傷を舐めあう幻

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梗 概

傷を舐めあう幻

ある詐欺師が、地域振興策のイベントを過去手掛けた。
もちろん、インチキで中央からの補助金狙いの
つまらない仕事だったのだが、ある偶然から
その地域を通りがかった時、詐欺師の川尻は
地域のシンボルとして導入した、犬と猫が居た
ことを思い出す。その地域は、過疎と高齢化の結果、
人格データをホスピスという電脳空間に移した
人がほとんどで、物理人格の人々はますます過疎化が
進んでいることがわかった。
シンボルである年老いた犬と猫を面倒を見る人間は少数の
物理人格の人間の中でも更に少数だった。
電脳空間からの現実への干渉は厳密に規制されているので、手段はないように思えた。
冷酷な詐欺師な川尻だったが、生活に余裕ができ、他者に対する関心の代替えと
して物言わぬ動物に対して仏心を出す様になっていた。
もちろん、犬と猫の物理動物格?を電脳空間に送れれば
そうしていたかもしれないが、技術的に人間以外の動物は
電脳送りできないとされていた。
現実に残留した人間は、余裕がなく協力は望めない。
詐欺師としても、引き取って手間のかかる老犬、老猫の面倒を
見ながら暮らすつもりは更々なかった。
金もかからず、川尻の手間にもならない上手いアイディアがなければ
このまま見捨てることになるな、と思っていた時、
当時の話を思い出す。事業開始の会合で、
その場に似合わないインテリ風な男が参加していたことを思い出した。
彼が言うには、出来れば高齢化の激しい地域に顔の利く人の事業に
協力したいとのことだった。参加者全員がそんな旨味のなさそうな
仕事をしたがらなかったので、仕方なく一番下っ端の川尻とインテリの
二人で担当することになった。インテリは顔が利く人と仕事がしたかったし、
川尻は旨味がなさそうな仕事だったので、二人とも面白くなさそうにしていた。
そんな二人だが、馬鹿げた仕事も終わってみるとそれなりに打ち解けていた。
インテリ風な男、風間が言うことには、私の企業がこの事業へ
参加したのも、その政策を後押しするために地域振興のイベントを隠れ蓑に
するためだ、との話を酔って言い出す。
ある人々は父母に電脳空間送りを勧め、自治体としても経費の歳出の節約として
その事態を後押ししていた。ある電脳上の年寄りは現実上に身寄りをなくし、
またある電脳上の人物は現実上の人間から存在しない物として扱われ、
電脳的絶望からのデータ消去を選ぶ人々も発生していた。
川尻はふとそういう現実上との繋がりを捨てられない電脳人格を利用することを考え出す。
当時の詐欺まがいのイベントの人脈をたどり、ある種の特区を設立する構想を
考える川尻。そこでは捨てられた動物の面倒を電脳上の暇な人々に面倒見させる事業だった。
見捨てられた者同士に面倒を見させるプランで一儲けできるかもしれない、
と考えた川尻だが、どちらも救いようはない人々かもしれないが、合わされば出てくる答えは違うものだ、
と新たな事業に意欲を燃やすのだった。

 

文字数:1200

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