らっきーどらごん

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梗 概

らっきーどらごん

島にはさほど大きくない山と巨大な冷却塔が幾つも並ぶ発電所があった。冷却塔から煙が上ることが島の見慣れた景色だったが、この日の朝は突然、山からも煙が出始めた。

噴火警戒Lv1
龍は本土から船に乗って島の港に着いた。港には猫の群れがいた。餌をあげに来た島の年寄りに猫は集まるが、一匹の白い猫だけがその輪に入らない。龍はチョコを与える。その猫はチョコを美味しそうに食べたが、「もしかしたらあれは猫ではなかったかもしれない」という出来事を龍は他に十人程が座る小部屋で話す。聞き終わると全員が熱心に拍手をする。部屋の大きな窓からは山の煙と発電所の煙が見えた。また海の向こうには本土の発電所の冷却塔までも見えた。発電所関係者らは休火山が突然活火山になることはありえないと言いつつ噴火時の対策を練っている。

噴火警戒Lv2
島の人たちは動物を嫌がり、猫に餌を与える年寄りを激しく叱る。島には大きな介護施設がいくつもあった。龍の話を聞いていた重度の三人、男の辰と女の未央と鳥子は、その「猫ではないかもしれない動物」という部分が気に入り、どういう動物なのか熱心に話し合い一緒に同じチョコを買う。

噴火警戒Lv3
島の火山活動が盛んになる。避難について噂が広まる中、取材をするメディアが大勢島に駆けつける。未央は働く風俗店の前で犬のような白い動物にチョコを与える。辰は体が悪く牛小屋の雑用仕事をしているが、牛小屋に山羊のような白い動物を見かけチョコを与える。鳥子は介護施設で働き、施設の砂場で白い馬のような動物にチョコを与える。龍は本土の発電所職員だが、職場で問題を起こして島で依存症治療を受けている。その夜は火山の麓で白い熊のような動物を見かける。それは「こっちへおいでよ」と手を振って山を登っていった。

噴火警戒Lv4
正式に全島民避難勧告が出され、軍隊の巡視船、護衛船が港に相次いで乗り入れ、港は人で混乱している。警察は全島民に避難指示を出して見回っている。四人は職場や周りから声を掛けられることもなかったが、次の集会を楽しみにしていた。メディアも自動カメラだけを置き退去した。街には何も動く姿はなった。冷却塔の煙も止まった。

噴火警戒Lv5
四人が集まる施設は閉まっている。山の噴火が始まる。四人は山のケーブルカーの施設に入る。マグマ型噴火の場合は火口の方が安全だという龍の説明でケーブルカーを動かして山頂へ向かう。その光景が複数のドローンやカメラに撮影される。撮影される角度で、それは流れるマグマの中を登る船のように映った。マグマの勢いは増し、発電所の周りを囲った鉄の塊も溶かし、火山が吹き上げた雲は島から見えた本土までを覆おうとしていた。四人は山頂で盛んにマグマを吹き出す火口で、持ってきた弁当を食べながら、チョコをあげた動物の話を楽しそうに始めた。火口には、四人がチョコをあげた巨大な動物が楽しそうに語り合う彼らの話に頷いた。

文字数:1200

内容に関するアピール

できるだけ誰でも知っている絵を選ぼうと思い、美術の教科書で見たベン・シャーンの「寓意」を選んだ。ベン・シャーンの絵は何度か展示会で見ているのだが、実物のこの「寓意」は見たことがない。ベン・シャーンの絵の多くは直接的なメッセージと物語があり、特にこの「寓意」は批判にさらされたことからも、いろいろな場で本人が解説をしている文章は断片的に読んだことがあった。ただ今回ベン・シャーンの「ある絵の伝記」を探して読んだところ、この「寓意」の解釈から彼が地面に立つことの理由のようなものが能弁な文体で書かれていて、わたしのとても大切な本になった。その大切な本になった理由を羅列して、最後にベン・シャーンの説明から全く離れたわたしの「寓意」の説明をした。
 わたしがどのベン・シャーンの絵からも感じるイメージは「乱暴的な可愛さ」だ。そんな感触の物語にしたい。

参考本:
ある絵の伝記  ベン・シャーン (著), 佐藤 明 (翻訳)
ベン・シャーンを追いかけて 永田 浩三 
ここが家だ:ベン・シャーンの第五福竜丸 ベン・シャーン , アーサー・ビナード 
絵のある世界 (新・ちくま文学の森)
火山学 (現代地球科学入門シリーズ)
地球を突き動かす超巨大火山 新しい「地球学」入門

 

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文字数:527

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気がついた時には溶岩が流れる火山の頂上でねていました、きみと。

(小学校中級以上)

そこそこなむかしむかしの言い伝え
山のふもとの川から大きな熊と一緒に船に乗って海までたどり着ければ、船に乗った者の願いは全て叶う。
山のふもとの川から大きな熊と一緒に船に乗って山の頂上までたどり着ければ、この島に住む皆の願いが叶う。

ロシタン島とクリケットの歴史
スペイン人コンキスタドール・ペドロ・デ・アルバラート率いる一団に追われたマヤ族の生き残りの人々は、手漕ぎ船22艙に乗り、60キロ先の太平洋上に浮かぶロシタン島に逃げ込んだ。するとスペインからも独立したグアテマラからも大方忘れられたこの島の人々は豊かな自然の下で勤勉に働き、子孫と牛とカカオの樹を大量に増やし続けていた。

人が良いロシタン島の人たちはエルサルバドルとグアテマラのギャングたちとの貿易でコカの葉をただ同然で渡していた。ギャングたちはさらなる商売発展を目論み、島をドラッグと暴力で満たそうと大型船いっぱいの黒眼鏡をかけた仲間達と乗り込んできた。しかし、もとから強い覚醒要素のある葉を日常的に吸っていた島の人々にとって、ギャングたちが持ち込んだドラッグは全くの不評であった。(島民の間ではエルサルバドルのコカインなんて「長靴の上から痒いところを掻く」ようなものだ。というのが一般的な評価であった)またもとより他人を疑い憎しみを持つことがない島の人々の間に、暴力も恐怖も根つかなかった。あまつさえ、やってきたギャングの少なくない人々は島に住み着き、牛の放牧やカカオの栽培を生業とする方を選択した。その中の一人、マニー・フリンもショットガンを四本爪のホークに持ち替え、牛舎で牧草の掻き出しをしていた。マニー・フリンは島での静かな生活に満足はしていたのだが、今まで毎週末サンサルバドル市内のクリケットクラブの試合が出来なくなったことだけがとてつもなく辛かった。彼が島に残ったギャング仲間でクリケット経験者を必死に集めてみても、その数は7人にしかならなかった。そこで彼はクリケット未開の地である、このロシタン島にクリケットチームを作ることに人生の全てを費やすことにした。牧草地帯の一部をグランドにし、農具の一部からクリケットの用具を全て作った。そして下は3歳から上は87歳までのクラブチームを結成し、三ヶ月後には3チームの総当たりリーグ戦を開戦できるところにまでなった。もちろんクリケットグラウンドと牛の放牧地を厳密に区切る手当はなかったので、そこかしこで牛が牧草を食む中でクリケットの試合が繰り広げられた。マニー・フリンは、誰もが試合中に全力を出し尽くして闘うこととティータイムにどれだけ砂糖とレモンを入れるかを徹底的に教えた。かれのそういう時に情熱的で時に牧歌的でもある科学的実践指導の効果が実り、島ではクリケットが唯一のスポーツとして栄え、20世紀には、世界的なプロクリケット選手を輩出することにもなった。

