梗 概
モニカの雨
モニカは生まれつき感情の起伏が少ない赤ん坊だった。
モニカの家は山の麓にあり、その街は雨が降り止まない土地だった。夫婦は高名な気象学者であり、気象調査のために引っ越してきたのだった。
モニカが大きくなり6歳になっても、モニカに感情らしいものは芽生えなかった。母親はモニカを不気味がった。雨続きの暗い天候は母親にとってストレスだった。母親は次第に精神の均衡を崩してその矛先はモニカに向った。母親は些細なことで叱りつけ、またときに些細なことで褒めちぎった。モニカには、むしろ母親が簡単に泣いたり笑ったり怒ったりすることが不思議でならなかった。
夫婦は降り続ける雨の調査を続けた。夫婦は家の裏の山のカルデラに目を付けた。カルデラは大変な高温でマグマが蠢いて水蒸気を絶えず発している。どうやらカルデラから蒸発した水分が雲を作り、街に降り止まない雨をもたらしているらしい。
モニカが10歳になったとき、母親はとうとう娘に手を上げるようになった。父親は母親の虐待から目を逸らしている。暴力を振るわれるとき、モニカは必ず雨の降る家の外に出されてそこで叩かれた。モニカは木の棒で背中を叩かられても、いっさい泣かなかった。母親はそれを不気味がってまた激高した。そして暴力が終わると母親はモニカを抱きしめて愛していると泣くのだった。
夫婦は街に雨をもたらし続けるカルデラを調べた。カルデラを温めているのはどうやら地熱ではないらしい。山の岩石を調べるとそれ自体が熱を発していて、山を構成するその岩石は人工由来のものであるとわかった。カルデラを構成する山そのものが巨大な人工降雨装置だったのだ。
夫婦は家に戻り議論する。このあたりの土地は考古学的な出土品が数多く見つかっており、古代文明の存在があったと推測されている。この降雨装置も古代文明の遺構ではないか。
ある日、母親が目覚めると家にモニカがいなかった。どうやら山頂のカルデラに向ったらしい。母親はモニカを追って山頂へ向かう。
頂上にやってきたモニカはぐつぐつと煮え立つカルデラを見つめる。自分にはなぜ心が無いのだろう。どうすれば母親が叶う感情を手に入れられるのだろう。モニカはそんなことを考える。
母親が山頂にやってくる。母親は感情を露わにしてモニカに怒りを爆発させる。そしてモニカの頬を打ち始めた。
ひとしきりモニカに暴力をふるうと母親は麓の家に帰ろうとした。モニカはその隙にカルデラに飛び込んだ。自分も雨になってしまえば、母のように心を表現できると考えたのだ。
モニカはマグマで溶けて蒸発して水蒸気となった。それは雲となりやがて降り注いだ。モニカは雨となった。
その雨は泣いているようにも怒っているようにも笑っているようにも見えた。モニカの雨は止まない。
文字数:1138
内容に関するアピール
荒れ狂ったり、穏やかだったり、くるくると変わる天気雨の様子を登場人物の気性と重ねて書きたいです。
雨を見ていると心が落ち着いたりうきうきと楽しくなったり心のなかにいろんな感情が芽生えてきますが、雨それ自体が怒ったり泣いたり笑ったり様々な感情があるのだとしたら、雨も一人の人間のように描写できそうです。今回はあまり物語に淫せずに、話自体はシンプルにして自然の描写や心理描写などのびのびと書きたいように書ければよいなと思います。
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