愛しのスポンジボール

印刷

梗 概

愛しのスポンジボール

植民惑星に受刑者として輸送されたコグは、荒れ果てた大地にひたすらポインターと呼ばれる杭を打ち込む作業に従事していた。
コグの楽しみは1日1回の食事だ。
受刑にあたり外科手術を受けたコグは脳内にチップを埋め込まれており、スポンジボール(とコグは呼んでいる)掌大のボールを咀嚼するとその日の献立の味がする。
スポンジボールは献立に応じて触感が変化するようになっており、あらゆる食べ物を再現できるようになっていた。食事が終わった後はボールと同サイズの専用カプセルに入れておくと次回の食事までに完全殺菌、かみちぎった部分も修復されている。
栄養は光合成によって補給されており、疑似的な食事でしかなかったがコグにとっては癒しだった。

受刑者は記憶を消去されており、植民惑星に運ばれるまでの間、自分たち人間は機械との戦争に敗け犯罪者として植民惑星を開拓するのだと説明を受けた。
埋め込まれたチップの影響かコグは反抗もせず作業に従事し4年が過ぎた。
作業が滞ることはなかったが、退屈だったため、必然食事の時間をコグは毎日心待ちにするようになっていた。
口に含む物体は同じでも毎日違う献立のため食事がコグの心の支えだった。

5年目に突入すると岩場も増えてきた。ポインターを打ち込む位置はチップによって視界に表示されるため間違うことはなかったが、足を踏み外したコグは岩の隙間から地下に落下してしまう。
地下に入るとチップの機能が阻害されたのか、いままでと違うことが起きた。スポンジボールの味がしなくなったのだ。
チップの支配から外れたコグが地下を進むとそこには同じように不慮の事故によって支配を脱した受刑者たちが集まるコロニーがあった。
コロニーの受刑者たちは植民惑星からの脱出を試みており、コグもそれに加わることとなった。
地下道は広範囲に続いており、受刑者たち以外に機械たちが落下していることもあった。受刑者たちは落下の衝撃で壊れた機械を解析し、ポインターを打ち込んでいたのはどうやら星全体に広がる地下道を測定するため、地下道は輸送艦の発着場までのびていることが判明した。
発着場での輸送艦奪取を計画する一方でコロニー内のチップ無しの生活はコグには刑務作業よりつらかった。地下にはところどころ日光がさす場所があり光合成には事欠かなかったがスポンジボールの味がしないのは変わらずだった。
4年間の生活でコグはすっかりスポンジボールに依存していた。

チップの無効化に成功した同志たちは、輸送艦を奪取し脱出を図る。コグは無効化作業を誤魔化し、事前に機械からチップへ献立を送信する場所を特定していたため、同氏を尻目に真っ先にそこに向かう。口にスポンジボールを含み、突然の襲撃で混乱の渦中にある発着場で様々な献立を堪能するコグ。

ショートケーキをほおばっていたころ、窓越しに同志が乗っている輸送艦が落下していくのが見えた。

文字数:1182

内容に関するアピール

おいしくものを食べるために必要なことはなにかな、と考えて、なんでも最初が一番おいしいと思ってるいるので記憶を消すことにしました。

下手に色々知識があったり経験があるとおいしくなくなってしまうものもあると思うので、給食ライクな感じで毎日違うもの食べられるっていうのは

結構楽しいと思います。

 

文字数:142

課題提出者一覧