52ヘルツの虚鯨

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梗 概

52ヘルツの虚鯨

 

おびえる兄を慰める妹。何かを怖がっているが、妹にはそれが何だかわからない。兄は一言「もし僕が悪役だったら世界を壊してしまうかもしれない」と告げる。

 

 

ドローン検索とMixed Realityによってすべてが数値化(ビッグデータが可視化)され、人の関心がデータマップ化されるようになった近未来。

主人公の首藤キリエはフリーランスのマーケター兼エンジニアである。興味スキャナというサーモグラフィのように人の興味関心を視覚化できるツールを用いて世界を分析し、3DCGのインフルエンサー「バレ・アイリッシュ」を操り企業の売り上げやブランディングに貢献するのが彼女の仕事。

彼女にはニートの兄(醍醐)がいる。彼は生命維持装置の組み込まれた電子棺桶に閉じこもり、世界からほぼ隔絶された状態にある。棺桶に取り付けられたインジケーターで「YES」「NO」「silence(沈黙)」だけ意思表示できるが、それ以外兄と何かを話すことはできない。

キリエはライバルの事務所の調査を行なっていく過程で、奇妙なデータの動きに気がつき、意図的に関心をそらすように働きかけているデータ上にしか存在しない虚構の怪物がいることに気がつく。まるで鯨のような奇妙なノイズを発するその怪物に命を狙われることになる。まるで海戦ゲームのように互いの居場所を探り当てる情報戦が行われる。

健闘するものの最終的に居場所を突き止められる。キリエはその奇妙な鯨の鳴き声のような音が、スマートスピーカーで探知し、居場所を絞り込むものだと気づき、急いで兄の電子棺桶とその場を離れる。

家が爆撃される。何とか逃げるが、街はガラガラで人っ子一人いない。交番にも人がいない。何とか安全地帯を見つけるものの、近づいてくる怪物の姿をMRゴーグル越しに見る。

絶体絶命のピンチの状況で、兄の電子棺桶のインジケーターが規則性を持って明滅するのが見える。モールス信号で「Connect The Line To Me」と「BrainFuck」を意味する言葉だということがわかる。

 

 

兄との過去が明かされる。ある映画(シャマランのアンブレイカブル)を見て「ひょっとして自分はヴィラン、悪役かもしれない」と怯えて電子棺桶に閉じこもったことがわかる。キリエは当時自分をいじめていた子たちが、知らない間に転校していたという事件に兄が関わっていたことを知る。

 

 

キリエは急いでカメラと、映像からテキストを入力できるコードを用意する。兄はYESとNOと沈黙の表示を一定の規則で動かし、BrainFuck系プログラミング言語(Grassの亜種)かのように、カメラに向けてプログラムを出力しはじめる。

MRゴーグル越しに、兄と不可視の化け物が戦っているのが見える。姿形は目には見えないが、彼らが干渉した人々の動きで、戦っているのが見える。兄がプログラムを打つと世界が青く光り、化け物が通った後は一瞬赤く光り、黒く表示されるので興味スキャナ上では巨大な二人の怪物たちの戦いが視覚的に見える。最終的に兄が勝利する。

 

戦いが終わった翌日、兄が日本の州法に違反する行為を多数働いていたという事実を知る。脅迫、買収、ハッキング。何が真実かはわからないが、兄のことで世間からなじられることを覚悟するキリエ。しかし、戸籍謄本が書き換えられており、自分には兄がいなかったことになっていることを知る。また、多くの犯罪行為に及んだ醍醐が実の兄だと主張する頭のおかしい女子が複数人現れ、ファンクラブができているという事実を知る。そのため、キリエもその一人だと思われてしまい、誰にも相手にされない。

兄との繋がりが途絶え自由になるが、酷い寂しさを感じる。

テレビのニュースであの奇妙な化け物が「政府にとって不都合な事実や公文書などを隠蔽する目的で作られたプログラムなのでは」という言説を耳にするものの真実は結局わからない。

奇妙な鯨のような声はもう聞こえない。

 

 

文字数:1612

内容に関するアピール

強く正しいヒーローといえば「仮面ライダークウガ」だと思っている30代独身男性です。

「なんだ子供向けの特撮ものか」と思うかもしれませんが、クウガにおける主人公五代雄介はまさに、今回のお題にぴったりなのです。

クウガの五代雄介は、仮面ライダーであり、ヒーローでありながらも、暴力や争いごとを嫌い、対話によって物事を解決出来れば一番良い、きれい事が一番良いんだと思っている純朴なニート(夢追い人)です。それ故に対話不能な怪人達によって人々が殺されていくことに心を痛めます。

「みんなの笑顔を守るために戦う」といって戦う彼が、むちゃくちゃ泣きながら敵と戦っているシーンを思い出すと、今でもその自分の中のヒーロー観が崩れたその瞬間を思い出します。

 

本作の主人公は対話不能な怪物に襲われ、絶体絶命の窮地に陥ったところを、強く正しいヒーローに救われ(?)ます。

強さと正しさの苦しさ、孤独、苦悩を命一杯描くつもりです。

 

あとSF的かどうかはわからないのですが、テッド・チャンの「理解」のような壮大なスケールでの戦いが好きなので、無駄にスケールが大きい戦いにしてみました。
海戦ゲームのように遠隔から索敵してぶっ殺す感じの戦いを描く予定です。

 

# ログライン
ドローン検索によりすべてが数値化され、人の関心がデータマップ化される世界で、データマーケターの少女が、数値上存在する意図的に関心を逸らそうとしている虚構の化け物の存在に気が付いてしまい、狙われて戦うSF。

 

52ヘルツの鯨

https://ja.wikipedia.org/wiki/52%E3%83%98%E3%83%AB%E3%83%84%E3%81%AE%E9%AF%A8

文字数:699

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