スタンド・アップ

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梗 概

スタンド・アップ

 ランパルトは火星で成り上がった親のもとに生まれ、足が生まれつき悪く杖をついて歩いているが、それ以外は特に困ることもなく過ごしてきた。俳優への夢をあきらめ、金あるので職もなく毎日ふらついている。

 火星国の民主党議員である弟の政治集会で、いつものようにちやほやされる弟を見てぶっ殺してやりたいと思うランパルト。地球でいらなくなった人の行きつく場所として火星に移民が流れ込んでいるとランパルトは思っており、弟の政治主張はその移民を受け入れ地球政府に媚びを売るように見える。火星は本格的に独立をすべきであるし、火星で成り上がって死んだ両親の考えと自分の考えは同じと思っていた。帰りの電車から降りると悲鳴が聞こえた。近づくと移民のような身なりの人が暴行しているのを見つけ、弟への怒りの発散として暴行する男の後頭部へ杖を振り下ろした。ケンカに慣れていないランパルトは杖を振り回し、たまたま悪人の目を傷つけ、悪人がうずくまった隙に何度も杖で叩く。ランパルトは自分のやるべきことを見つけたと思う。「悪と自分の力で戦うんだ」。家に帰ったランパルトは杖を手放し、脚に補助装置をとりつけた。

 ランパルトは駅で自警団の必要性を演説する。半笑いの聴衆とヤジが飛ぶ。それに対して主人公が答える「お前らはこの街のドブだ」。ヤジを飛ばした男はランパルトにつかみかかりこれでもかと迫る。ジェイという男が助けてくれる。ジェイと一緒にその場を離れ、食事をする。「おれはあんたと同じことを考えてたよ、人生はこういうことではないんだ、おれは本気でやるよ」。ランパルトに初めて友達ができた。

 ふたりは街のパトロールをはじめる。頑張るふたりも限界を知る。ひとり助けても別のどこかで誰かが被害にあっている。ランパルトは無力を痛感する。もっと大きなことをしなければ世界は救えない。組織を作らなければならない、そのために自分たちの存在を宣伝しなければならない。ランパルトは「弟は火星を地球へ売ろうとしている議員だ」というフェイクニュースを流す。議員の「兄」の告発によりランパルトは一躍有名になり、火星自警団に興味を持った人間が集まる。ランパルトたちは第二政府を作ることを考える。それは火星国への明確な反乱行為だ。

 火星国との戦争に向け組織化に忙しくなったランパルトが街のパトロールをしなくなっていたある日、悲鳴が聞こえる。そういえば一番初めに自分を突き動かしたのは何か。悲鳴だ。自分はどこかにあるはずの悲鳴に答ることができていない。目的が誤ってるので組織の解体をしろとジェイに促すが、ランパルトの思想は彼よりもずっと大きく組織の人間を動かしていてこの流れを止めることはできそうにない。

 このまま戦争にならないようにランパルトはジェイにナイフをつきつけるが、ジェイはナイフを強く握りランパルトの目を睨む。そこでランパルトは気づく、ジェイはおれの隣で悲鳴を上げていたじゃないか。おれはジェイに向き合わなければならない、ここに集まってくれた奴らとも。そして何よりも自分と。

文字数:1258

内容に関するアピール

「正義」とか「大きな物語」などと言われると胡散臭いと感じる今日この頃、かくいうわたしも、正義の名のもとに暴力が振るわれる状況に、そういったものは人には毒だと思っていました。しかしそれらの「正義」は本当の正義だろうか、いつのまにか間違った定義で話が進んでいないだろうか、このまま正義という言葉が価値をもたなくなり誰も正義を語ることをしなくなることこそが悪をはびこらせる原因なのではないか、と考えを改めました。複数の価値観が入り乱れる世界で「正義」を定義しなおすことはほぼ不可能でしょう。それでもちゃんと世界には正義という価値観があるのだと示せればよいと思います。わたしの「正義」の改訂の第一歩目は、隣で困っている人を助けるために「理想のヒーロー像」を捨てる男の話です。スーパーマンのような正義の味方はずいぶんと小さくなってしまいましたが、これで生き延びることができたでしょうか。

文字数:388

課題提出者一覧