畑の肉

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梗 概

畑の肉

ある星。クルの実をあつめる広大な畑に働く数百人の彼らは、分裂してふえる生物種である。はじめの母体にいろいろ教えこんで増殖させれば、その記憶をもったまま増えるのでそのあと仕込む手間はいらない。会話できる知能をもち、環境の変化に強く、従順。分裂しない程度にちゃんと食わせれば幸せに働く。このような用途に販売されてきた。
 子供体形の彼らは「キッズ」と呼ばれた。分裂増殖でも個性はそれなりにある。活発なリルとおとなしいロロは仲が良かった。
 何年かおきに入れ替わる畑の作業長は、人間種で、エリア本社から派遣される。
 橙色の太陽を短周期で周る、空気の薄い、寒暖の差の激しい星、夜はすべてが凍てる。朝には氷が解け、クルが芽吹く。どんどん伸びて鞘の実がなり、昼にはおそろしく暑く、乾燥して、干からびる。太陽が傾くと、クルの鞘がはじける。細長く先の鋭いクルの実はぼたぼた根元に突き刺さっていく。キッズの仕事はここで、広い農場を駆け回り、その実を抜いて回収しながら、根元に刺さった実はそこに埋めていく。それでも十分余るのである。一瞬美しい夕暮れ、あちこちで作業の終わったキッズたちがじゃれながら歩き回る。リルとロロも丘からよく景色を眺めた。そしてまた、凍てつく夜が来る。たいして温度管理もされていない宿舎で、彼らはかたまって休んだ。
 あまりぱっとしない左遷先なので、作業長もゆるいものが多かった。クルの実の食用処理法を語りながらその実でフェンシングの練習をしてみせる作業長、人生の価値とか神とかの話をする作業長、若いころの話をえんえん続ける作業長、君らが求めなければ権利は得られないと語る作業長。リルはそういう話が好きで、夕刻、作業長が出てきたらそばに駆け寄り、あとでロロにその話をしては笑うのだった。
 彼らは事故でもなければ死ぬことはなかったが、あるとき、夕方寒くなってから戻ってきた個体が、そのあと動かなくなった。作業長はそれをエリア本社に報告し、定年前の楽園もここまでかと、畑のわきでリルにつぶやく。
 交代で来たあたらしい作業長は、寿命の終了のきた集団を、使えるまで使って廃棄処理する係である。
 死ぬ個体が増えていく。作業効率が落ちる。ところがそこで、作業長は、キッズへの食糧供与を減らしていく。死ぬ個体が増える中、残りの個体の多くは飢えながら、身長が伸びて育つ。育たない個体もあり、リルは、すっきりした青年の姿になっていくロロを、かわらない姿で見上げる。育つキッズには、生殖器が形成されはじめる。これらは飢餓がキッズに及ぼす作用であった。
 毎夜、作業長は成長したキッズをひとりづつ呼ぶようになる。未成熟な生殖器をいじられて戻ったキッズは、急激に衰えて死ぬ。そのうち、作業長は、そろそろ成熟するからもうこの群れも終わりかとつぶやく。
 ロロが呼ばれる。リルも忍んでいく。ロロで遊ぼうとした作業長は、リルの持ち込んだクルの実で、首を斬られて殺される。
 そのすぐあと、性成熟をむかえた両性具有のキッズたちは、たがいに交わる。育たなかったキッズたちは、それを見ている。リルは、ロロに、交わるなかに入るよう促す。
 ロロを含む交配したキッズたちはいっせいに数人の新生児を分娩し、死んでいく。のこされたリルたち非成熟者たちは、急激にそだつ新世代を連れて、ずっと遠い場所で生きていくべくクルの実をもって、畑を去っていく。

文字数:1395

内容に関するアピール

「ユディットの首を斬るホロフェルネス」、の題材は、カラバッジオ以外にもたくさん描かれていると思いますが、あちこちでカラバッジオを見た中にあったそれを、使おうと思いました。おっさんを殺す場面ですね。1598-99年のものです。
 はじめは、仲のいいふたりが分かれてのち、立場も変わってむくつけき姿になった男子が昔仲の良かった女子を呼んでもういちどというところで、気づかない女子がそれを殺して、仲の良かった男子を探す、という展開にしたかったのですが、そっちに話がころがらず。そっちはまた考えます。
 栄養があると無性生殖、飢餓状態では有性生殖、というのは、読んだばかりの、「ビールの自然誌」の酵母からもらってきました。
 あらすじはいらないということなのですが、その画面のみ詳細に描いてもそこに至る話がないと頭が動かず、けっきょくふつうの梗概になってしまいました。クライマックスの場面は、「ほぼラスト」ということで赦してください。

