梗 概
ジャンク・ボヤージュ
人類が去ったどこかの星で〇と✖は出会った。
その星では人類が残していったゴミの資源化を無人のロボットたちが行い、人々の住む星へ自動で送っていた。〇と✖達ゴミは独自のささやかな電力網を築いていた。そのコミュニティを守るために発電モジュールを持つものは大切にされたり順番を先送りにしてもらっていた。同じ型式の機械で集まり自らレストアしたり、動きにくくなったヒンジをオイルで磨きあったり、壊れているなりに改造したりされたりしていた。彼らは自らが「資源化」される何百年かを待つ間に、独自のエコシステムを作り過ごしていた。〇はホームAIとして音声認識と言語のみだった。何世代も人とかかわり、蓄積した知恵でゴミ・コミュニティをまとめていた。移動型投影機(プロジェクター)としてホームバーを備えている✖は自分たちが使われていたころの映像を流して見せていた。ある日〇が旧い映画を見ながら言った。
「雨の中で歌うってどういう感じなのかな」
✖は〇の言葉にハッとした。そして自分の中に〇を(労いに近い)喜ばせたいと思っていることに気づいた。言語機能を持たない✖は20世紀末のNIKEのCMを流して見せた。それをきっかけに言葉があるものが口々に言う。「〇は夢を叶えるべきだ」「人型を探してみよう!」しかし、ゴミの山から集まったのはセルロイドの人形と人の描いてある看板だけだった。この星の年代記を知るDBが発言のあるものが使う音声出力装置を通して言う。「移殖初期にレイバー用の人型が作られていたはずだからプラントが残っている可能性がある」と。同行者は✖が立候補した。✖は自分がこの時ほど走行可能なことを嬉しく思った事はなかった。〇と✖はお互いをGPSモジュールでつなぎ、ゴミたちに見送られる中、旅に出ることになった。
人類が残した道路を使い二人は進んだ。〇は✖にマウントできるようなドッキングベイのついた蓋のない炊飯器に格納された。✖にはソーラー充電器が筐体に貼られ体重が重くなったが走行は安定した。悪路に横転し、道が途絶したり、幾度の困難にも協力しながら〇と✖は進む。
たどり着いた施設は〇が生まれ人型に換装されなかった思い出の場所だった。電源を入れるとセキュリティ・システムもリブートし〇と✖は時間がないことを知る。人型に換装され、よろめく体で外へと向かう。〇をかばった✖と、はぐれてたどり着いたところは廃棄用ヒト型の溶融部屋だった。
物体を検知したシステムが溶融液の散布を始める。〇の上から降り注ぐ液体。
〇は歌う「Raindrops Keep Fallin’ on My Head 僕は自由なんだ 何も心配ないさ」
体に当たる液体の重さを感じた。
歌うのはうれしい時ばかりではないことが分かった。
自分が消えてしまう恐怖を感じた。
✖と会えなくなる寂しさを感じた。
✖はモニターで〇が溶け終わるまでそれを見ていた。
願いが叶ったんだと考えていた。
車輪が一つ外れた。
文字数:1311
内容に関するアピール
お題をいただいて最初に浮かんだのが高橋葉介の「傷つきやすい青春」でした。それ以来頭から離れなくなってどうやって溶かすかばかり考えていました。伏線として旅の途中で機械の筐体のまま雨に打たれて何も感じなかった表現があればメリハリが出るでしょうか。ゴミたちの楽しい生活が書けたらいいなと思っています。
WordPress調子悪いのですかね。
文字数が多く表示されますね。
レイオフあったんでしょうか(余談)
文字数:197