セレネット・タウン

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梗 概

セレネット・タウン

 近未来、人々は拡張現実デバイスのSerenet(セレネット・セルネ)を用い、リアルタイムに様々な情報を得ていた。
 学校で流行っていたのは、マスクとミュート機能で、得たくない情報を意図的にマスクする機能だった。元々はデマ情報防止のために作られた機能だったが、拡張され、見たくない人間にモザイクをかけたり、聞きたくないワードに関する話題をミュートしたりする。
 
 高校生の玲奈は、小学生のころにいじめられた経験があり、クラスメイトのほとんどをミュート対象にしていた。自分の名前もミュート対象にしており、名前を呼ばれても反応しなかった。教室に入っても、ほとんどの生徒がうすぼんやりとした姿をしていて、雑談が小さなノイズに変わっていた。
 そんななか、知らない男子生徒の直哉から声をかけられる。学年がちがうらしくミュート対象から外れており、玲奈は驚く。「君がかわいいから」とはっきり伝えてくる苦手なタイプの男で、玲奈は無反応を貫くが、彼はあの手この手で話しかけてくる。
 
 直哉は、自分はむかし不良で、そのときに周りに嫌われまくったらしく、自分は多くの生徒からミュートされている、と語った。自分は皆から嫌われてるからいいけど、玲奈はそうではないので、ミュートを外したほうがいいのではないかと促す。
 意を決して玲奈はミュートを外し、教室全体を眺め、様々な話し声を聞いた。自分が思っていたより教室はうるさく、騒々しく、皆は楽しそうだった。しかし、多くの生徒はこちらと目を合わせようとしない。きっと自分もミュートされてるのだろう、と玲奈は感じ、話しかけることもできずに落ち込む。
 久しぶりの「生」の人間を多く見た玲奈はめまいを起こし、階段から転げ落ちて足を強打してしまう。過去のいじめの記憶を思い出し、いくら叫んでも誰も助けてくれてなかった記憶を思い出す。
 しかし、玲奈のまわりには多くの女子生徒が囲み、なにやら叫んでいた。多くの女子生徒は玲奈のことを心配し、名前を読んで介抱してくれたのだ。

 次の日の玲奈は、松葉づえ状態で教室に向かうと、多くのクラスメイトが声をかけてくれた。いわく、今まではなんとなく声をかけづらい雰囲気を出していたという。ケガをした玲奈は、色々な人の助けを借りて、少しずつクラスメイトと話していくようになる。
 数日後、ひとりのクラスメイトは話してくれた。じつは直哉は、むかし玲奈をいじめていた生徒のひとりだった。かなりの悪だったらしく、Serenetのアカウントまで偽装する不良だったらしい。容姿は昔と変わっていて玲奈は気がつかなったが、噂自体は学校中に広まっており、知らないのは玲奈だけだったようだ。彼の性格は丸くなって反省しているようだが、相変わらず多くの人からミュートされていた。
 
 玲奈は、昔の嫌な記憶はかなりあるが、クラスに溶け込めたのは直哉のおかげだと思った。玲奈は廊下で直哉を見つけるが、話しかけても彼はこちらに気付かない。Serenetで意図的にミュートされているのか、こちらの姿が目に入らないらしい。玲奈はひとりで遠くに歩いていく直哉の姿を見送る。

文字数:1285

内容に関するアピール

現実にミュート機能があったらどうなるか、というベタなテーマですが。
はっきりとした数の増減ではないですが、ミュートの数、見える数、がプチプチ増えたり減ったりするといいなと思います。
ミュート対象の人は、まったく見えないわけじゃなく、モザイクがかかるイメージでした。

直哉は昔いじめてた玲奈に対して、謝罪ができないかな、と思っていましたが、自分のいじめが原因でふさぎ込んでいる彼女を見て、なんとかミュートを外せないか、という意図でした。最後は自分とはあまり話すべきじゃないかと言う感じでミュートに。ちょっと『聲の形』と被ってる感はありますが。

serene : 静かな

文字数:277

課題提出者一覧