この短い物語は、世界中のクロケットファンのスターとなった黒い肌の女の子と白い肌の男の子と五日間の試合中に美味しいお茶を炒れ続けたサーバーの黄色い肌の片腕の男の子たちが、いかにクリケットの世界大会で活躍したかという単純な物語だ。そしてまた未だクリケットを知らないあなたに、このクリケット物語からクリケットの本質を知りえたのかを問う物語だ。

噴火警戒LV1
15歳のイージー・アール・ブレイキーはクラスの新学期にビッグ・ベティ・ストルカップが、自分の座高と同じくらいの大きさのクリケットのバットを背中に刺して学校にやってきた姿に一目でいかれてしまった。日本のゲームや漫画の主人公が持つ巨大刀のようにそのクリケットは黒く大きく、ビッグ・ベティ・ストルカップの黒い体の一部のようにしかみえなかった。さらにビッグ・ベティ・ストルカップの外見の一番の特徴は、上の前歯二本が無いことだった。それは隣合った二本でなく、中央前歯二本が残りその両隣の二本が無く、ビーバーの前歯状態になっていた。アールの隣に座ったラリー・リー・アーリーの大方聞き取れずに手振りを交えた説明によると、ベティの前歯が無くなったのはクリケットの試合でボウラーの時に相手選手が打ったボールが顔に当たって左側の歯が折れ、その選手がランですれ違ったときにバットで殴りかけらて右側の歯を折ったらしい。クリケットとはそういうスポーツなのだ。その話でさらに、イージー・アール・ブレイキーの体には熱い血が勢いよく巡り、授業中ずっとベティの前歯から目が離せなくなった。そして、一時間目の授業が終わるとアールはベティに結婚を申し込んだ。

ラリー・リー・アーリーの祖父は世界で初めて製氷機を発明したのだが、アメリカから来ていた太った糖尿病の歯科医に製氷機の使い方を教えてしまったため、その名前は製氷機製造の歴史には残っていない。歴史には残っていないが、中南米大陸に世界の何処よりも早く氷の普及を進め、子供達にはアイスクリームを大人達には冷えたビールを提供したことで、彼らが冷たい飲食をする前に「氷を作ってくれた誰かさんありがとう」と感謝をされることもあった。その長男にして、ラリー・リー・アーリーの父親はロシタン島にグアテマラ最大の牧草地を持ち高級牛グラスフェッドビーフの畜産に成功し、中国人妻の紹介から中国向けの輸出を広めていた。しかし、島に発電所が出来たころから牛の健康状態に中国側が疑問を持つと売値が2割落とされた。さらに生まれて間もないラリー・リー・アーリーが自動カウブラシに腕を挟まれて、片腕を肘から失くしてしまうと、発電所の影響か牛舎運営の問題点があると中国商社と衝突をすることになり、怒りやすい妻の通訳の問題から中国側は完全撤退をしてしまった。次に日本の外食チェーン店と専属契約を進めている最中にラリー・リー・アーリーの両親は、日本の築地市場で買った寿司弁当を一週間後の羽田空港の荷物検査所の手前で慌てて食べたところ食中毒を起こしてしまった。苦しみながら何とか飛行機に乗ったものの、飛行機内でCAが必死に「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか?」と声掛けをしてくれたが、アメリカ人の小太りな糖尿病の歯科医しか見当たらずに「残念ながら為す術がありません」と日本語で適当に謝られた。二人は飛行機で苦しみ大声を上げて苦しんだあげく、グアテマラのラ・アウロラ国際空港内の簡易診療所で隣同士のベッドで揃ってほぼ同時に亡くなった。2歳のラリー・リー・アーリーが親戚に連れられて、グアテマラに着くころには、両親は小さなペンダントに入れられた骨になっていた。そして、ラリー・リー・アーリーがよくわからないうちに、両親の持っていた土地も牛も猫のシンバも親戚達に全て取り上げられ、使用人の一人であったビッグ・ベティ・ストルカップの家族と一緒に育てられた。そして、片手がない黄人のラリー・リー・アーリーは同じ年で黒人のビッグ・ベティ・ストルカップにしか、まともな言葉を話せなくなっていた。

ビッグ・ベティ・ストルカップが4歳になって地元のクリケットクラブに入ると、片手がないラリー・リー・アーリーはクリケット練習に入ることは諦めたが、クリケットのティータイムでカカオ茶を炒れるサーバーとして修業を始めることにした。

ビッグ・ベティ・ストルカップは生まれて二週間後には毎週父親の参加していたクリケットクラブに連れていかれた。歩く前から自分の背よりも大きなクリケットバットを握り、飼い猫のナラより重いクリケットボールを放り投げていた。3歳になると正式にクリケットの幼少組に入ったが、誰よりも速いボールを投げ、誰よりも大きなバットを振ってボールを遠くに飛ばした。小学生にあがると、12歳までのクラスでも突出した選手として、その名前は島からグアテマラ本土にまで噂が広まった。小学校には、毎日ラリー・リー・アーリーの手がある方の左手を繋いで通った。クリケットコートに立つ以外は殆どラリー・リー・アーリーとビッグ・ベティ・ストルカップはくっついて暮らした。ラリー・リー・アーリーは、グアテマラのテレビや新聞にも度々取り上げられた小さな黒人ビッグ・ベティ・ストルカップといつも一緒にいることに誇りを感じていた。また、茶葉を自分で摘んで日干しから発酵まで完全に一人で丁寧な仕事をするようになり、ベティのクリケットの試合では、ティータイムには、リーのお茶を目当てに観客や審判や敵チーム選手までもが列を作って並ぶようになった。ビッグ・ベティ・ストルカップが12歳の誕生日にママはベティのために二日かけて、ブレイズ・ヘアを編んでくれたが、それから三日後にルート16で牛運搬トラックに轢かれてママは死んだ。ママが亡くなるとパパは仕事に行かなくなり、家で韓国のオンラインゲームをしながらカカオ酒を飲むだけの生活になった。親の収入がなくなったところで、ベティはプロの選手となり、毎週末はリーと一緒にグアテマラの本土に試合に行き、冬休みは、一試合五日を要するフルゲームに出場しつづけて、「自分の体よりも大きいバットを振る小さな黒い英雄」として、ビッグ・ベティ・ストルカップの活躍は南米中から欧州にまで注目を増していった。

ベティはクリスマスの夜、グアテマラの遠征からの帰りにケンタッキーフライドセットを買ってリーと手を繋いで、クリスマスリースが掛かった家の扉を開けた。家の中からはワム!が歌うラストクリスマスが聞こえていた。居間ではIBMのパソコンが点いてパパがやっていたオンラインゲームの戦士がザッツザッツと規則的な音を立てて剣を振り続けていた。そして、その上の梁にバスタオルを巻いてパパが首を吊って死んでいた。ベティは買ってきたケンタッキーフライドセットをパパに向かって投げつけると、二階の部屋へ駆けあがって行った。画面では戦士が必死に敵を見つけようと未だ見つけられない敵に向かって剣を全力で振り続けていた。ベティが大きなバケット毎投げたケンタッキーフライドセットのために、パパの黄色と黒色の縞模様靴下を履いた両足は画面の戦場の上をゆらゆらと揺れていた。

