応力と念動力を基盤とした文明を発展させました。貴族を自称する怪物「霊鳥類」は並行世界の地球を侵略しますが、共に連れてきた奉仕種族タウロは地球人類と同じ祖先を持つ過去の接触の遺産です。

文字数:278

課題提出者一覧