文字数:410

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地の塩

夕方、少し高いところから、「畑」を、リルは見下ろす。
 見わたすかぎりに、小山と、ひび割れた灰色の地面が広がる中、クルの実の収穫は終わり、ついさっきまで緑色だった太い蔦はすでに枯れはてて、地面とおなじ色になりつつあった。
べったりと地面を這ってひからびていくクルのあいだの広場を、リルの仲間たちが楽しそうに走ったり、座ったり、たたずんだりしている。
 この時間が一番楽しい。
 ロロが、すこしおくれて上がってきた。夕日に、なにも身に着けない小さな体が照らされている。乾いた風が吹いている。
「所長はまた、クルの実で遊んでいたかい」
「体がなまってしかたがないっていってる」
 ここにいるなかで、背の高い男だけがひとり、「人間」であった。「所長」と呼ばれ、年輩であり、服を着ていた。
 リルやロロは、「人間」ではなかった。子供に相当する体形、体格であったが、性差もなく、生殖器もなかった。数百人のかれらは、「キッズ」と、代々の所長からは呼ばれていた。
 キッズは、この星での作業のために、まとめてこの「クル畑」にいれられていた。
 日が沈むと、どんどん寒くなる。風が冷たくなったので、リルとロロは小山をおりていった。適応する温度の幅広いキッズにとっては、その風は、寝舎にもどる時間が来たという意味しかない。キッズは、ルールにそこそこ従順な生き物なのである。
 ほかのキッズたちはほとんどが寝舎にはいってしまったが、まだ何人かのキッズが歩いている。ぺちゃぺちゃしゃべって動かないキッズも数人いた。
 所長舎からは、ぴったりした服の、刈り上げたやや高齢な男が、汗を拭きながら出てきた。手に細長いものをもっている。クルの実である。
「リルか」
「よくわかるんだね、いままで区別してくれた所長はいなかったよ」
 所長は首を振って、手にしたものを、すでに地面に同化してしまったクルの蔦にかこまれた広場の、所長舎、寝舎、作業舎にかこまれた空間に放り出した。
 細長いものは、その切っ先から地面に突き刺さった。
 所長は、眉を上げて少し笑い、両手で耳をふさいだ。
 すぱん、と、大きな音を立てて、クルの実がはじけた。
「時間だ」
 所長は、広場のキッズに声をあげた。そしてまた汗を拭いた。
「いつもなにをやっているの?」
 リルが所長にきくと、所長は、
「そうそう、そういう質問をするのも、君くらいだからな、みな同一個体の筈なのに、表現型多形性はすばらしい」
 そこまでいわれるとわからない単語が多すぎるので、リルは黙り込んだ。
「ああ、ただのフェンシングの練習だ、むかしやってたんだ、クルの鞘の形がぴったりなんだ」
 これもまたわからない。
「わからないよ」
「君らは、無性生殖で増殖したんだ、最初の個体を育て、作業できるように訓練し、そのうえで増殖させれば記憶もひきついで、作業集団の出来上がりなんだが、遺伝子が人間よりおおくて個体によってオンオフされる余地も多いから、結果的にある程度の多様性が生まれる、ってことだな、よく見れば見わけもつかなくはない」
 さっぱりわからないが、リルは、この所長が、半ば独り言のように、自分の知識をリルに向かって垂れ流してくれるのが好きだった。
「ああ、寒くなってきたな、人間にはこたえる」
 所長は、建物にもどり、もう一つのクルの実を持ってきた。
 サーベルの、柄にあたるところが、実の本体である。そこを胸元にもって、刃に当たる部分を立て、眼を閉じた。やがて、眼を開けて体を開いて、刃先を振ってから、突きだしてみせた。
「本物より軽くて、子供用サイズだな、シニア大会の練習にもいい」
「それはどう使うものなの?」
「もともとはこれで闘うんだ、刺されたら負けだな」
 所長は、腰を動かし、サーベルに見立てたクルの実のとがった刃先を空間に押し込んだ。
 リルのうしろでロロが、
「あれを、中で、ずっとやってるんだ」
と、小声でいった。リルはだまって所長を見ていた。
 所長は、ふと広場をみわたす。だいぶ暗くなっている。ほとんどのキッズは寝舎にもどってしまった。ロロがリルの腕をおずおずと引き、ふたりはだまって所長から離れると、所長は、
「おやすみ」
 そしてクルの実を放り出した。これも地面に突き刺さって、はじけた。
 この2回目の破裂音が、最近の、寝舎にひきあげるさいごの合図になっていた。
 キッズのひとりが、ロロに
「早く戻ろうよ」
 ロロは聞こえないふりをした。
 くらい寝舎のなかで、配給装置から出された完全栄養食を食べた後、キッズはかたまって休む。夜の一番寒い時間帯は、キッズにとってもひとりでは過ごすのがつらい。
 増殖するまでの記憶は共有されても、分離個体となってからの経験は、おなじ場所で同じ作業をしていても、ひとりひとり違う。クルの畑の作業の間におもったこと、おこったことなどを、仲のいい者同士で話をしながら、やがて皆眠りにおちていく。
「また、おやすみ、って言ったね」
