パポと私

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梗 概

パポと私

仕事の自動化が実現し始めた頃、モーリタニアでのタコの大量死を契機に新種の微生物、プロボスキスが発見された。この微生物の特徴は、細菌のように水分活性をすること、人の皮膚から侵入し、宿主を骨まで喰い尽してしまうことが挙げられる。
 更に、プロボスキスは一定量かつ一定密度を超えると群を形成し、独自の水の流れ《リュウ》を作り出し生物を襲った。プロボスキスによって絶滅寸前に追い込まれた人類は、一網打尽を防ぐため一定距離が取られた家屋で一人暮らしをするようになった。

海や河川、雨粒すら人類にとって脅威となり、仕事のほぼ全てが自動化された時代に、いまだ人が携わっている仕事が一つだけあった。それが水難救助隊だ。水難救助隊はチャルター社が経営する浄水場のサポート業務部門だったが、今や水に関わるトラブル全てを請け負い、日々死と隣り合わせの中で業務を行っている。
 専用の防水服が必須となる水難救助隊に属する主人公は、各地の水回り点検などをしながら、生来誰とも会わず、汎用型家庭用ロボット《ペアレント》と暮らしていた。

ある日の業務終わり、主人公は川辺で女性の死体を見つける。生まれて初めての生身の他人に近づくと、死体は直径約40cmの吸盤状の生物を抱き抱えていた。主人公はその未知の生物を持ち帰り、話しかけるとその生物は口らしき穴から「パポ」と音を鳴らした。初めて出会った生物に主人公はパポと名付けた。
 主人公とパポとペアレントの奇妙な生活が始まった。主人公は危険を顧みず素手でパポに触れたり食べ物を与えたりしながらパポと交流を図る。パポは時々口から音を鳴らし、ペアレントは忠告音を鳴らした。三者三葉のコミュニ―ケーションが少しずつ構築されていくなかで、主人公は初めて人生に彩りを感じる。

百年に一度の豪雨となった日、一級河川がはん濫水位に近づき、水難救助隊はリュウ対策のための出動要請が出された。主人公は河川までの距離が遠かったため出動要請はかからなかった。しかし、出動すれば生きている人間に会えるかもしれない。パポとペアレントが不安げな音を鳴らしたが、主人公は出動する。

現場に到着した主人公が目にしたのは、轟音を立て荒れ狂うリュウがあらゆるものを飲み込んでいく様子と、家の窓に映る人影だった。空恐ろしさと、自分以外の人間の存在への喜びが湧き上がると同時に、リュウがその家に向かって行くのが見えた。
一瞬の逡巡ののち、主人公は防水服を脱ぐ。家から方向転換したリュウに主人公は飲み込まれる。
 身体がポロボスキスに蝕まれていく中、遠くから聞き慣れた音がした。パポとペアレントが追いかけてきたのだ。パポは「ピポポ」と連呼し、ペアレントも同様に鳴った。主人公はそこで思い至る。そういえば自分には名前が無かったと。
 リュウが去り、弱まっていく雨のなか、ペアレントに抱き抱えられ、パポを抱き抱え、主人公はピポポという名を得て死んだ。

文字数:1200

内容に関するアピール

人との交流が断絶され、実感的に自分しかいない世界になった時、一個人という感覚は失われ、全ての事象が自身との距離においてのみ定義されるようになります。そうなった環境では、名前というものは意味消失し、あらゆる名前が以前からそう定義されていたからそう呼ぶという音でしか無くなり、自身に名前や一人称を使用する機会は無くなります。
 そのような環境で生きている主人公が、生物と出会い、人称を使い始め、最期に名を得る話です。
 一人称視点なので、作中では明示しませんが、この世界での国はすでに崩壊し、水難救助隊は残り少ない人類に生きている実感と生きがいを与えるため意図的に残された仕事となっています。

この梗概は第5期第1回課題で提出したアイデアを元に物語を再構築したものです。SF創作講座を2期受講してどれだけ自身が成長できたのかを確認出来れば良いなと思っています。

文字数:375

課題提出者一覧