梗 概
深紅の雨が止んだら……
銀河辺境の惑星カリス名物の「赤い雨」が降る中、何でも屋の「俺」の車は、寂れた宇宙空港へ到着した。
「迎えに来るのが遅い!」
とお冠の宇宙考古学者のドロシーをなだめて、車に乗せる。
これから2週間、俺は、雇い主のドロシーの護衛兼案内役として、カリスの首都から車で半日の距離にある、古代異星文明ウルの遺跡に潜ることになる。
ウルの遺跡は、人類が進出した星系で、今や無数に発見されていた。
初めて発見された地球外知的生命体の痕跡……。
発見当初は、人類世界に大きなセンセーションが巻き起こった……。だが数十年の間に50以上の星系で、数百ものウルの遺跡が発見されるに至って、熱狂は完全に冷めた。
ウルの遺跡を訪れるのは、今や、よほどの好事家か、考古学者だけになった。
赤い砂で覆われた大地を駆け抜けた、俺の車は、遺跡に入口に到着。
カリスにあるウルの遺跡は、いわゆるファンタジーゲームに登場するダンジョンのような長大な地下迷宮だった。
巨大な紅モグラ(肉食)の群れをやり過ごしたり、どういう原理か、電子機器が一切作動しなくなる一帯を突破したりしつつも、裏ルートで事前に入手していたマップを駆使して、前人未踏の最深部へと、ドロシーを案内する俺。
数日がかりで、最深部の石室へ到達する二人。
数十ものウルの遺跡を精力的に回ったドロシーは「かつてウルが支配した、広大な星間領域で、カリスは何らかの重要な役割を担っていたのではないか?」という仮説を立てていた。
中央に思わせぶりに鎮座していた黒い「箱」(缶バッジ程の大きさ)を発見したドロシーは、それを自分のベルトに装着する。
再び数日かけて、遺跡を抜け、地上へ出た二人は、久々の陽光に目を細める。
と同時に、ドロシーの腰の「箱」が異音を発し始める。
その音に呼応するように、砂漠の赤い砂が、うねり出し、無数の筋となって、空へ向かって駆け上がっていく。
これまでカリスの人たちが、単なる赤い砂だと思っていたのは、ウルの遺した超微粒子サイズのマイクロマシンだった。「箱」の発した異音で、数十万年の長きに渡り、不活性化していたマシンが一斉に再起動を始めた。
「箱」が異変の原因と気づいた俺は、ドロシーのベルトから剥ぎ取り、地面に叩きつける。尚も異音を発し続ける「箱」に、銃弾を撃ち込んで粉々にするも、時すでに遅し。
砂粒同士が共鳴し、「箱」が発したのと同じ異音を立てる。
それは増幅され、伝播して、やがてカリス全土を覆い尽くした。
惑星全土から砂が舞い上がり、それを吸い込んだ雲が、数日に渡って、しとどに赤い雨を降らせ続けた……。
雨が上がった後、地上には建造物どころか、有機物の一欠片も残らなかった。
濡れそぼった赤い砂漠がただ広がるだけだった。
破壊と殺戮を終えた、赤い砂粒は、再び静かに眠りにつく。
だが、今度はそれほど長い眠りにはならないだろう。
文字数:1197
内容に関するアピール
「赤い雨が降る惑星が舞台のハードボイルドものを書くつもりだったんですよ~。信じて下さいよ~(酸性雨が降りしきる2019年のロサンゼルスの屋台の主人風に)」
私は、書きながら、先の展開を考えていくタイプですが、根っこにはエドモンド・ハミルトンのスペース・オペラ『キャプテン・フューチャー』シリーズがあるので、お話に詰まると「古代宇宙文明の遺跡」なんかに安易に頼りがちです(苦笑)
あと藤子・F・不二雄先生の「宇宙人の考えてることが、人間になんか分かるはずがない!」というオチの某作品も好きですね。
そんな私の脳内で「ハミルトン×藤子F×今回のお題」が悪魔合体した結果が、本作となりました。個人的にはハッピーエンドが好きなんですが、どうしてこうなった……?
実作にする時は、惑星上のあらゆるものを一掃していく、赤い雨の美しさを、丹念に描いてみたいと思います。
文字数:382