金の雨

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梗 概

金の雨

 若い火竜のトレフィルは、雨の中を飛んでいた。霧と雨の中間のような、さほど強くない雨である。しかし濡れた布のように翼にまとわりつき、羽ばたきを重たくする。いっそ豪雨であれば開き直れるのだが、なまじ雨としてはたいしたことがない故に苛立つ。長く飛んでいれば、身体も冷える。ふいに水竜の気配を感じた。連中の仕業だ。更に苛々としてきた。もうすぐ目的地のはずだ。トレフィルは自分を鼓舞した。
 森の奥に立つ小屋の扉の前で、トレフィルは自分の姿を二足歩きの少年のそれにした。無論服は着ている。小屋の扉を叩くと、同じく二足歩きの老婆の格好をした地竜が出てきた。スリッドだ。中に招き入れられ、炉端で温かい飲み物を振る舞われた。うっかりと濡らして具現してしまった服も乾いていく。
 心地良さに、トレフィルは目的を忘れるところだった。スリッドに小袋を渡した。中身は金の粒である。人間の間で暮らす竜には重宝されている。
 用も済み身体も乾いたと、いとまを告げようとすると、ぶる、と身体が震えた。風邪、というやつだろうか。もう秋で暖かくもないから、ここで休んでいけ、とのスリッドの誘いに礼を言いつつも断り、外に出て竜本来の姿に戻った。運良く雨も止んでいる。気を抜いた瞬間、くしゃみが出た。ぼ、と勢いよくトレフィルの口から火が出た。
 火竜の炎だ。側にあった湿った落ち葉や枯れ木などが一瞬で燃え上がった。森が広範囲に焼ければ、二足歩きを含め、様々な生物に迷惑がかかる。仕方ない、とトレフィルは吠えて近くにいるらしい水竜を呼んだ。幸いすぐに感知されたらしく、若いのとやや年老いた水竜が飛んできた。トレフィルが説明するよりも先に状況を理解したのか、老いた竜が空に舞った。
 再びの雨だ。今度は激しい。雨粒も大きく、翼に砂利を大量にぶつけられたようだ。慌てて二足歩きの姿を取り、スリッドの小屋に駆け込んだ。若い水竜もそうしている。二足歩きの目では、滝がそのまま移動してきたように感じる。
 火は程なく消えた。
 状況を説明すると、老いた水竜は溜息をつき―竜の姿だが、流石に老練の者らしく、ささやかな風だけが吹いた―、二足歩きの姿になって、炉端で布にくるまれているトレフィルを軽く小突いた。周囲の生物に迷惑をかけた罰としては軽い。トレフィルは炉に手をかざした。
 身体の回復後、作物に被害を受けた人間達の住み処の前に、金が少しづつ置いておいた。
  以来、この地方では急な激しい雨を「金の前触れ」と呼んでいる。

 描写に自信がないのと、飛竜の目から見た雨がどうなのかよく分からないので、二カ所入れてみました。

文字数:1077

内容に関するアピール

 竜の視点から書いてみました。です・ます調か、だ・である調にしようかと迷いましたが、

です・ますにするといかにも童話風に成ので、だ・であるを選択しました。

文字数:76

課題提出者一覧