「所長は、まえの所長たちとずいぶん違うよ、このあいだは、上まであがってきて、景色がいいとかいってた、あの人間だけだね、そんなことするの」
 リルはロロに小声で囁いた。なんでも面白がって話をきくリルと違って、ロロは、やや遠くから見ているばかりである。
「本社からここに派遣されるのは、定年間際の骨休めなんだとかいってた」
「どういう意味なの?」
「ここにくるまえにたくさん人間がいて、いろんな顔してたろう、僕らはみんな違うけど、人間はそれとは違うように違うらしい、時間がたつと、かわっていくんだそうだ」
 いままでに何十人もの所長がやってきては去っていったが、キッズにとっては、たんに入れ替わっているだけで、ここで年齢をへて、このクル畑を管理する商社をやめていくのだ、ということは、まったく理解の外だった。
 ロロは、よくわからないやとつぶやいて、すっと、眠ってしまった。
 人間であれば凍えて死ぬ夜を過ぎ、また朝が来る。乾燥した空気に、霜が降りる。
 地平がゆっくり明るくなるなか、キッズは配給装置の餌を食った後、寝舎からぞろぞろでていく。凍てつくように寒いが、キッズにはそれほどのものではなく、また一日が始まる。
 朝のうちは、キッズは、昨日作業所に運び込んだクルの実の処理をしている。鞘をはじけないように開けて、夜の間に熟成した、アーモンドのような核を奥のプラントにおしこむだけである。そこから少し遠いところまで銀色のチューブがつながっており、そのさきのことはキッズは何も知らないが、ほとんどが回収、一部がキッズの食糧配給機に戻される。
 ある量のクルの実は別にとっておかれ、やはり鞘があけられて、中身がつみあげられていく。霜がとけるころ、キッズたちはそれを、建物からかなり遠回しのひろい範囲の畑のあちこちにばらまいていく。
 地表のうすい水分を吸って、核はぺったりとひろがって、芽吹く。ゆっくり、しかしみるみるうちに蜷局を巻きながら地面の上で育ち、やがて上に伸び始める
 昼近くには、クルはかなり高くまで伸びる。その横に枝が張り出し、実がなっていく。この時には大気は相当に暑くなっていて、人間であれば熱中症になるので所長は引きこもっている。
 キッズは処理を終えて、作業舎から広場に張り出した屋根の下で、おたがいにすこし間をおいて待機する。キッズにとっても、やや温度が高い。
 そして、温度が下がり始めると、クルの実が重みを増す。日が傾くころ、実がどさどさと落ちて、地面に突き刺さっていく。
 そこからが、キッズの出番である。彼らは、一斉に散らばり、地面に刺さった実を回収していく。そのまま熟れてしまうと、地面に刺さった実ははじけてしまうからである。
 実を落としたクルの本体は、みるみる枯れていく。地面を這う本体をまたぎ超えながら、キッズは実を抜いては、作業所に運び込む。走り回るのはキッズにとって楽しい事であり、けらけら笑いながら実を抱えて走るものもいる。
 なかには、所長をまねて、むかいあって実でフェンシングのまねごとをするキッズもいる。キッズの外表皮はかなり硬いので、突きを入れてもいちどきに刺さってしまうことはない。痛みにも鈍い。
 そして夕日がくる。
 所長が作業舎から、サイズの違う実をふたつ持って出て、いろいろ持ち替えながら振り回し始める。そして、独り言のようにキッズに声をかけては、思うところを話すのだが、関心をもつキッズは少ない。
 リルはその、少ない一人だった。
「ここにくるまえ、僕らの数が少なかった時もあって、どんどん増えたのに、いまはもう僕らは増えないのは、なぜなの?」
 自分から質問する個体も、少ない。
「集合意識と個体意識が入り混じっていて、なかなか複雑な思考ができることもある、ということだな」
 こういうよくわからない返事から、いつも所長の言葉は始まる。
「密度だ、ある密度になると増えなくなる、そういうふうに説明されている。あと、飢えたら代替わりしようとするから、ふせぐためにたっぷり食い物があたえられるのだよ、原料はふんだんにとれるんだから。つまり年老いていくだけということだな」
 わからない。
「夜の間熟成させないと育たないよう改変された植物、それを主食にする、従順で一定の人数を長時間維持できる、初期に訓練してそのまま増やせばいい労働集団、よくできたもんだよ。」
 所長は、途中からなかば独り言を言う癖があった。彼は、自分の知っていることをなんでも目の前の相手に伝えたいという衝動に満ちていた。そして、ここでなにを教えたところで、井戸に石を放り込むのと同様とも所長は思っていた。だから余計、正直に答えるのだった。
「君らは、私の生まれる前からここにいるんだ、いつまでになるかは、環境によって違うということになっている、でも、そうなったらわかる、変わる時は、終わる時だからね」
 そう言って、所長は、クルの実の刃を振り回し、夕日はあたたかく、キッズたちは楽しそうに走ったり、座ったり、話し合ったりしていた。
 ロロは、しつこくからんでくるひとりを今日も無視して、リルのところにやってきた。所長との会話の内容を伝え聞いて、やっぱりわからないと言った。