リーは、電話で警察を呼ぶと丁寧にお茶を入れ、二階のベティの好きな熱いカカオ茶を持って行った。警察への対応はリーが一人だけでしようとしたが、警察官はリーの言葉が全く聞き取れなかったので、ベティが落ち着いたらまたくると言って、当たりの写真を撮るとパパの死体だけを梁から下ろして持って行った。リーがベティの部屋をあけると、ベティは音を立てて素振りをしていた。大きな背中に構えたバットを真下に下ろしてまた体ごと上方向に捻る動きを、リーが入っても10分は続けた。それから、バットが手から床にすり落ちると立ったまま体を動かせないかのように固まってしまった。リーがベティに近づくとベティはリーを強く抱きしめた。リーはベティの頭を片腕で抱くと小さな三つ編みのブレイズ・ヘアはびっしょりと濡れていた。二人は強く抱き合ったまま、その夜は同じベッドで一緒に眠った。

太陽が海から顔を出す直前にビッグ・ベティ・ストルカップが目を覚ますと、ラリー・リー・アーリーも目を開けていた。ベティは、肘から先の無いリーの腕を優しく指で撫でた。リーの肘の断面の中央には穴が空いていた。ベティは、ここに指を入れていい?とリーに訊ねた。リーは暫く考えてからベティの目を見て頷いた。ベティは右腕をリーの髪の毛の後ろに回し、左腕をリーの右腕に向けて肘に空いた小さな穴に指を入れた。二人は目を見つめ合い、そうやって懸命に自分たち二人だけの秘密を共有しようとした。

それから、二人は家にいるときだけでなく、学校でもクリケットコートでも遠征中のバスの中でもこっそりとリーの右腕の穴の中にベティはそっと人差し指を入れた。二人は顔を赤らめながら、必死にお互いをつなぎ止めようとした。

ハイスクールに通う15歳のビッグ・ベティ・ストルカップとラリー・リー・アーリーは両親を失っていたが、15歳のイージー・アール・ブレイキーは、島が見渡せるラ・セイバ山の上の屋敷に一人の父親と三人の母親と一緒に暮らしていた。父親も三人の母親もが、わたしたち三人があなたの母親なのだと言うので、多少の疑問を抱えた上で、イージー・アール・ブレイキーは自分には三人の母親がいるという状況を受け入れていた。イージー・アール・ブレイキーは一度も学校へ行ったことはなく、数人の家庭教師に学習と運動と音楽を教わった。アールには人並み外れた努力をする才能があり、本来は並であることを自覚している能力を、全く苦としない鍛錬を隠れて積み上げることにより、周りには人並み外れた能力であると誤解させ、両親や家庭教師はみなアールこそ将来米国合衆国大統領になるべきだと言い続けるほどだった。

その日イージー・アール・ブレイキーは山頂の屋敷から15分かけてケーブルカーで山を下りて、母親の一人マーブル・レッスンが運転するキャデラックの後ろに母親のデイリス・レッスンとレイチェル・レッスンの間に挟まれてサン・フアン・サカテペケス・ハイスクールへ向かった。そして、最初に入った教室でビッグ・ベティ・ストルカップを一目見ただけで心を奪われ、一時間目が終了したときには結婚を申し込んでいた。

イージー・アール・ブレイキーは、クリケットを見たことが無かった。その日は、迎えに来た母親達を断ってビッグ・ベティ・ストルカップとラリー・リー・アーリーが手を繋いで歩く後ろを着いていき、クリケットクラブの練習に無理矢理参加した。イージー・アール・ブレイキーには、クリケットは投げて打ち走るだけの単純な競技に見えた。クラブのコーチが投げるボールもいきなりバウンダリーまで打球を飛ばすことが出来た。ベースボールの要領はつかんでいたので、コーチがいくら助走をつけて全力でボールを投げても空振りをすることはなかった。クラブの皆がイージー・アール・ブレイキーに次第に注目を集めると、ベティがピッチに向かい、コーチからボールを奪い取ってボウラーとなった。ベティは助走もつけずにポッピング・クリースの上で肘をいっぱいに伸ばしてアールに向けてボールを投げた。アールは思い切った空振りをし、スタンプの前に出した足にボールが当たって倒れた。それを見ていたクラブの全員が口笛を吹きながら拍手をした。ただベティだけは真剣な顔をして、もう一度アールを立たせて、今度は助走をして思い切ったボールを投げるとベティの体は勢いよく空を切り、ボールはウイェット上のベイルを落とした。拍手と口笛。アールは、また起き上がるとベティにボールを投げるように要求する。ベティは怒った顔で、またアールの足にボールを当てた。拍手と口笛。アールは、また起き上がってベティにボールを投げるように要求した。ベティはさらに怒った顔で、またアールの足にボールを当てた。拍手と口笛。アールは、また必死に立ち上がるとベティにボールを投げるように要求する。ベティは無表情で長い助走をつけて、アールの体に向かってボールを投げたが、アールは避けずにバットを思い切って振り切った。バットを掠ったボールはアールの顔に直撃して、アールは鼻血を出して気を失った。

イージー・アール・ブレイキーが意識を取り戻したときには日が暮れかかり、ビッグ・ベティ・ストルカップはコーチの投げるボールをコートに散った各メンバーの守備位置へノックをしていた。脇を締めた体全体を使った美しフォームから飛び出た代休は夕陽を背に美しい放物線を描いた。ラリー・リー・アーリーは精一杯の笑顔を作ってお茶をイージー・アール・ブレイキーに差し出した。ノックが終わって選手達が守備位置から戻り始めると、コーチが助走をつけて勢いよく投げたボールをベティはネジのように素早く捻り、ワンバンドしたボールを天高く打ち返した。ボールはあっという間に夕陽に向かって吸い込まれて見えなくなった。アールはティーカップをきつく握ったまま立ち上がり、そのビッグ・ベティ・ストルカップの動作を寸秒も逃さず新学期の夕陽と共に脳裏に焼き付けた。クラブの練習は終わり、皆がグラウンドから去り、そこかしこに見えた牛たちも牛舎に戻っても、イージー・アール・ブレイキーは、バットを振り続けた。その日、何時にイージー・アール・ブレイキーが家に帰ったのかは夜泣き鶏にも分からなかった。

