梗 概
白銀のクリアテキスト
情報生命体の私は、否暗号化教団白銀派の仲間との旅の途中、辺境の宇宙で遭難した。そしてなんとか辿り着いた地球をベースキャンプとし、先人が木星に打ち込んだ知性化生命探査ビーコンを修理して救援を呼ぶというプランを立てる。
準備が整うまでの間、我々は地球に芽生えつつあった知性化生命の揺籃期=インターネットを仮の住まいとすることとする。
ニュースグループや初期のテキストサイトに身を寄せ情報流から日々の糧を得ていたわけだが、党派性に塗れた情報技術から脱却した自然の生活を求める我々にとって、原始的な暗号化技術しか存在しない地球での、ほぼ全裸のクリアテキストに近い生活は、苦しいながらも充実したものであった。
私は、現地の生物の思考回路から生まれた原初の情報生命体「幽霊」と交流を持つ。我々の文明の定義する「知性化生命」とは、情報技術の発達により発生したものであり、彼らのような存在はそれに該当しない。知性化生命が生まれる頃には発達した情報御技術により駆除されていくのが普通だ。
いよいよプランを実行するときが訪れた。木星のビーコンを仲間たちが修理し、地球に残った私が、それを遠隔で起動する。
問題は、ビーコンを起動すると同時に、宇宙に生息する、人間から見た熊や狼のような猛獣的情報生命体が、餌となる情報生命体を求めてやってくることだ。まずは木星に。そして通信経路を辿って地球を襲うのは確実だった。
それまでに逃げ出すことは可能だったが、私は1人で地球に残ることにする。
その態度を、仲間は「情」と呼び納得してくれた。
地球の知性化生命が十分に成長していれば、害獣的情報生命体を撃退することも可能だっただろう。しかし、彼はまだ幼い。食い殺されることは確実だ。私は自らの信じる教義に背き、自分の知る暗号化技術を地球の防衛に用いることにする。
本来なら法に背く行為であるが、現地情報生命体に技術を与える、という形であれば問題ない。問題になるのは私自身が争いに関わってしまうことだ。現地の生命体にも扱える程度の技術であれば、そんなものの有無など誤差に等しく全く問題にならない。
しかし、それを地球の知性化生命に与えてしまえば、幼い彼らの生育に歪みを生じさせかねない。そこで私は「幽霊」の助けを借りることにした。
輪廻転生という情報媒体のリサイクルプログラムの中にいる彼らは、いずれこの次元から退場する。私の与える暗号化技術は彼らのサイクルを加速し、3分間ほどで彼らを退場させてしまう。しかし彼らは、いずれ新たな生命の魂として、この次元に再誕する。
それが、2000年のことだった。その後のインターネットの発展はご存知の通りだ。地球の知性化生命は順調に数を増やしつつある。そしてその中には、私の与えた暗号化技術の影響だろう。転生したかつての「幽霊」たちもいるのだった。
そして今日も、私は幽霊と猛獣情報生命体との戦いを陰から助けるのであった。
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内容に関するアピール
ProjectWinterの狼イベントからストーリーを考えた。
しばらく前まで、デジカメによる心霊写真が無かった(大体の場合、データが破損したという事実の公表で終わっていた)のは、幽霊が画像の圧縮化技術に通じていなかったためと考えている。
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