魔女っ子ミントちゃん☆オーバーライド!

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梗 概

魔女っ子ミントちゃん☆オーバーライド!

   内戦は燃料気化爆弾FAEで吹き飛び、瓦礫の街で少女が恐怖で声を殺し泣いていた。
   エチカは職場からの着信で悪夢から目覚めた。多忙な衛生局勤めの貴重な休みゆえ着信を無視し、身支度を整え家を出る。霧が満ちる灰色の街へ。内戦の後遺症たる腐敗と不均衡な技術条約とが、無責任な薬品霧スモッグを生んだ。未だ潜伏する反政府組織対策で上空まで壁に覆われた、風のない貧民街の中に。それでも衛生局が街中のスピーカーで汚染の警告を出すだけなのは、有毒な気体を街の上空で留める技術ゆえだ。エアロゾル化した極小の群体ドローンによる流体制御技術ミアズマは燃料気化爆弾の効果範囲計算のため発展し、応用された。
 そんな街で子供たちは誰かがハックした案内板から流れるアニメの配信に群がっている。
──魔女っ子ミント、顕現オーバーライド
 聞きなれたその声が街を歩くエチカの耳に届いたとき、以前衛生局で助けた少年がエチカに近づいてきて、問うた。この街は晴れないの、と。エチカは何も言えず少年は痛切な目をしながら嗤う。
 少年と別れ目的地のスタジオに着いたエチカは、言えなかった言葉を、収録マイクに叫んだ。もう声を殺して泣くのはまっぴらだった。
「この街のみんなを助けるため、魔女っ子ミント、オーバーライド!」
 収録が終わり、企画会議が始まる。ドローンを使った空中投影と3DCG化だ。エチカは演技の参考のためにミントの3Dデータを貰い帰宅する。
 翌朝、衛生局に出勤したエチカは、昨日の着信無視を後悔する。ミアズマの制御責任者である博士が燃料気化爆弾FAEの液体燃料とミアズマの制御システムを奪い逃走していた。博士を探すため街へ飛び出したエチカは、ハックされた案内板で少年と連絡を取り合い博士を捕える。
 エチカが少年と別れると、博士が街の汚染がもう制御できないと域だと告白する。燃料気化爆弾で上空の壁を壊し、空気の循環が必要だと。しかし、燃料気化爆弾をそのまま使えば、反政府組織が襲撃と勘違いし、再び内戦が起こる。
 エチカが準備した打開策は呼吸器の汚染と引き換えだった。だが、エチカは叫ぶ。声を殺して泣くのはまっぴらなのだ。
「魔女っ子ミント、オーバーライド!」
 街中のスピーカーから聞きなれた声。上空の霧に、3Dデータを元にドローンから空中投影された巨大な魔女っ子が顕現する。博士が操作するミアズマと同期したミントが放つ魔法──厳密に効果範囲を計算された燃料気化爆弾が、街の上空で風を封じていた壁を爆破する。
 街の全員が空を見上げて茫然とした。反政府組織は呆れ返り、子供たちははしゃいだ。
 徐々に街に降りかけていた薬品霧は払われ、ミントを投影する霧も風で霧散する。
 その後、博士は衛生局で確保され、エチカは呼吸器の汚染で入院した。
 エチカの病室の窓の外、晴天の下で少年が笑う。
「魔女っ子ミント、オーバーライド!」

文字数:1195

内容に関するアピール

わかりやすく言うと、復興魔女っ子スチームパンク天気の子。とはいえスチームでもパンクでもなくて、なら何なのかといえば『魔女っ子』を書きたかった。魔法あるいはフィクションはすでに現実の中に擱座させられていて、最近はとみに物語が『質感』を持つことが多々ある。ポケモンGOやVirtualYouTuberやVRチャット、物語が繁栄するために獲得した表現型の一部だろう。その前史として、超電磁マシーンボルテスⅤがフィリピンの建国史と重ねられ現地で浸透していたり、イラクのサマーワでキャプテン翼のイラストが張られた給水車が走っていたり、切実な形でフィクションがもとめられた。フィクションだけは、人間と違って『強く』『正しく』あり続けられる可能性があるから。なので、今回の強く正しいヒロインは魔女っ子ミントちゃんですね。フィクションである義務としていずれ消える霧としての『質感』しか与えられないけれど。

文字数:394

課題提出者一覧