次の日は、教室にイージー・アール・ブレイキーの姿は無かった。ベティとリーがクラブのコートに向かうと、アールは、昨日と同じピッチの上で打撃の練習をしていた。昨日と同じようにベティにボールを投げさせると、何度かはバットに掠るようになり、何度かはやはりボールが体に当たったが、ボールがウィケットにあたることはなかった。ベティもウィケットに当てられないことがわかると、アールに向かって苦笑いを浮かべた。そしてまた、アールは一人で居残ってただただ素振りの練習を繰返した。ベティはリーと手を繋いで帰る途中も、アールの姿が暗闇に溶けるのを見ていた。三日目もアールは教室には出てこなかった。またクリケットコートで素振りをしていた。他に人が誰もいないコートでは、数匹の牛たちがアールの近くで囲むようにして時に草を食み、時に咀嚼しながらアールのバッティングフォームを観察していた。この日もベティがボールを投げると、バットに掠ってアールの鼻に直撃したが、アールは両足で踏ん張って倒れなかった。二球目、ベティは真剣な顔で公式戦でも見せないような長距離の助走をつけてボールを投げると、アールの振ったバットにあたり、ボールは後ろに勢いよく飛んだ。後方にいたサードマンの前にゆっくりと転がった。アールはバットを持ったまま反対側のウィケットに向けて全力で走ると、サードマンはスタンプに向けて投球をし、間一髪アウトになった。すると、ベティだけでなく、他の守備員も周りで様子を見ていた他の選手もティーカップを抱えたラリー・リー・アーリーにも緊張感が走った。三球目もベティが同じように長い助走で投げると、バットに当たったボールはボウラーのベティ目がけて飛び、ベティはジャンプをして素手でボールを取った。クリケットではグローブがないため、ライナーでボールを取ると激しい音がして、アウトと引き換えに選手は負傷をしてしまうことが多い。しかしベティは一瞬だけ顔をしかめると、すぐに次の投球に入ってボールを放った。アールはワンバウンドのボールを素早く見極めるとできるだけひきつけてからバットを振り抜くと、ボールはロングオンとロングオフの間を抜けてバウンダリーまで転がっていった。クラブの中でもベティの玉をそこまで飛ばす者は他にいなかった。ボールがバウンダリーまで到着するのを見届けてから、アールはベティの立つウィケットをタッチして言った。ぼくたち結婚しようと。そしてベティは仕方が無いような口調で、わかったよと言った。

クラブのメンバーも監督も拍手をしながら、二人のもとに近づいて祝福をしたが、ラリー・リー・アーリーだけは、片手がないために、拍手をせずに一人で先に帰った。

ベティは自分より強い選手を初めて間近に見た。またベティはアールが自分よりボウラーとしてもバッツマンとしても優れた選手になることは、すぐに理解できた。アールが真剣に練習をする姿は誰が見ても、特別な光景だった。アールがバットを振る姿は、常人では作れないようなまるで宇宙真理の解を見るような神々しい力を感じた。彼の真剣さは、まるで周りの物質を吸収して成長しなければならないというような危うい切迫さも感じられた。

ベティは、アールと一緒にクリケットをしたいと願った。これからイージー・アール・ブレイキーの少しでも近くまで寄るのだと。アールが走りながら全力で投げるボールを見て、アールの体全体で打ちあげる打球を見るのだと。何度も何度もできるだけ長く一緒にいるのだと。

15歳の二人は結婚の約束はしたが、二人とも結婚というものをどうしたらいいのか何もわかっていないふりをして、生活はいつも通りにベティとリーは二人の家で暮らし、アールはケールブカーを使ってラ・セイバ山上にある屋敷で暮らした。アールは毎朝起きる度に、ベティとの結婚のことを家族へ話そうとするのだが、父親にも三人のどの母親にも話すことができなかった。そして、父親と三人の母親と朝食を取る度に、ぼくはベティと本物の家族を作るのだと窓から見える火口に向かって誓った。

アールが入ったクラブチームはグアテマラ最強のチームとなり、今シーズン一度も負けたことがなかった。アールとベティの二人が同時にストライカー、ノンストライカーとしてピッチに入ると、二人からひとつのアウトを取ることは難しかった。時には、二人の攻撃中にティータイムを3度はさみ、二人で256点を入れたところで、日没ゲームになったこともあった。ベティをとりあげたテレビや雑誌は、今度は突然現れた15歳のハンサムな白人の男の子をヒーローとしてとりあげた。その中性的な幼い容姿と、クリケットのトレーニング以外何も関心が無いような受け答えが注目を浴びて中南米中の女性雑誌の表紙を飾った。それと同時にアールはクリケット競技の実力でも世界的に高く評価され、ニュージーランドのオークランドで開催される国際クリケット評議会の年間優秀選手11人の1人として招待されることになった。

「オークランドから戻ってきたら。結婚式を挙げよう」
「簡単な式がいいな。あなたのお父さんが仕切ると。米国大統領まで来そうで嫌だよ」
「いいよ。両親と近しい親戚だけを呼ぼう」
「両親も親戚もひとりもいないよ」
「あーごめん。結婚式なんてものは二人だけでいいよな」
「リーを呼んで。三人だけでやろう」
「そうだね。リーのお茶は。ぼくもとても好きだ」

二人は、学校かクリケットのコートでしか会ったことはなかったし、ボールを手渡す距離以上に近づいたこともなかった。この日もクリケットクラブの練習前のピッチ上で二人はバットを持って両端のウィケットに離れて(約20.12メートル)心持ち大きな声で会話をしていた。

「結婚式が終わったら、わたしたちどうする」
「試合があるから。しばらく新婚旅行は行かなくていいよ」
「じゃあ式が終わったら、わたしたち二人はどこへ行くの」
「そうか。まだ家を買えないから、ケーブルカーに乗って山の上で一緒に暮らそうよ」
「なんであんなピカピカした所へ行かなきゃいけないの。アールあなたがうちに来なよ。リーもいるよ」

「いいけど。君の家に。でも冷凍庫クランベリーのアイスクリームはある」
「え?」
コーチがパンパンと手を叩いていつものように大声で叫んだ。
「さあ、ボーイズアンドガールズ。今日のゲームをはじめよう」

クラブのメンバーたちが、テラスからぞろぞろと芝に出てくる。ビッグ・ベティ・ストルカップ一人が唇を噛み顔を強ばらせて、テラスに戻ってくる。ベンチに座り、膝に両手をつき、顔を隠すようにして長い間下を向いていた。お茶の支度をしていたラリー・リー・アーリーが、ビッグ・ベティ・ストルカップの肩に手を乗せる。ベティの肩は震えるが、そのリーの手に自分の手も乗せる。

「リー。ごめん。わたし。アールのことがすごい大好きだったよ」
ラリー・リー・アーリーは、ビッグ・ベティ・ストルカップの肩を何度も叩いた。そうやってベティの肩の震えが収めようと、それをいつまでも続けた。

飛行機が嫌いなイージー・アール・ブレイキーは、招待状に入っていたニュージーランド行きの航空券を売って遠洋マグロ延縄漁船の船長へ渡した。これで足りますか、と聞いてくるアールに、俺と子供のために、あんたがバウンダリー越えを打ってくれれば、お安いご用だ。あんたは俺たちの誇りだ。と船長はキセルを銜えながら答えた。

港に留まっているラッキードラゴンという名前の遠洋マグロ延縄漁船は、アールが想像した大きさよりとても小さく30メートルの木造船だった。まだ太陽も出ていない早朝の港にはイージー・アール・ブレイキーの屋敷に住む家族と使用人が正装で揃い、街のマーチングバンドがTime to say good byeを演奏していた。クリケットチームは、ユニフォーム姿でクリケットバットを片手に、皆自分のことのように誇らしい気持ちで整列をしていた。その端にベティとリーが手を繋いでいた。

小さな木造船にはふさわしくない大量の紙テープと音楽に送られて、ラッキードラゴンは港を離れていった。ビッグ・ベティ・ストルカップは、見送りの人たちが帰る中も、船が見えなくなるまでずっと立ちつくしていた。なんだかとても嫌な予感がするね、とラリー・リー・アーリーに言った。

