千両蜜柑SF

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梗 概

千両蜜柑SF

みかんというものが絶滅した世界。空前の長雨のせいで黒点病が大流行したためだ。

1940年のこと、ヒトラーが1週間寝込んだ。
 国をあげて名医が20人集められるが、原因が特定できず、全員死刑。恋煩いだと聞きつけた親衛隊長のヒムラーは、陸軍大将に相手を聞きにいけと命令。陸軍大将は海軍大将に、海軍大将は内務大臣にと、順に押し付け合い、24番目に諜報局長クルットラーにお鉢が回る。断れない性格のクルットラーがヒトラーからどうにか聞き出した言葉は、
「どうしてもみかんが食べたい。あの柔らかな、露のしたたる、甘みと酸味が兼ね備わった、みかん」
 ヒトラーは、クルットラーにみかん探索担当大臣を命じる。「みかんのため」であれば、全統治権を代理行使できる権限すら与られる。クルットラーはみかんを求めてヨーロッパ各国に敏腕スパイを派遣。一方、東方へはポーランド侵攻。海を越えて大英帝国へ食指を伸ばすためV2ロケット開発。果物市場を独占し価格カルテルを形成しているとして他民族弾圧、みかん農園の建設資材の確保のためゲットー建設。それでも見つからないみかんを栽培するため、遺伝子研究がぐんと進み、化学兵器も進化。パリ占領。ロケットでロンドン陥落。ついに、ヨーロッパ統一。それでもみかんは見つからない。ヒトラーはは言う。「あの甘みと酸味の…」開発競争でもアメリカを追い越し、長引いた大西洋戦争で完全制圧。みかんを宇宙で!と宇宙開発競争でもソ連に勝利。
 ドイツは世界帝国を樹立する。
 それでもみかんは見つからない。老いたクルットラーは、毎夜みかんの幻を見、それがいつしか現実感を帯び始めみかんの妖怪「みかんちゃん」となる。みかんちゃんと旅するうち日本の和歌山県有田市に秘密研究所を見つける。
「みかんは、あり、ます、か?」
 所長は答えた。「わが研究所は、遺伝子技術を駆使し、長年、実験・研究してきたが、病害のため非常に難しい。現存するのは奇跡の1個のみかん。冷凍保存してある」値段はいくらでも出す!というと、「では、世界帝国1個と引き換えだ」と。クルットラーはベルリンに戻り、全帝国あげて、有田市に向けて世界中の核弾頭配備を完了させる。その上で、クルットラーはおそるおそるヒトラーに報告した。しかし、ヒトラーは言った。「それで、全然いいよ」クルットラーは、みかん1個を捧げて、故国へ凱旋。神輿にみかんを捧げての大パレードと帝国を上げての祝宴。
 96歳のヒトラーが涙の最後の演説。最後にみかんを剥き、10房のうち、1房を美味しそうに味わう。全世界に中継。
有田市は世界を征服。帝国の首都に。妖怪みかんちゃんは偶像化され、有田市の中心つくられた帝国議会の正面に、巨大な黄金像が建設。
 ヒトラーはクルットラーに残り9房のうち3房を授ける。みかん1個に世界帝国1個分の価値なら、1房は大陸1つに当たると。わが父と母の墓前に1つずつを。1つはお前に、と。クルットラーは、3房を持ち逃げする。その後の行方は知れない。

〈了〉

文字数:1238

内容に関するアピール

古典落語「千両蜜柑」をもとに、バカSFを書いてみようとおもいました。

冬にしか食べられない蜜柑を、夏の盛りどうしても食べたくなって床に臥してしまった紀伊國屋のドラ息子のため、番頭がみかん探しにあけくれる話です。みかんを見つけないと旦那が死んでしまう、自分は殺人犯になると思い込んで旅をしますが、最後には日本橋の大きなみかん問屋で、たった1個のみかんを見つける。値段は千両。しかし、あっさりと支払った大旦那。ドラ息子は感謝の気持ちを込めて、10房のうち3房を番頭に預ける。番頭は、みかん1房の価値を勘違いして、持ち逃げする、というお話です。先日、立川志の輔さんの高座を聴いて感動しました。

聴いているといい加減な設定だな、とか僭越にも思うのですが、いざSF化しようとして、設定をずらそうとすると、うまくいかない。つくづく本当によく出来ているものだと、感心しました。

作中に出てくる妖怪「みかんちゃん」はこちらです。

 

文字数:403

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