梗 概
限界領域
ゼドヴァルト帝国は、3年前に突如出現した紫色の霧に、大地を侵食されていた。
霧に覆われた土地は「領域」と呼ばれ、そこに立ち入る生身の人間の多くは、一定時間を経過すると正気を保てずに発狂する、異常な空間に変貌してしまう。
帝国軍は領域の拡大を止めるため、人工的な消霧装置を開発する。消霧装置を設置するため、危険な領域内に立ち入る人間が必要だった。命懸けの作業になるため、軍規に反した軍人と、恩赦目当ての囚人たちによる混成部隊がその任務を命じられた。
フォルテ・カミキはかつて所属した部隊で、食糧の横流しで私腹を肥やす上官の不正を告発したが、軍上層部の親類である上官の不正は隠蔽され、逆に報復人事を受けて、第8懲罰小隊の小隊長の任務を与えられていた。
くせ者揃いの混成部隊は、使い捨ての消耗品扱いをされている。
軍の目下の悩みは、消霧装置の設置に苦戦し、領域が皇都キセリグに向けて拡大を続けていることだった。
キセリグには皇帝が居を構えており、国の威信を守るため、避難を目的とした遷都は選択肢に存在しない。
軍は起死回生のため、新型の消霧装置による領域の拡大阻止作戦を始動する。
フォルテの部下であるビドワイル・ピピンは、貧困層出身の女性だ。
強い愛国心を持ち、自ら危険な任務を志願して第8懲罰小隊に配属された変わり者である。フォルテは、何かにつけて愛国精神を振りかざすビドワイルに、苦手意識を抱いていた。
フォルテ率いる第8懲罰小隊は、領域内での発狂を一定時間防ぐ装備を着用し、新型の消霧装置を領域の中心部で起動させる作戦を開始した。小隊メンバーを失う苦難を乗り越えながら領域の奥へと進んでいき、目標地点だと聞かされていた建物にたどり着く。
いよいよ消霧装置を起動しようとした所、ビドワイルがこの装置の正体は消霧装置ではなく強力な爆弾であり、最初から第8懲罰小隊を犠牲にする前提の作戦であることをフォルテに明かす。
実はビドワイルは、各懲罰小隊を束ねる司令官デケット・メドゴスムの隠し子だったのだ。母を捨てたデケットへの復讐のため、偽りの身分で軍に入り、死んだ母の無念を晴らす機会を探っていた。
ビドワイルはデケットの身辺を探る中で、領域を生み出す霧は、軍が極秘裏に設立した研究所での実験の失敗により発生したものであることを掴んでいた。
そして、いよいよ皇都キセリグに迫った領域に対処するため、最終手段として研究所を消滅させる計画が立案されたのだ。
ビドワイルは、軍の尻拭いのために死ぬことはないと、フォルテに軍から逃亡することを提案する。
フォルテは迷いながらも、皇都に住む罪なき人々が犠牲にならぬよう、任務の続行を決意する。あり合わせの材料で時限爆弾に改造し、爆発が及ばない場所へ退避することに成功した。
軍に戻れなくなったフォルテとビドワイルは、2人で新天地を求めて旅立つことを決意する。
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内容に関するアピール
生身の人間が立ち入れない領域が増えていく物語を考えました。
組織に使い捨てにされかけながらも、奮闘する人間の物語を書きます。
文字数:61