梗 概
美しい品を求めて
「さようなら。わたしはあなたの細工が施された品をもっともっと長い時間、眺めて、肌で触れていたかった。でももうあなたの前にいることは叶わない。」
「ぼくが美しいと評価できる品をつくれる者と出会えるのは、1億個星をまわって1つあればいい方なんだ。バンドゥーラ、あなたはその1人なんだよ。それなのに約束を破ってしまった。決して見てはいけないものを見てしまった。」ポノは堤防の上からバンドゥーラを見下ろしながらそう言った。空はミカンが弾けたように晴れていて、その青が、ポノのシャツとプリツァカヤのシルクドレスに映っていた。
「悪かった。どうか、ここを去らないでほしい。なにをしたら残ってくれる?いくらでも細工をつくるから!」バンドゥーラは叫んだ。
「実はね。一生あなたのところに居るのもいいかもしれない。そう思うくらい、わたしはあなたの細工が好きだったし、ポノもあなたの腕前とその更なる洗練ぶりに驚嘆していたの。でもこれは掟。あなたが破ったら、わたしたちはそこを離れなけらばならない、というわたしたちにとっての掟でもある。これを破れば、わたしたちは失われてしまう。」
「ぼくは恐ろしい声のようなものが聞こえたから!君たちが危ないんじゃないかと思ってドアを開いただけなんだ。君たちが中でなにをしているか見たかったわけじゃない!君たちがこの星の人間じゃなくても全くかまわない!出て行かないでほしい。どうか。」
「ぼくたちはこの星の人間じゃないどころか、この銀河の生き物でもなく、さらにこの宇宙の存在でもないんだよ。並行世界のそれまた並行世界の地球から遠く離れた星から、ここまでぼくの目に敵う品を求めてやってきたんだ。でももうここにはいれない。あなたがドアの中を見たからだ。ぼくたちは、並行世界から様々なモンスターを呼び出して、生きたままそれらの目をくりぬき、この星には存在しない色を抜き取ってそれでタペストリーをつくってプレゼントしたかった。でもそれは叶わなかった。行こうプリツァカヤ。もう時間だ」
「そうね。さようなら」2人は消えた。晴れた川辺にバンドゥーラは1人残された。
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内容に関するアピール
「パラソルをさす女 モネの夫人と子供」1875
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