ある夜を超えた朝、キッズのひとりが、起きてこなかった。
 はじめてのことでキッズたちが驚く中、まだ寒いので厚着して所長が寝舎にやってきた。
窓のない体育館のような寝舎のなかで、キッズたちに囲まれ、所長は、ヘッドライトで、動かないひとりを見下ろし、首を振った。
 そして、目の前にいるリルとロロに、
「運び出して、畑のはずれまで持っていけ、埋めなくてもこの寒暖差ならあっというまにひからびてしまうだろうから」
「何が起こったの」
「死んだんだ、君らにも命のつきがあるということだ、この畑も、入れ替え時期か」
 そして、首を振りながら所長舎に戻っていった。
 キッズたちは、それまでにない感覚を共有しながら、その日の仕事を始めた。
 夕方、リルは所長に、
「何が起こったの」
と、ふたたび訊いた。
「今日はみんな、へんに静かなんだ」
「それは、喪失感ということか、そういう概念がなくても、感覚はある、人間扱いされない生き物のままでいいんだろうか」
 やはり、さっぱりわからない。
「トトはもう、いないんだね」
「そうか、そういう名前だったのか」
 所長は、リルを見下ろした。いつもと違って、フェンシングの練習もしない。
「上がろうかな」
 ひとりごとのように言って、裏の小山にあがりはじめた。リルはついていき、ロロは心配そうにそれを立ち止まって見ていた。
 所長とリルは、所長舎よりすこし高い程度の頂で、今日も枯れていったクルの畑と、広場に散るキッズたちを見下ろす。ぬるい風に、いつものように夕日がおちつつあった。
「トトは、死んだんだよ。楽園もこれまでか」
 所長はつぶやいた。そして、リルの肩をたたき、小山を降りて行った。