急に地面が下から突き上げるように一度だけ大きく揺れた。島民はみな一斉に腰を下ろす衝撃があった。そのうち半数の島民はそれほどは大きくなくアールの家が建つ山頂を見つめた。揺れは一瞬だけだったので、安堵のため息とともに立ち上がった。

それほど大きくは無い地震に安心をして、ベティとリーは手を繋いで家に向かった。港からはアールの家が建つラ・セイバ山と同じくらいの高さの発電所の幾つもの冷却塔が、同じくらいの高さに見えた。発電所からは薄い灰色の煙が出続けていた。よく見ると、見慣れた冷却塔の煙の隣で、ラ・セイバ山からも煙が出ていた。

噴火警戒LV2
イージー・アール・ブレイキーは激しく揺れる遠洋マグロ延縄漁船「ラッキードラゴン」の甲板上でも、一日中トレーニングをしていた。ロシタン島が噴火したニュースはすぐに「ラッキードラゴン」にも届いていた。ロシタン島を出発して四日目。船長から、きみの両親は火口の家から避難をして、今はエルサルバドルのサン・サルバドルに家をみつけたと連絡があったと言われた。乗組員は皆甲板に出て、揚縄作業をしていた。噴火と言ったって、よく見なければわからないような薄い煙だけどな。石が降ってくるわけじゃないし。そのうち温泉が見つかって、観光島になるんじゃないか。と言う船長の言葉にもアールは素振りを繰返していた。アールがバットを振るのを止めて、島があった方角を探して顔を向けると突然船を閃光が包み、すこし遅れて爆音が船を襲った。

ロシタン島では火口周辺に立ち寄らないよう警報が出たことと火口近くに家があったブレイキー家族が避難をしただけで、他の島民にとっては何も変わらない日常が続いていた。ただ島民では無い者達の出入りが多くなった。発電所関係の人達が島に大勢押し寄せ、また発電所施設の周りでは壁の建設を始めだした。

ニュージーランドに向かったアールを乗せた船が太平洋上で、何かの事件に巻き込まれて引き返しているという連絡とともに、たくさんのメディアが島に訪れていた。ようやく、港からも船が見えるようになると、どこからかグアテマラの軍隊がトラックでやってきて、港に集まった人々を遠ざけるよう誘導を始めた。ラッキードラゴンがゆっくりと港に船を着ける時には降りてくる乗員を見えないように覆いで囲まれ、数台の救急車がその中に入っていた。港に集まった人たちは、ただ救急車と軍隊の車が入れ替わり出入りするのを見るしか無かった。そして一時間ほどして覆いが取れると、軍隊の車も帰って行った。ラッキードラゴンの乗車口や船手摺りには全て黄色い立ち入り禁止のテープが巻かれていた。港から見える山から噴火の煙は同じように出続けていたが、隣に並んでいる発電所の全ての冷却塔は既に煙が止まって、白い壁がその周りを覆い始めていた。

噴火警戒LV3
船が港に戻ってから一ヶ月が経ってようやく、ビッグ・ベティ・ストルカップとラリー・リー・アーリーは、イージー・アール・ブレイキーが入院する病室に入ることが出来た。他の乗組員が、どこにいるのかどういう状況なのかも全く情報が手に入らなかった。病室のベッドに寝たままのイージー・アール・ブレイキーは、透明シートで覆われ、顔も体も真っ赤になり、顔は倍くらいに膨れ上がっていた。口や体中に沢山の管が刺さって、ベッドの横のモニタはいくつもの波長を描いていた。ベティがシートを捲ろうとすると、ロクサンヌ・ミルバンク看護師が今は治療中なので、体に触れることも話すことはできませんと言われた。いつになったら話が出来るの?とベティが詰め寄るとロクサンヌ看護師は頭を下げるだけだった。そして、イージー・アール・ブレイキーさんがICUから病室に移された時に、短い間意識が戻ったのか、少しだけ話した言葉をわたしメモしましたと言って、ポケットから強壮剤の宣伝が書かれたメモ帳に、ロクサンヌ看護師の殴り書きで書かれていた文字をベティは読んだ。

港に猫がいてチョコレートをあげたら、美味しそうにチョコを食べたのだけどよくみると猫じゃなくて熊だったよ。って、え?これって、意識不明の病人っぽくない。ずいぶんとしっかりした文章ですね。実はイージー・アール・ブレイキーさんだけは、船から自分の足で下りて、猫にチョコをあげていたらしいのです。ほんとに?そして、クマと叫んで倒れたと聞いています。そうですか。それから、線路に微妙な石を起かないでください。鍵は植木鉢の下にあるよ。気がついた時には溶岩の流れる火山の上で寝ていた。ハムポテトサラダサンドイッチ食べたい。

「よく、こんなわけのわからない言葉書きましたね」
「人の寝言が好きで研究しているの。寝言に話しかけたりすると、楽しいんですよ」
「アールには絶対そんなことはしないでください」
ベティはメモを丁寧に伸ばしてから、自分のポケットにしまった。
「何かの暗号かもしれないので、持って帰ります。ここでずっと生活しても良いですか?」
「だめですよ。あなた、わかって聞いてるでしょ」
「わたしたちもう結婚してるんです」
「夫婦でもだめですよ」
「看護師さんは本物の結婚をしていますか?」
「本物?まあ、だいたい。それなりに。いや、どうなのかなあ。何それ。結婚なんて紙っぺらが何だって言うの」
「ああ、はいはい。そうなんですか。もういいです」

ロクサンヌ・ミルバンク看護師は怒り出して病室を出て行ったあとも、ベティとリーは手を繋いだまま、じっと真っ赤な姿になってしまったアールを見続けた。窓からは、ラ・セイバ山の噴火の煙が見えた。ベティには、透明なシートが何層も何層も島全体を、もしかしたら世界全体を覆い始めているように見えた。

二人は役所に行って、結婚届について窓口に訊ねてみたが、今のイージー・アール・ブレイキーの状況では結婚届を提出できないと丁寧な説明を受けた後に、ビッグ・ベティ・ストルカップに「C.L.Rジェームズさんへ」と書いたサインを頼まれ、イージー・アール・ブレイキーの具合がよくなったら彼にもサインをしてくれないかと、市役所のメモ帳を一冊渡されて帰った。

家に帰ると、ベティは一緒に使う予定であった部屋の家具を全てどかし、そこに赤鉛筆でイージー・アール・ブレイキーの赤くなった姿を描きだした。次の日は学校もクリケットクラブにも行かず壁にアールの絵を描いた。次の日はリーと一緒に病院へ行き、またシートの向こうで眠り続けるイージー・アール・ブレイキーの姿を食い入るように見続けて、面会時間が終わると途中でホットドッグを買って帰り、また家で壁にアールの絵を描いた。絵は実際のイージー・アール・ブレイキーと同じくらいの大きさで、服を着ていない裸のアールは四つん這いで髪までも赤く逆立っていた。

リーはロクサンヌ看護師が書いていたイージー・アール・ブレイキーの寝言を自分で紙に書き直し、何度もその文字をリーなりに一語一語丁寧に声に出して読み出した。何度目かの「よくみると猫じゃなくて熊だったよ」を繰返すと、壁に描かれたイージー・アール・ブレイキーの絵を指出して「クマ、クマ」と叫びだした。目はビッグ・ベティ・ストルカップを見つめたままそういう意味がベティには分からなかった。ベティはリーに近づき、リーの腕の穴に人差し指をそっと入れた。

