梗 概
ヒーローの見えざる手
アメリカ空軍パイロットが操るステルス戦闘機が、高度30万キロメートル――雲のはるか上をマッハ1で飛行していた。
どこまでも青空が広がる光景を前に、パイロットが「天国は殺風景だ」と呟くと、「退屈している神様に挨拶しておけよ」と管制塔から通信が返ってくる。パイロットが軽口を返そうとすると、見た事もない謎の雲と遭遇する。その数時間後、突如発生した大量の大気エアロゾル粒子によって成層圏が傘のように覆われているのが判明したと世界中の報道機関が発表した。
一方その頃、世界中の海岸で先月から爆発的な大量発生をしていた新種のプランクトンについて研究をしていたチームが、プランクトンの遺伝子が人工的な操作をされている可能性を突き止める。そして陸では、日本列島を走る四つのプレート内を流れるマントルの動きが急激に変わり、マグニチュード5を超える地震が例年の10倍以上も多発している事を地震学会が発表した。
突如して地球規模の環境大変化が続々と発生し、人々が言い知れぬ不安を感じていた頃、アメリカ国防総省の内部資料が流出して事態は急転する。その資料によるとアメリカ政府は何らかの知的生命体――資料内のコードネームで言えば「インビジブルハンド(以下IH)」が、地球の環境改変「ジオエンジニアリング」を行っているのではないかと調査を進めていたのであった。
異星人による地球侵略か。
世界中が恐怖し、IHの正体を掴もうと調査を行うが尻尾を掴む事すらできず、その後もIHの仕業と思われる地球改変が次々と起きていく。人々は絶望の淵へと叩き落されるが、その一方でIHが起こしたと思われる地球改変は生命が持続可能な環境を整えるための改良処置であるという説が広まっていく。実際、成層圏を覆う大気エアロゾル粒子は地球温暖化を抑え、遺伝子操作されたプランクトンはマイクロプラスチックをはじめとする海洋を漂うゴミを消化し、頻発していた地震はむしろ大規模な地震を防ぐためのガス抜きであるとの調査結果が出てくる。IHへの恐怖心は消え失せ、一転して神のように祭り上げられる。
すると、世界中の政治家や宗教家や活動家達が、自分達こそがIHの真意を理解できており、自陣の味方であると主張し始める。IHを巡る正当性の争いは徐々に激化し、自らの正当性を担保するためにIHの仕業と見せかけて奇跡を自作自演する者まで現れる。そして、IHを巡る争いは国際問題へと発展し、複数の国家がIHは我々の側についており、敵対する国家に核ミサイルを発射しても止める事はなく、それこそが我々の正当性の証明になるとの主張を展開する。
一触即発の情勢が続く中、大規模な地震や火山噴火といった自然災害が世界中で発生する。IHの怒りを買ったのではないかと争いは収まるが、それでも自然災害はIHが登場する以前の頻度へと戻ったままで、地球改変は消滅。
我々は「神」を失ったと人々は嘆いた。
文字数:1200
内容に関するアピール
お題であるヒーローの物語としては、変化球な内容かもしれません。
ただ、今の時代にヒーローについて考えた時、どうも肩身が狭そうな気がしました。
お前は誰の味方なんだ? とすぐに問われて何らかのポジショニングを与えられ、
そのポジションの中で活動する事になってしまうような感じがしてしまいました。
それはどうもヒーローっぽくない。
だったらいっそのこと、誰の味方でもないヒーローを作れないかと考えた結果、このようなお話となりました。
最終的にやっぱりヒーローなんて今の時代には無理だい、という感じの救いのないオチとなってしまいましたが、
これは反面教師的な態度である! とアピールさせていただきます。
文字数:292