梗 概
傘の下では殺せない
町外れの湖のなかで、若い男女が互いの身体の輪郭を確かめあっている。湖からあがり寂れた小屋の庇のもとで休憩していると、雨がふりだしてやがて町から煙があがった。二人は不安から手を握ろうとするが、その手は重なることなくすりぬける。
人間には二つの陣営があった。触れる人間か否かで分かれている。ある人から見て触れられる者・触れられない者同士は物質的に干渉できるが、触れられる者と触れられない者間は干渉することはできない。物体は触れている間、その人に触れられる側しか干渉することができない。例外としてお互いが濡れている時に限り、触れない相手でも触れることができた。
町は人口に対して家がたりず、触れられない家庭同士が一つの家に暮らしていた。お互いに相手を追い出そうと、相手世帯の持ち物を無断で使うなどの嫌がらせをしては言い争いを繰り返していた。雨が降ると人々は外に出てはケンカを繰り返す。平時の争いを避けるため、水道は屋外にのみ設置されている。
和己と莉茉は、同じ部屋が割り当てられている子どもである。幼少の頃、公園で水をかけられてイジメられていた和己を莉茉が助けたのをきっかけに、寝る前に雑談をするのが習慣だった。二人だけの秘密の関係は、高校生になるまで続き、相手が空想上ではないことを確かめるためときより秘密裏に湖へ出向くようになった。
ある日、とある住宅の寝室で人が収納ボックスに押し込められて溺死しているのが見つかる。部屋が濡れていたことから触れない相手に襲われたのだと論争が起こる。家族の犯行だと真相が判明してからも両陣営の溝は埋まることはない。そんな折に町から抜け出したふたりは、湖から雨のなか町が燃えているのを見た。
火の手は降り続ける雨によって鎮火したが、両陣営の怒りは頂点に達した。次の雨の日を恐れて町から避難する者が多くでるが、和己の家族も莉茉の家族も町を離れない。家の中で怒鳴り声が響くなか、二人で町を出ようと話す。
翌日、下校した和己が莉茉の帰りを待っていると雨が降り始めた。外に出た人々の争いには相手の命を奪うことを厭わない剣呑さがあり、不安を覚えた和己は莉茉を迎えに傘を持って高校へ向かう。高校でも生徒たちが争いあっており、襲われかけた莉茉を間一髪で和己が救う。武器として使った傘はひしゃげて使い物にならなくなり、予備の折りたたみ傘を差しだす。しかし、和己が持っている限り雨は傘を素通りして莉茉を濡らす。莉茉の足元に傘を置いて和己は告げる。
「傘を差して町を出ろ。戦わない奴だと知り合いに侮蔑されても危険は回避できるはず」
そして、ともに行動しては危ないからと行き先を告げて莉茉の元から立ち去った。
しばらく時間が経過して莉茉は歩き出す。町中は濡れながらも争う人々にあふれていたが、今や傘の外の出来事は些事同然とばかりに町の外へと向かっていく。
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内容に関するアピール
描写力に自信がないため、雨をきっかけに何らかの事態が引き起こされる世界を設定しようと考えました。
また、せっかく雨なので相合い傘のシーンを出そうとしました。
相合い傘はできていませんが、赤の他人同士がひとつ屋根の下で過ごすのも相合い傘みたいなものなのかなと思います。
ストーリーがあっさりしている分、現象を踏まえた生活や主人公たちと異なる周囲のスタンスや同調圧力の描写を掘り下げたいです。
文字数:191