4歳のビッグ・ベティ・ストルカップとラリー・リー・アーリーはプリスクールで机を並べて座っていた。若い女性教師ジュディー・ジョーンズは、ロシタン島の歴史を、自ら描いたかなり写実的な絵の紙芝居にして説明をしていた。

コンキスタドール・ペドロ・デ・アルバラート率いるスペイン人たちはがマヤ族たちの宝を奪い、女を犯し、若い男達を縛って奴隷にしました。子供や年寄りはどうしたの、という想定内の質問にジュディー・ジョーンズは感情を込めて、八つ裂きに殺しました。と話すと、半数の子供達は泣き出してしまったが、ジュディー・ジョーンズは、次々に次作の絵を捲って紙芝居を続けた。

マヤ族の生き残りの人々は、手漕ぎ船22艙に乗り、60キロ先の太平洋上に浮かぶロシタン島に逃げ込んだのです。島に逃げ込んでも、スペイン人たちに奴隷にされたり犯されたくはありません。船に子供達は何人いたの?子供達は全員八つ裂きにされていました。とまた恐ろしい声で説明すると、残りの半分の子供達も泣きだした。つまり、ここで泣いていないのはビッグ・ベティ・ストルカップとラリー・リー・アーリーの二人だけだった。そこでマヤ族の人たちは、船を下りずに島の川を懸命に上り始めました。川にはワニがいて、両側の森にはトラやクマが船を珍しそうに船のマヤ族たちを襲おうとしているようでした。何艘かの船はワニに襲われ、川岩に衝突して船は沈んでしまいました。そして沈んだ仲間達はピラニアに食べられてしまいました。しばらく川を上ると滝にぶつかり、ここからは川を上りません。ここで半分の船に乗った人たちは、もう一度船で海まで戻り森の入り口でスペイン人たちを見張れるように住処を作ろうと言いました。残りの半分の人たちは、できるだけ高い場所を見つけて住むのがマヤ族の誇りだと言い、荷物を乗せたままの船を押して森の山道を登ろうと言いました。二つの意見は一致すること無く、持ってきた食料で夕飯を作ってお茶を飲んでタバコを吸ったあとで、ここで二手に分かれることにしました。各々が無事についたら「友よまた会おう」という約束をして半分の人たちは船に乗って川を戻りました。そして半分の人たち船を降りて森の中を荷物を積んだ船を押して山道を登りました。

滝脇の道はとても厳しく、何人もの仲間は崖から落ちました。また何人かの仲間は森の恐ろしい獣たちに食べられてしまいました。ようやく地を覆う樹木が少なくなり、山頂が見えてきました。最後の力を振り絞ろうとすると、なんとクマの集団が船をめがけて襲いかけてくるではありませんか。殆どの人は船を放って山を転げるように逃げていきました。一艘の船を引くホセ・アルカディオ・ブエンディアとウルスラ・イグアランの夫婦にして又従兄弟でもある家族だけは、仲間の声が聞こえずに一心不乱に船を押し続けました。すると、クマたち5匹はその船の中に乗り込んでしまいました。今度は船が重くて動かせません。仕方が無いという体で熊たちは一匹降りては船を動かす手伝いをし、最後に船に一匹のクマが乗って四匹のクマが船をおすと船はグイグイと前に進むではありませんか。殆ど山頂近くになるとクマたちは船を止め、ずっと押し続けていたホセ・アルカディオ・ブエンディアとウルスラ・イグアランの夫婦を船に乗せました。そしてクマ一匹と男女二人を乗せた船はついにラ・セイバ山の頂上に辿り着いたのです。また彼らがクマと一緒になって山や川でバラバラになった仲間たちみんなが無事でありますようにと山の神様に祈ると、トラやワニやピラニアに襲われたと思った仲間達がぞろぞろとラ・セイバ山の頂上を歩いてくるのが見えました。そこでベティとリーが拍手すると、今まで泣いていた子供達も笑顔になった。そして、船で川を戻って海に向かった人たちともお互いの無事を確認できました。なんと彼らも川を下っている途中にクマが船に乗ってきたというではありませんか。流れが急になった川を下りながらクマと一緒に仲間達の無事を祈ると言うではありませんか。数人の拍手にジュディー・ジョーンズ先生はとても満足して、最後の紙芝居をめくってロシタン島のお祭りの説明をした。

それから島では毎年夏の一番暑い日、マヤ族が川を上ったり下ったりした日を記念して、木の葉で作った船にカカオの実で作ったクマを乗せて、自分たちの祈りが叶うようにと、川に船を浮かべるようになったのです。

両手にクマの人形と船を持っている子供達は歓声を上げて立ち上がり、ジュディー・ジョーンズ先生に連れられて、眩しい太陽が待ち構えている山の麓へ向かって駆けだした。ビッグ・ベティ・ストルカップとラリー・リー・アーリーは片手で手を繋ぎ、ビッグ・ベティ・ストルカップが二艘のクマを乗せた船を持っていた。

真夏の山の麓にある森の中は鳥たちの鳴き声に溢れていたが、それに負けないくらいの子供たちや、大勢の島民たちの愉快な話し声で満ちていた。各自が作ったクマと船を川に浮かべると、葉の船は勢いよく川面を滑っていった。ジュディー・ジョーンズ先生は子供たちの後ろを歩きながら独りごちた。「でも、海や山にたどり着ける船なんていないけどね」ビッグ・ベティ・ストルカップとラリー・リー・アーリーは、自分たちの作った船の横をしばらく走っていたが、やはり葉の船は川の水に飲まれクマと一緒に沈んでいった。

その日の夜、ビッグ・ベティ・ストルカップは、ラリー・リー・アーリーと一緒にヤナギの木で小舟を作った。一週間後、二人は、10を越える木の小舟にクマを乗せて川に浮かべた。次々に船の中に水が入って船は転倒してクマは溶けて川の中に沈んでいった。最後に残った一艘を見ながら、ビッグ・ベティ・ストルカップは叫んだ。「南米一のクリケット選手になりますように」と「そして、ラリー・リー・アーリーといつまでも一緒にいられますように」しかし、やはり木の船が沈んでいくのを見ると、一緒に走っていた、ラリー・リー・アーリーは川の中に飛び込んだ。一度も水泳をしたことのないラリー・リー・アーリーは、必死に木の船に向かって泳ごうとしているようだが、一度も顔を水面に上げることも出来なく水の中に沈んでいった。ビッグ・ベティ・ストルカップは「ラリー・リー・アーリーが溺れている」と必死に大声で人を呼び、数人が遠くから走り寄っているのを見かけると、両手を振って、やはり泳いだことのないビッグ・ベティ・ストルカップは、ラリー・リー・アーリーを助けようと川に飛び込んで溺れた。

ベティはリーの腕の穴から指をそっと抜き取った。そうだ。二人とも大勢の人たちに助けられて、口と鼻と耳からいっぱい水を出したことがあったよね、とリーに話すと、リーは嬉しそうに何度も頷いた。

