梗 概
雨の山
昔々、雨の降り続く山があった。
山の上には大きな穴が開いている。
幼い姉妹のシグレとツユの仕事は、人から預かったゴミを穴に捨てに行くことだ。シグレとツユは、今日も全身白い服のおじさんから預かった缶を山頂の穴に捨てに行く。
雨水のしみこむ薄いカッパを着て、重い荷物を背負って濡れた山道を歩きながら、シグレとツユは山の話をする。
この雨は人工降雨機で降らせている雨だということ。昔、日照りの時に山の穴が萎みかけたことがあり、政府はずっと雨を降らせることにした。この山の植 物は、この山にしか生えない。穴の中が、捨てられたものはどうなっているか誰も知らない。山に住む人は長生きできず、シグレとツユの両親も若くして亡くなった。それでも、この山から出て生きることは許されていない。
姉妹は山道を登り、大きな穴にゴミを放り込む。止まぬ雨で湿った小さな小屋で、姉妹は寄り添いながら暮らしている。「あの穴がいっぱいになることはあるのかな」心配するツユに、シグレは大丈夫だと言うが、最近小さな地震が続いていることが気になっていた。
シグレは今日もゴミをもってきたおじさんに地震のことを話し、調べて欲しいと頼むが無視される。
地震が頻発するようになり、不安になったシグレはゴミ捨ての仕事を辞めたいというが、ゴミを預ける人々はそれを許さない。シグレや ツユのような抗体のある者でないと、穴には近づけないからだった。
やがて、ツユが体調を崩す。シグレは病床の妹に両親から聞いた昔話をする。
シグレ達の先祖は遠い場所から旅をして、この地にたどり着いたものであり、その頃「山」はまだぶよぶよとした小さな塊で、穴も人一人がようやく入れるくらいだった。ある時、ご先祖様達は別の集落の人間に襲われた。激しい戦いになり、たくさんの死人が出た。困ったご先祖様は「山」の穴に遺体を捨てた。すると「山」はぐんと大きくなった。それから、穴にゴミを捨てるたびに「山」はどんどん大きくなり、長い月日の間に今の姿になった。
「私達の本当の故郷だろう」というツユに、シグレは「雨が降らない場所では空に星というものが見えるらしい。私達はそこから来たのかも」と言う。シグレはゴミとして捨てられた本を読んでいた。
弱っていくツユの薬代のためにシグレは寝ないで働くが、ツユは死んでしまう。
ゴミ捨ての遺体は汚染されているから町の墓地には入れられないと拒否され、シグレはツユの遺体を穴に捨てに行き、一緒にシグレも穴に飛び込んだ。
迫っていた山の限界が来た。山の穴から、それまで捨てられたものが全て吐き出され、近隣の町は吐瀉物の中に埋もれた。
後には毒の沼だけが残ったが、人工降雨機が壊れたために雨は止み、空には星が光っていた。
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内容に関するアピール
いい話風を装いながら、最後はゲロまみれという話にしました。
このゲロ沼から「山」と「抗体」を探し出して、新たな「山」を作ろうとする人物を登場させる予定でしたが、梗概に収まりきらなかったのと、自分で蛇足なのではという迷いがありやめました。
文字数:117