それはシアワセではありません

印刷

梗 概

それはシアワセではありません

 西暦21××年。地球人類は滅亡することなく栄えていた。
幾度かの全面核戦争の危機を乗り越えて、地上での争いごとはもう止めにして宇宙開発に協力しあおう、ということに各国の意見はまとまり、今は地球・宇宙ステーション・月面という活動空間で地球人類は生活していた。総人口は約100億人だった。人々は概ね平和に暮らしていた。

 35歳になる宇宙船整備士のサトルも平穏な毎日を生きていた。
かつてサトルは宇宙飛行士として地球と宇宙ステーションを行き交う仕事をしていたが、10年前の宇宙船の事故で宇宙服を着たまま宇宙空間に放り出された。救助され命は助かったけれど、それ以来サトルは宇宙恐怖症になり大気圏外へ行くことができなくなった。サトルは宇宙飛行士はあきらめて宇宙船整備士の資格をとった。

 確かに人々は概ね平和に暮らしていたが、全人類が幸福に生きているわけではなかった。そんな中、あるAIが開発される。あらゆる人のどんな望みも願いも叶えてくれるというAIだった。日本人が開発したためそのAIは『シアワセ』と名付けられた。『シアワセ』を作った開発者は、学生時代のサトルと同じ研究室にいたサトミだった。サトミは大学卒業後は月面基地で働いていた。しかし、3年前に月の裏側で消息を絶っていた。サトルはサトミと再会して真実を知らされる。

 サトミは宇宙を彷徨う意識の集合体にさらわれた。集合体意識は約100億の単体意識が集まったものだった。かつてその意識達はある惑星で進化した知的生命体だったが、躰を捨てて意識だけになって宇宙空間で生きていくことを選択した。それから数万年経過して意識たちは宇宙空間を漂うことに厭きてしまった。躰が欲しくなった。集合体意識はサトミの躰を乗っ取って『シアワセ』を作らせた。

『シアワセ』は人々を幸福にするAIではない。人々の欲望・願望の想いを脳から吸い取り、何の欲も持たない腑抜け人間製造機だった。すべての欲望を失った人間はシアワセになったように見える。そんなシアワセそうな人々を見て、まだシアワセになれない人々は『シアワセ』のもとへと集まった。
 欲のない腑抜け人間が急増した。集合体意識は地球人類100億人を腑抜け人間にして、その躰を自分たちのものにしようとしていた。
 
 サトルは『シアワセ』は人類を決してシアワセにしないことを知ってしまう。

 サトルは真実を地球の人々に伝えた。しかし誰もサトルの言うことを信じてくれない。『シアワセ』の本体は月面にある。破壊しなければいけない。サトルは協力者を求めた。しかし、殺害予告まできて脅迫されてしまう。サトルの味方は一人もいなかった。

 サトルは捕らわれの身のサトミを救出する。そして宇宙恐怖症を克服して単身で月に向かい集合体意識と対決して『シアワセ』を破壊する。地球人類に欲望が戻ってくる。サトルに助けられたことは誰も知らなかった。サトミだけが知っていた。

文字数:1200

内容に関するアピール

強く正しいヒーロー、ヒロインとは?自分なりに考えて、
『正しいと思うことを、誰に反対されても強い信念を貫き通して実行できる人。そしてその行いを自分から言うことなく黙っている人』と定義して物語を作りました。宇宙恐怖症というトラウマを克服して孤軍奮闘するヒーローのサトルに、読者が心動かされるような実作を書きたいと思います。

文字数:159

課題提出者一覧