Family Tree

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梗 概

Family Tree

円満な家族。満ち足りた生活。理想の人生。
 印画紙に写っているのは「幸福」を体現する家庭の居間のはずだった。

写真の元となった家庭を想像してみよう。
 ふかふかした淡色の絨毯はきっとベージュかグレーで、そのまま寝そべっても気持ちよさそうだ。落ち着いた色味のソファには色調が揃ったクッションが置かれ、さりげなく整えられている。来客者に気を遣って柔らかいカバーが掛けられている電気スタンドの傘は真珠のような乳白色で、点灯するとやさしく温かい光をもたらしてくれる。最新式のテレビは経済的な豊かさを示し、テーブルの上の華やかな花々はこの家の女主人のセンスの良さと意識の高さを物語る。室内はきちんと片づけられ、細部に至るまで念入りに掃除され、いつも居心地よく保たれている。
 撮影されたのは、一年で一番わくわくする日、クリスマスの朝だ。クリスマスツリーの根元にはたくさんの豪華なプレゼントが置かれている。贈り物を包む包装紙は、バーニーズやブルーミングデールズなどの老舗の有名百貨店のもので、真新しい印刷の匂いを漂わせており、きれいなリボンが飾られている。クリスマスだから包装紙は赤や緑、リボンは金色や銀色でコーディネートされている。
 この家の住人は、会社では有能だが家庭では子煩悩な父親、おしゃれで料理上手でいつも家を明るく整える母親、わんぱくざかりの長男とおしゃまな長女、天使のようにかわいい赤ちゃんだ。昨日の晩の騒ぎでぐっすり眠った子どもたちは、この部屋に来て目を輝かせてプレゼントを開ける。そしてきれいなドレスで着かざった人形、読みたかった冒険小説、欲しかった新品のグローブとボールなどを手に取り、満面の笑みを浮かべるのだ。母親は朝から明るい色の髪をきちんとカールさせ、おいしいパンケーキの朝食をつくり、今晩のメインである七面鳥料理の準備をはじめる。やさしい父はパイプをくゆらせて新聞を広げ、嬌声を上げる子どもたちを満足そうに見守っている。家族は安心と平和に包まれている。この瞬間、この喜びが永遠に続くと信じながら。

 しかし今や、プレゼントのリボンは解かれることはなく、色とりどりの包み紙は急速に色あせていく。テーブルの上の花々はぱさぱさに乾燥し、見る影もなく枯れ果てる。クリスマスツリーの飾りはきらきらと輝いているが、オーナメントは重力に負け、枝に無数の冷たいつららがぶら下がっているか、木が涙を流しているように見える。壁にかかった時計は明るい南国の太陽の形をしており、かつては温かい雰囲気を醸し出していたのだろう、しかし今や時は静止して動くことはない。ツリーは次第に奥の空間へと後退し、影は天井や壁に勢力を伸ばし、やがてはこの空間を冷たい闇へと落とし込む。

この家の家族たち、登場しない登場人物たちはどこへ行ったのだろう。
 延々と続く虚構の幸福を置き去りにして。

文字数:1176

内容に関するアピール

言及している写真は、ダイアン・ア―バスが1963年辺りに撮影した写真「Xmas Tree in a Living Room in Levittown, Long Island」です。ア―バスは戦後のアメリカで活躍した写真家で、最も有名な一卵性双生児の写真はキューブリック監督の映画『シャイニング』の双子のモデルになったと言われています。またア―バスはスーザン・ソンタグが敬愛したアーティストでもありました。
作品画像:<https://www.moca.org/collection/work/xmas-tree-in-a-living-room-in-levittown-li>

人気のない居間を撮ったこの作品は、肖像写真で知られるア―バスが、アメリカの中産階級の居間を写すことで家族の肖像を撮ったのだと解釈できます。しかしこの作品は、社会的地位や欲望の虚しさや儚さを示すとともに、なにか底知れぬ恐怖を感じさせるように思います。写真を見ていると、平穏な日常はひどく脆いもので、すぐそばに奈落が待ち受けているのだと実感させられる気がします。

この写真がラストになる物語は、本の中で登場人物が意図せず殺され、著者は作品の改変に激怒するも、作品はカルト的な人気を誇り、続きを書かなければならなくなる話です。実は虚構の生活に鬱屈した登場人物たちが殺し合いをしており、著者に面白い話を書かなければ殺すと迫り、著者はその試練を乗り越えますが、今度は自分が虚構の人生の主人公となっていることに気づきます。

 
 
 

文字数:635

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