雨女と気まぐれテルテル坊主

印刷

梗 概

雨女と気まぐれテルテル坊主

その男の心の中は悪で満たされている。
 ある雨の日に男は殺される。殺害現場は、男の悪の念が浸み込んでしまったため、雨が降ると穢れた場所になってしまう。不浄の雨の中、男は怪物になって復活する。

小学生の清水佳奈は生まれつきの雨女だった。学校の運動会や遠足など野外行事がある日は必ずといっていいほど雨が降る。両親に聞くと、生まれた日も豪雨の夜だったらしい。「佳奈が生まれた朝、雨上がりの庭にこれが落ちていたんだよ」と父親から直径十センチほどの透明な球を渡される。
 自分は雨女なのだと自覚した佳奈は、その透明な球を顔にしてテルテル坊主を作った。晴れてほしい日の前の晩に、このテルテル坊主を軒下に吊るして寝ると、大雨を小雨に、小雨を曇り空にしてくれると佳奈は信じた。しかし、裏切られる日はたくさんある。そんなとき佳奈はテルテル坊主に文句を言う。「こんなに大事にしてあげてるのに、どうして雨を止ませてくれないの?」テルテル坊主は何も言わない。でも、ときどき夢に出てきて「明日は晴れるよ」と言ってくれる。すると翌朝は青空になる。だから、佳奈はそのテルテル坊主を大事にした。
 そんな佳奈も成長して仕事をしている。相変わらず雨女で、同僚からは雨を纏う女と揶揄されるけれど佳奈は気にしなかった。

その日、テルテル坊主は役立たずだった。土砂降りの雨の中を佳奈は仕事の用事で車を走らせている。同乗者はいない。夕暮れ時で視界は最悪。ワイパーを最速で動かしてもフロントガラスを滝のように雨が流れる。対向車と歩行者に細心の注意を払いながら佳奈は慎重にハンドルを握っている。裏切り者のテルテル坊主は車のダッシュボードに入れてある。今からでも雨を止ませてくれ!と佳奈は祈り続ける。

佳奈は穢れた地に迷い込んでしまう。

突然、視界の右側から黒い影が現れる。佳奈は急ブレーキを踏む。何かにぶつかる衝撃を感じる。佳奈は車を止める。衝撃があった地点から二十メートルほど進んでいる。バックミラーで後方を確認したけれど、激しい雨と夕闇でよく見えない。佳奈は傘を手に車外に出る。黒い塊のようなものが道の上に見える。佳奈は、その塊にゆっくり歩いて近づいていく。十メートルほどに近づいた時、その黒い塊がむっくりと起き上がった。そして、こちらに向かってゆっくりと歩いてくる。次第に走り始める。佳奈は慌てて車に戻りエンジンをかけて発進する。バックミラーを見るとその黒い人影は雨の中を追いかけてくる。速度を上げても離れない。むしろ、その距離を縮めてくる。

黒い塊の怪物は佳奈の車の後部に飛び乗る。そして、運転席に近づいてくる。佳奈は車を急停車させて、ダッシュボードの中に入れてきたテルテル坊主を手に外に出る。傘を持つ暇はない。びしょ濡れになりながら怪物から逃げる。
 追いつめられる。
 テルテル坊主を怪物に投げつける。
 不浄な雨は浄化されて清浄な雨になり怪物は消滅する。

文字数:1200

内容に関するアピール

雨女の清水佳奈が雨になると現れる怪物と対決する、といういたってシンプルな話です。全然SFではないのですが。
 全体を通して小雨から豪雨までいろいろな雨を降らせたいと思います。雨女の清水佳奈の小学生時代はちょっとコミカルに描いて、後半は激しい豪雨の中での佳奈と雨怪物との対決を、迫真に迫る臨場感のある文章で描きたいと思っています。自分にそんな筆力は皆無なのですが。

 

文字数:180

課題提出者一覧