所長がかわった。
 キッズにはわからないことだったが、いつもの所長たちよりやや若い男である。
 前の所長のようにキッズ相手に話をすることもない。短い命令程度である。
 キッズの日々はかわらない。同じように起き、作業し、はしゃいでは、寝る。
 その中で、動かない個体が、何日かおきに出る。いままでいて、もういないものがいると、その都度キッズは知ることになった。
 あるときから、餌ががくんと減らされた。従順なキッズたちは、ひたすら我慢した。夕暮れの楽しい時間も、寝舎にもどるだけのキッズが多くなった。作業効率がおちても、所長は何も言わない。
 そのうち、多くのキッズの体が大きくなり始めた。まれにかわらない個体もあった。子供のようなからだのままのリルは、身長ののびていくロロを見上げた。
「なにがおこったのかな」
 ロロは困惑して、リルに訊いた。
「わからないよ、時間とか、代替わりとかに関係するのかもしれない」
 前の所長との、関係ありそうな会話から、リルは説明しようとする。その意味は、リルにもわかっていなかった。
 育つ個体たちの、股間に、排泄孔のほかに軽い突起と窪みができはじめた。彼らは表皮が軟化し、体温も下がって、夜は、少なくなった育たない個体たちが、育った個体たちを囲んで固まって寝るようになった。
 ある夕暮れ、所長が、寝舎にやってきて、育ったキッズのひとりを連れ出した。
 朝、這うように戻ってきたそのひとりは、寝舎でそのまま寝込んでしまい、キッズたちが昼頃に作業舎から戻ると、動かなくなっていた。それをみて、キッズはあらためて理解した。
「これも、死んだ、ということか」
 それは、何日も続いた。
 そのうち、成長した個体同士が、じゅうぶん長い突起と深いくぼみをつかって、股間をつなぐようになった。それは誰にも教えてもらったわけではなく、仲の良かった個体同士が夜身を寄せているうちに、おこったことだった。
 ロロは、いまや自分の腰までの身長しかないリルにしがみついて、毎夜、かっての楽しかったころの話をしながら眠りについていた。
「自分も呼ばれたらどうしよう、所長は、一晩中体を触って、ここのところをいじくるらしい」
 まだ軽い突起とくぼみしかない股間にロロは手をやった。
 リルには、守る、という概念はなかった。しかし、所長に呼ばれたらロロも死ぬ、ことはいままでの出来事から理解していた。
 成長し、股間の器官同士をつないだキッズは、双方ともに、そのままほとんど動かなくなり、さらに作業効率が落ちた。
 つながったあと動かなくなった個体は、ただ動けなくなっただけだったが、成長した後そのまま死ぬもの、子供形態のまま死ぬものがどんどん増えていった。
 クルの畑は放置されたエリアがひろがり、作業舎には鞘のまま未処理のクルの実が放置されるようになった。配給機からは餌が出なくなった。
 ある夕方、数少なくなった、動ける成長個体の数を数えて、所長は、
「そろそろおわりだな、一気にいくかな、育ち切ってないやつはもうほとんどいない」
 つぶやいて、数人の個体を指名した。そのなかにはロロもいた。
 所長の命令に応じて、数人はぞろぞろ、所長舎に向かった。扉を抜け、奥の薄暗い寝室に行くと、所長は服を脱いで、ベッドに横になった。ロロたちは、その横に並んだ。
 声がした。
「どうしてみんな死ぬの?」
 リルが、ロロたちの後ろからいっているのだが、それは所長にはわからない。
「うるさいな、だまって一人づつこちらにくるんだ」
「どうしてなの?」
 質問するキッズというものを、この所長はみたことがなかった。
「うるさいな、用済みだからだ、未熟な奴はいじくれば死ぬんだ、でもどうせこの畑は終わりだから、最後にちょっとつかってやるんだ」
 そして、目の前のロロの手を取った。
 その体のすきまから、リルは、所長の体に、クルの実をねじ込んだ。実ははじけ、所長は腹を裂かれてのたうち、動かなくなった。