その日の夜中、二人はチョコレートを持って夜の港に向かった。リーは猫たちが眠る廃船を知っていた。廃船をノックして、猫の前にチョコレートをばらまいた。どの猫も興味を示すだけで匂いを嗅いだり、一ナメをしてこれは猫の食べ物では無いと悟ると、眠りに戻っていった。最後に近づいてきた白い大きな猫だけは、チョコレートを一舐めすると美味しそうに飲み込んだ。仲間たちが食べなかったチョコも全て食べるとベティとリーを催促するように眺めた。ベティがこれだと大声で言うと同時に白いクマのような猫をつかんで、背中に背負ったリュックの中に放り込んだ。さらに、リーの案内で新型のスーパーリニアポリエチレン製のフィールフリーカヤックを乗せた三輪バイクを見つけ、ベティが用意してきたボルトカッターでワイヤーロックを切断した。二人はそのまま、カヤックを台車に乗せたバイクを手で押して山の麓へ向かって走った。大きな猫は、ベティの背負うリュックから顔だけを出して静かにラ・セイバ山の山頂を見つめていた。

山の麓とというのは、イージー・アール・ブレイキーの家へ通じるケーブルカーの発着地点でもあった。カヤックを台車から降ろすと、二人はケーブルカーの屋根の下で夜が明けるのを待った。リーが作ってきたポットに入った熱いカカオ茶を飲んでハムポテトサラダサンドイッチを食べた。その食べている間もベティは、イージー・アール・ブレイキーの病気は治る。イージー・アール・ブレイキーの病気は治ると呟いていた。朝陽の一部が森の樹木の隙間から差し込むと二人とクマに見える猫はカヤックに乗り込んだ。

カヤックはベティはダブル・ブレード・パドルで力強く漕ぎ、そのすぐ後ろでリュックを胸に抱えたリーがクマに似た白い猫を片手で抱えた。後ろからもベティの「イージー・アール・ブレイキーの病気は治る」という呟きはしっかり聞こえた。船は暫くは静かな川を力強く進んだが、川が曲がり角が多くなり水の流れが急になると大岩が増え、懸命に避けて漕いでいたが、半分も下らない場所で石の段差に乗り上げて、カヌーは転倒してしまった。ベティもリーも勢いよく放り出されて、水に逆らえない勢いで流されていった。シロ猫だけが、岩場と岩場を飛びこえて川から上がり、森の中へ入って行った。

その日の午後、ベティとリーはそれぞれ離れた場所で、釣り人に発見されて、イージー・アール・ブレイキーがいる病院へ担ぎ込まれた。ベティが意識を取り戻すと、アールの部屋で会ったロクサンヌ・ミルバンク看護師がいた。わたしの寝言をメモしないで、とベティはロクサンヌ看護師を精一杯睨んで言った。じゃあ、寝言のことは内緒にしておきますね。でも、今はスペインが攻撃してくる時代ではないので、あの川を下るのはプロのカヌー選手でも不可能ですよ。とロクサンヌ看護師は微笑んで言った。

その日の真夜中、ベティはリーの部屋を探して、寝ていて聞き取れない寝言を言っているリーを起こした。二人は手を繋いで、イージー・アール・ブレイキーの部屋に向かった。アールの個室病室ではシートは取られ、少なくなったのチューブが体に刺さっていたが、やはり顔も体も真っ赤に腫れていた。ベティは近くでアールの赤い顔を見ると深いため息をついてアールの右側から布団をめくって中に入った。立ったままのリーに左側に入るように合図を送ると、リーもアールの体の左側に入った。イージー・アール・ブレイキーの病床に三人はロクサンヌ・ミルバンク看護婦に追い出されるまでしっかりと抱き合った。

噴火警戒LV4
ビッグ・ベティ・ストルカップとラリー・リー・アーリーは、明け方のコンビニストアの駐車場にいた。クリケットのグラウンド程度の大きさの駐車場には100台程度の車は停められそうだが、未だ10台以上の車が止まっているところを見たことが無い。ベティはブルーデニムのショートパンツを履き上はクリケットクラブのユニフォームとを着、左手には携帯で電話をし、右手には勿論クリケットバットを持っていた。ベティはじっと携帯を見つめいてる。10分後、携帯の呼び出し音のムーン・リバーが鳴る。イージー・アール・ブレイキーからの電話だと確認してから、数回の呼び出しを待ってから電話を取る。

「はい、わたし。え?なんでそんなことを今言えるの?いいよ。もういいよ。今はアールと話したくないよ」

ベティは電話を切る。何度かクリケットバットで素振りをする。振り向くとラリー・リー・アーリーが優しい顔をしている。ベティは、自分の頭をラリー・リー・アーリーの肩に着けて俯く。携帯の画面を何度も見る。また10分後にイージー・アール・ブレイキーから電話がかかってくる。

「はい、わたし。うん。じゃあ、アールがへんなことを言ったってわかった。じゃあいいよ。いいよ。じゃあ、迎えに来ていいよ。今、リーと一緒にコンビニの駐車場にいる。うん。じゃあ、リーに美味しいサンドイッチを作ってもらうよ。うん。もう少しで朝になるよ、アール」
電話を切ったベティは満面の笑顔をリーに見せる。

「リー。アールは今来るよ。ごめんね、わたしたち喧嘩ばかりして。アールは、ナイキの踵を潰したスニーカーでくるよ。明日も明後日も試合があるっていうのに。踵の潰れた靴でママチャリを立ち乗りしてくるよ。ハアハア言って、ハンドルをぎゅっと握って、顔中汗だらけで、もうすぐそこにくるよ。ほら、もう少ししたら、アールはあの角を曲がってやってくるよ」

ベティの指す方向をずっと見ていると、角を曲がって自転車のランプがやってくるのが見える。

「リー、手を繋ごう。アールが来たら三人で手を繋ごう。ずっとずっと手を繋いでいよう」

ビッグ・ベティ・ストルカップはラリー・リー・アーリーの腕の穴から指を抜いた。そこには、あったかもしれない三人の姿があったが、現実には二人の喧嘩も夜明けのコンビニ駐車場に迎えに来させるという光景は起きずにただ15年の時間が過ぎた。

イージー・アール・ブレイキーは病院入院から自宅介護になり、ビッグ・ベティ・ストルカップとラリー・リー・アーリーの家に移った。ビッグ・ベティ・ストルカップとラリー・リー・アーリーの同じ寝室に移った。キングサイズのベッドに三人が寝た。壁は何も家具は無く、壁と天井と床一面にベティの描いた赤いアールの絵が描かれていた。ベティにとっては赤い体になったアールの絵だったが、一ヶ月に一度来るジェフリィ・カーテン医者は赤い獅子だと言いロクサンヌ・ミルバンク看護師長はなんか赤くて恐い獣ねと言った。アールの絵一体を描くのに約半年はかかった。壁4面を描ききるのに8年かかり、天井に4年、床に3年がかかった。15年かけてようやく部屋には壁も天井も床のも地の部分が無くなった。

15年という時間は多くの人にとっても、なかなかその変化が気づきがたいものだ。とりわけイージー・アール・ブレイキーにとっては何も気づくことができなかった。クリケットの花形選手が、15年前に未だに原因が分からない事故に巻き込まれ意識がもどらないままでいた。イージー・アール・ブレイキーと同じ遠洋マグロ延縄漁船「ラッキードラゴン」に乗っていた乗組員たちは22名中21名死亡。その内訳は、肝癌6名、肝硬変2名、肝線維症1名、大腸癌1名、心不全1名、交通事故10名だった。生存者はイージー・アール・ブレイキー一人になっていた。とりわけ、不自然な交通事故死が多かったが、全ては憶測の域を出なかった。

