梗 概
赤い大地に降る雪は
火星入植後10年。入植者は300人を超え、居住区のほかに各種生産プラントを有機的に運用していた。
CO2発掘プラントで一人の技術者が死亡した。外傷はなく、毒殺が疑われた。小さな社会である。人々は互いに疑いの目を向け、殺伐とした。さらに、第二、第三の犠牲者が出た。犯人探しは魔女狩りの様相を呈し、プラントに勤務する女性医師アリシアが捕らえられた。しかし死亡者は増え続け、居住区に拠点を置くコロニー統括本部により、プラント区画の隔離が決定された。
プラント区画の住民はその政策に強く反対、居住区へのエネルギー供給停止を実施して抗議する。居住区はパニックに陥った。全ての生命維持に必要なプラントが閉鎖、機能しなくなれば火星のコロニーは全滅する。しかし、死亡事件が解決するまで、統括本部は人の往来を許可するつもりはない。備蓄が尽きるまで、籠城を決意した。
マイケル・ベルダーは居住区に住む微生物学者である。火星地下の微生物を調査する目的で入植したが、実は地球に身の置き所がなかった。腫瘍化ウィルスのワクチンを開発、全世界的に接種が開始されたが、副作用報告が多発した。ワクチンとの関連はなかったが、マスコミとSNS上の市民が正義の名の下に糾弾し、マイケルは職を失った。
プラント区画と居住区の対立に、解決の兆しはみられない。感染症を疑い、調査をしたいというマイケルの申し出を、統括本部は一笑に付す。入植者は全ての病原微生物が陰性。プラント区画の動植物は胚から無菌的に育てられている。そもそも火星に微生物はいないのだから、意味はない、と。マイケルは統括本部の説得をあきらめ、単身プラント区画に乗り込む。
拘束されていたアリシアを救出し、死亡者の詳細な記録を回収、感染症の発生を確信する。ヒトと畜産プラント内の動物による相互感染で変異し、高病原性を獲得したウィルスが病原体か。感染が成立すると爆発的にヒトの細胞内で増殖し、ウィルスは三分で免疫による排除が不可能な数に達する。コロニーに汎用抗ウィルス薬はない。
死亡者は増える一方。マイケルは有効なワクチン株を同定し、自前で持ち込んだワクチン製造キットで製造を急ぐ。完成まで三分となった時、マイケルは感染したマウスに噛まれてしまう。完成したワクチンをアリシアに託し、マイケルは崩れ落ちる。
死を覚悟したマイケルだったが、治療法を模索していたアリシアのおかげで、奇跡的に助かる。入植者にワクチン接種を呼びかけるが、地球でのマイケルの噂がコロニー中に広まっており、誰も接種を受けようとしない。死亡者は増え、マイケルは己の不甲斐なさを痛感する。接種したアリシアがプラント区画で治療に走る姿を見せ、ようやくワクチンは受け入れられた。
一連の騒動が終息し、マイケルは最初の死亡者が出たCO2発掘プラントを調査する。地下深くで採取したドライアイスの中から、地球には存在しない微生物が発見された。
文字数:1200
内容に関するアピール
ヒーローの3条件:
① 他の星からくる。
② 時間制限がある(だいたい3分)
③ 人類を救う。
そして、小学生のころに刷り込まれたヒーロー:野口英世。
これらをベースに、イメージ先行の子宮頸がんワクチン問題と、SNSにおける正義の名を借りた人々のいじめのような風潮を混ぜてみました。雰囲気やイメージだけで善悪を判断してしまう、そういう軽薄な態度が「悪」です。
事実に基づいて行動し、自分の選択に責任を持つ。それが私の「正義」です。その正義を大前提に、自分をあざ笑う、あるいは窮地に立たせた人まで、命を懸けて救う。主人公のマイケルはそういうヒーローです。ただ、専門分野が多岐にわたる現代では、ヒーローでも一人では物事を成し遂げられない。そこで、ヒロインのアリシアがサポートをします。
がんばったヒーローへ、火星にも微生物がいた、というおみやげも用意しました(笑)。
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