梗 概
ビルロイドたち
砂漠の真ん中をフリーウェイが貫いている。
粗末な樹脂製の道路で、頑丈だけど凸凹、多分この星の終わりの頃まで、ずーっとこのままの状態をキープできるはず。
プピプピと数多くのビークロイドたちが、勝手気ままに走りながらその道の流れを作っている。特に申し合わせているわけでも、共通の交通制御命令に従っているわけでもないのに、その動きには明確な統制感があり、だから不可解でもありユーモラスでもある、プピプピ。
小さな夕日が遠くに光っているせいで、景色は黄ばんだ色に煙っている。あるいは砂塵の見せる色合いなのかもしれない。風景自体の明度は高くなく、そもそも黄色みや茶色みが強いせいで、鮮やかさとか目が覚めるようなといった感じはしない。言うなれば微睡みのようなとか夢の中のようなとか、そういう風にも思える。そう考えると夕刻というのもあながち正しいものとは思えなくて、朝なのかもしれないし、夜、白色矮星の光に包まれた風景かとも言えば言えるし言えなきゃ言わない。
まあ、そんな中、三体のビルロイドが朽ち果てている。
フリーウェイのすぐそば、ひらけた砂丘の片隅なので通り過ぎるビークロイドたちもその巨大な姿を認識しているはずなのに、ただの一体もそれらに興味を示すものはない、プピプピ。
立ちすくむお父さん体、二十階建ての人型ビルディングのオス型。両足の間のペニス様の出っ張り部分が垂れさがっていて何となくわびしい。
それを見守る形のお母さん体は、階高で言えばお父さん体よりも巨大で、先ほどのペニスに相対するヴァギナと呼べる引っ込みや乳房を模した出っ張りがあり、それはもう原始の頃から続く押し付けられた女性性の塊の様である。人型とは言え、ビルディングに過ぎないのになぜこうも強固にイメージが与えられるのか、などとここでは関係ないからもう止す。
座り込んで、一人すねてるような子供体は、二回りほど小さなビルロイド。お父さんとお母さんとの営みの結果として新しく製造された個体で、なおかつまだ発達成長のプロセス期にあったはずなのに、最も最初にその自立活動を停止させている。時間にするとそれは二百年ほども昔になるだろうか? 動かないビルロイドはただのビルディング。移動も成長もしない子供のそばでお父さんとお母さんも、同じように立ち止まった。
「ほら、頑張って、もう少しで海が見えるぞ」
「あなた、少しだけ休みませんか?」
「ヤだもう、僕、帰りたい」
そういうやり取りが容易に想像できる。
背後に視線を展開する。
そこには赤く澱んだ海原が、どこまでも静かに凪いでいる。フリーウェイはそこに突き刺さっている。だからビークロイドたちはあっけなくその中に落ちていく、プピプピ。
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内容に関するアピール
レイモン・サヴィニャック 1972 Les Grande Ensembles
まあ、何かすみませんという感じです。
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