赤いお父さん

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梗 概

赤いお父さん

五月の大型連休中。人気の少ないテーマパークの屋外ステージでヒーローショーが行われている。
そこで戦う真っ赤な正義の味方に、憎しみのこもった目を向ける少年がいた。

少年の父は平凡なサラリーマンとして日夜上司に怒鳴られながら、一方で週末になると真っ赤な衣装に袖を通し、ごく少数の子供達に夢を与えていた。
家でも会社でも頼りなく情けない父親が、全く別の存在として拍手を受けている。少年はその嘘くささが不快で仕方がなかった。
怪人役を務める、近所の酒屋のおじさんは決まってこう言う。「アイツは本当に大したヤツだよ」
青春時代をラグビーに捧げてきたおじさんは、少年の父親よりも遥かに体格がいい。
こっちの方がよっぽど地球を守ってくれそうだけど、怪人のスーツはとても重いので、おじさん以外に務まる人がいない。
それに比べて、レッドのスーツは軽い。少年は、自分の父親がヒーロー役なのは非力だからなのだと信じて疑わなかった。

父親は大の特撮オタクで、休日になると戦隊モノのDVDを見たり、子ども向けのはずの玩具を集めて悦に浸っている。
特に大切にしているのは、どこで手に入れたかもわからない小さな指輪。
他のどの玩具に触れても何も言わない父が、それだけは触らないように、と念を押す。
少年はかつて一度だけ、そんなにヒーローが大切なのかと尋ねたことがある。
すると父親は「お前が一番大切だ」と、しかつめらしい顔で言った。それが少年の記憶に妙に残っていた。

ある日、父親がオタク気質であることを理由に、少年はクラスの男子にいじめられてしまう。
少年の怒りは男子達ではなく、原因を作った父親に向いた。
一番大切なものが今、どうなっているかもわからないくせに。
父親が大切にしていた指輪を押し入れから持ちだして、少年は家を出た。
電車に揺られて知らない街に降りたところで、少年は怪人にさらわれてしまう。
最初は酒屋のおじさんが自分をからかっていると思う少年だが、次第に事が大きくなり、現実に起きていることだと分かって恐怖する。
そんな少年を、必死の形相で助けに来た父親。
まるで段取りが決まっているヒーローショーのように怪人の手下を倒していく父親が別人のように映る。
背後から襲ってきた怪人の攻撃を受け、父親が真っ赤な血を吐いている。死んでほしくないと強く願う少年は、父親に促されてポケットの指輪を放り投げた。
その指輪を装着した父親は、勇敢な戦士へと姿を変えた。
怪人を倒し、感動の再会も束の間。父親の背後に忍び寄る生き残りの手下。
そこに現れた黄色い姿の男性が、手下をラグビータックルで吹き飛ばす。変身が解けると、それは酒屋のおじさんだった。
二人はかつて、別の時空で地球を救ったヒーローだったのだ。

八月上旬の夏休み。人気の少ないテーマパークの屋外ステージでヒーローショーが行われている。
そこで戦う真っ赤な正義の味方に、誇りを抱いた眼差しを向ける少年がいた。

文字数:1194

内容に関するアピール

ヒーローと聞いて真っ先に思いつくのは、僕が大好きなアニメ「ピンポン」です。ヒーロー見参。
小さい頃こそジュウレンジャーとか仮面ライダーV3(夏休みの再放送)とか見てたんですが、
自分はあまり特撮に興味がなく……でも、日本人の中にあるヒーロー像って、間違いなく仮面ライダーと戦隊モノの二つが大きな存在になってると思います。
自分の作品がSFかどうか、はもう気にしないことにしました。目新しさもないかもしれませんが、地に足ついたもんを書き続けて、最後までこのスタイルで戦い抜きます。

文字数:236

課題提出者一覧