ロシタン島からは多くの人が出て行った。ラ・セイバ山は15年かけて噴火警戒レベル4となり、避難推奨水準で多くの人たちがグアテマラに仮住居を提供された。また、ここ一ヶ月以内で噴火の可能性が高まり、数日内には強制避難勧告が出されるだろうと、港には軍の巡視船と護衛船が乗り入れていた。

発電所は15年前に突然廃炉が決まり、密集地域に10あった施設は着実に廃炉計画を進めていたが、数日中に発生する可能性が高い火山爆発に対し本社正社員の一時的退去を進めていた。

今世紀最大の溶岩の噴出で美しいマグマを撮影するために、火山溶岩研究家、マグマ専門の探検家達が集まってきた。

ラリー・リー・アーリーは、クリケットの試合中にお茶を入れるサーバーとして有名になり、ビッグ・ベティ・ストルカップとイージー・アール・ブレイキーがクリケット界から去ってからも30歳になるまで国内のゲームで活躍をした。30歳で引退をして、自宅近くに茶店を開く準備中に舌癌になり、癌は完治したが味覚を失い、食品に関わる事が一切出来なくなった。心療内科に通いながら、早朝と夕方だけ牛舎の掃除仕事をしている。

ビッグ・ベティ・ストルカップはイージー・アール・ブレイキーが真っ赤になって船から戻ってきてから、クリケットのグランドに出ることはなくなった。それでも島では誰もが知っている人気があり、知人から頼まれれば店の手伝いに行き、ファン達に外面の笑顔を振り向くことがあった。最初は大きなホテルのレストランなどに招待をされてファンサービスをしていた。次第に店は喫茶店になり、夜のクラブを手伝うようにもなってきた。十年が経つころには、ビッグ・ベティ・ストルカップの名前でお客が来ることも無くなったが、三人の生活費を稼ぐために夜の接客業を続けていた。

しだいに客の隣で酒を飲むことも、体を触られることも抵抗がなくなり、客の一人から体を売る仕事を紹介されても、受け取れる金額を聞くと十分馴れているという素振りで承諾した。紹介されたモーテルの部屋にいくと、そこで待っていたのはクリケットクラブにいたコーチだった。ベティが気まずそうに部屋に入りベッドに腰かけると、コーチは、パンパンと手を叩いて昔と同じように大声で「さあ、ボーイズアンドガールズ。今日のゲームをはじめよう」と叫んで、シャツを脱いだ。

仕事の後にベティがシャワーを浴びて部屋に戻ると、コーチはベッドに体を起こしてバスタオルを腰に巻いた姿で「こんなところで、おまえは何をしているんだ。おれに失望させないでくれ」と怒鳴った。コーチが泣きながら話しかけてくるのが気持ち悪く、ベティは急いで部屋を出た。そのモーテルは商売専門として使われていた。狭くて暗い廊下を走ろうとすると、何人もの男とぶつかり、知らない男に腕をつかまれて、またベティは知らない部屋に連れ込まれた。その大きな部屋の中には大勢の男達がいた。

ビッグ・ベティ・ストルカップは夜明けにコンビニの大きな駐車場にいた。服は破れ、顔と体にあざが出来ていた。ベティは携帯を見つめた。イージー・アール・ブレイキーからの電話はかかってこなかった。

駐車場の正面には真っ直ぐな道路が続き、道路の正面にはラ・セイバ山が見える。ベティが携帯を地面に叩きつけた瞬間、地面が傾いたように持ち上がった。携帯はどこからかの呼び出しで点灯した。

そしてラ・セイバ山は、高く溶岩を吹き出し、美しく真っ赤な溶岩が流れ出した。

「いいぞ」とビッグ・ベティ・ストルカップは言った。

噴火警戒LV5
ラリー・リー・アーリーは、毎日3時半に起きる。目覚ましで目が覚めたと思ったが、もっと大きな音がしていた。部屋の壁の中から、獣がさけぶ音がした。壁が揺れていた。壁の赤い獣たちは確かに大きなうなり声を出していた。何か大切な知らせだ。そしてようやく、となりのイージー・アール・ブレイキーの息も脈も途絶えていることに気づいた。赤い顔をしたイージー・アール・ブレイキーは一度も目を覚ますことが無く15年間眠り続けて亡くなった。そして天井に描かれた赤い獣たちは走る用に去って行き、次に壁四面の赤い獣たちも去って行った。屋根と壁がなくなると、次に床に描いた赤い獣たちもどこかへ去って行った。ラリー・リー・アーリーは、ビッグ・ベティ・ストルカップへ電話をかけた。「アールが死んだよ」と。

ビッグ・ベティ・ストルカップは、宇宙の真理が解けたかのように体中のエネルギーを感じながら走っていた。15年前に盗んだままでうち捨てられていた三輪車に乗ると、そのまま壁の無くなったアールの部屋に入った。リーと一緒に三輪車の後ろにアールを折りたたんで入れると、山の麓に向かって走り出した。

山の麓のケーブルカーに到着すると、植木鉢の下から鍵を取り出して、ケーブルカーの電源盤を開けてスイッチを入れた。ブワンと低い音を立てると、ケーブルカーのエンジンがかかった。ケーブルカーの射す照明の先には線路にいくつもの噴石が落ちていたので、丁寧にどかした。

ケーブルカーの走る線路のすぐ脇の川のくぼみに真っ赤な溶岩は流れていた。ビッグ・ベティ・ストルカップとラリー・リー・アーリーは、イージー・アール・ブレイキーの体をケーブルカーの先頭に座らせて、ケーブルカーを動かした。ケーブルカーは、ケーブルの巻き上げる音を立てながら、急斜面を上る。上からは真っ赤な溶岩が川沿いに流れていたが、反対側の窪みにも溶岩は流れ出した。

溶岩を撮影するために残っていた撮影班が移すいくつかのカメラには、赤い溶岩の中を龍の絵が描かれた船が登っているように写っていた。ケーブルカーは15分かけて山頂に辿り着いた。そして、ビッグ・ベティ・ストルカップとラリー・リー・アーリーは赤い溶岩が流れる噴火口の前で願いをかけた。溶岩の噴出はまる一日続き、発電所の塀も容易に溶かし1ダースあった冷却塔も全てなぎ倒した。島の殆どの施設を溶岩で覆うと、発電所から溶岩を吹き飛ばして、いくつもの爆発が発生して大きな雲を作った。

そこそこなむかしむかしの言い伝え
山のふもとの川から大きな熊と一緒に船に乗って山の頂上までたどり着ければ、この島に住む皆の願いが叶う。

ロシタン島とクリケットの歴史
ラ・セイバ山の火口のあたりに、大きな屋敷がある。今日は天気がいいからなのか、二人の老夫婦がテラスに座っていた。そこへ片腕の老人がお茶を用意してきた。三人は小さな桌子に仲良く座っていた。三人の見つめる先には、大きなクリケット場があり、礼儀正しく熱いゲームが行われていた。山頂からも、彼らの全力で動く様子はよく見えた。バッツマンは体と同じほど大きなクリケットバットを持つ三つ編みの黒い肌の少女だ。ボウラーの男の子は長い助走をつける。めいっぱいに伸ばした腕から放られた美しい軌跡を描いたボールを大きなヤナギの木のクリケットバットが捉えた音が聞こえた。

文字数:21626

課題提出者一覧