戻った寝舎で、ロロはずっとリルにしがみついていた。もう誰もクルの実を処理しに行かない。さらに翌日になって、リルは思い出した。
「主食、といったっけ、食うもの、ってことだなあ」
 リルは、飢えて、さらに育ったロロを置いて、作業舎にいった。いままでそんなことをしようともしなかったが、クルの実の鞘を開けて、核の部分を口に入れた。
 噛み切れないほどに硬い。しがんでいるうちに、少しづつ苦いものが喉にくる。
 それは、悪くないものだった。次々と、リルは核を口に入れた。飢えた感覚は薄れていった。
 核をいくつか持ってロロのところに戻る。成長前からロロによくからんできたひとりが、成長した今になってもまた、ロロにしつこく話しかけていた。
「なんだよ、ミル」
「僕もロロと一緒にいたいんだ」
「僕はいたくない」
 ロロはにべもなく言った。そのロロに、リルは
「それより、これ、食えるよ」
 リルは核をしがんで見せた。子供形態のままのこった10数人が寄ってきた。
「食えるのかい」
 何人かが飛び出していった。リルはロロに核を渡す。口に入れて顎を動かすが、
「なんか、割れた」
 ロロは体液を口から吐き出した。いっしょに出てきた核はそのままである。軟化したあとの体では、噛むこともできなくなっているようであった。
「おなかがへったね」
 ロロは、なかば笑いながらリルにしがみついた。
「食わないとこのまま死ぬよ、たぶん」
「でも、たべられないもの」
 寝舎のむこうで、クルの実をもってきた子供体形のキッズたちが、鞘を開けては核を口に入れて、しがみはじめた。
「死なないようにするには」
 リルは、すこしはなれたところでじっとこちらをみているミルに、
「ミル、僕じゃ無理なんだ」
 ミルは、ゆっくり立ち上がり、ロロに近づく。ロロは、はっとリルを見て、またミルを見た。
「リルがいい」
「だから無理なんだ」
 そして、眼をそむけた。次に見たときは、ロロとミルはつながっていた。
 数日のうちに、死なずにいた成長個体はみなつながってしまい、そのまま動かなくなった。
 さらに日がたって、寝たままの各個体の腹部が膨らんでいった。
 リルや、ほかの子供体形のキッズがみるうちに、動かなくなった順から、その個体の腹部を割いて、ずっと小さな、子供体形の個体が這い出してきた。
 腹の割かれた成長個体たちは、目も覚まさずそのまま死んだ。そのうち、ロロの順もやってきた。

それからちょっとたって、前の所長が、観察員といっしょにやってきた。
 畑は荒れ果て、所長室には腹の裂けた所長の死体がひからびていた。
 寝舎には、子供体形、成長個体、そして腹の割れた成長個体の死体が大量に、やはり干からびていた。
 観察員は、
「ひどいもんですね、畑のクローザー担当として回ってもらってたんですが、キッズは寿命なんで全部死んでもいいとして、自分まで死んで全滅するっていったいなにやってたんでしょう」
「悪い癖があるって噂だったからね」
 前の所長は、もっとも最近の状況を知るものとして呼び出されたのである。
「そうなんですか、それならそうと」
「だってもう閉じる畑で、連中ももう用済みになるんだから、なにやったっていいと思ってたんだろうし、実際そういう扱いなんだし」
「損害が出なけりゃいいんですよ、しかし荒れ果ててますね」
「いい畑だったんだけどねえ、ここはこのあとどうするんです」
「どうもしませんよ、じゅうぶん元はとりましたし、もっとちかいところにプラント組んだんで、べつの使い途がでるまでおいときます」
 ふうん、と、生返事を返しながら、前所長は建物を出た。
「うらの小山の景色がいいんだよ」
 夕暮れである。観察員は、
「いや、私はいいですよ」
 前所長は、ひとりでゆっくり、所長舎裏の小山を上がった。
 成長個体の死体があって腹は割けているが新生児の死体は見当たらない。交配したということは、飢餓条件で性成長させたんだろうが、成長できないまま群れが育つまで面倒見る長寿個体が必ずいる。あちこちにしがんだらしい核が落ちている。キッズには珍しく、いろいろきいてくるものがいた、リルって名前だっけな、、
 この星にはあちこち裂け目もあるし、その底で、クルを毎日育てながら、奴らは生きているのかもしれない。
 そう思って、前所長は、小山から、ぐるりを見渡したが、どこにも、なにも、気配はなかった。

文字数:8206

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