どんなに美味しくつくっても

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梗 概

どんなに美味しくつくっても

 沼越雄介は腹ペコだった。
 始まりは三日前の日曜日。同棲中の麻理亜にオムライスを作ってもらった。できたての温かい湯気がたつふんわりとした黄色い卵焼きのうえの赤いケチャップに、雄介がスプーンをサクッとさした瞬間、青い炎がぼっと燃え上がりオムライスは黒い炭になってしまった。それ以来、麻理亜が料理をどんなに美味しくつくっても雄介が食べようとすると燃えて炭になってしまう。「雄介、もしかしたら餓鬼になっちゃったんじゃない?食べ物を粗末にしたんでしょ」麻里亜が言った。裕介にはそんな罰当たりなことをした心当たりはなかった。
 このままでは餓死してしまう、というパニック状態になった雄介は、ファーストフード、ファミレス、ラーメン屋、牛丼屋と手当たり次第にいく。注文したもの全部が燃えて店内は大騒ぎになり雄介は店から追い出される。幸いなことに水だけは飲める。
 
 雄介の頭に幼児体験が蘇る。五歳のころ母親から食事を与えてもらえず餓死寸前の腹ペコになった記憶だ。雄介は親戚に引き取られて育ててもらった。本当の両親は今はどうしているのか雄介は聞かされていない。
 
 雄介は空腹に耐えきれずにコンビニでおにぎりを買って、コンビニ駐車場で燃え尽きる前に食べようとして失敗する。それを見ていたコンビニ店員に放火魔と間違われて警察に通報されてしまう。交番に連れていかれて、石田巡査に自分の身に降りかかっている災厄について話す。「おまえの言うことが真実ならこれを燃やしてみろ」と石田巡査はカツ丼を雄介に出す。食べようとする雄介。燃え上がるカツ丼。信じる石田巡査。

 石田巡査は雄介の生い立ちを調べるために雄介の育ての親の親戚から話を聞く。
 雄介の本当の父親は二十年前に死亡。母親は二十年もの間意識不明状態で入院していた。ところが、先週の日曜日に突然意識を取り戻したが死亡した。
 沼越家の先祖に、遊び好きで贅沢三昧の限りを尽くしていた人がいた。ことに食べ物に関しては欲望を抑えることができずに、人の迷惑も考えずに我がままを通して自分の食欲を満たしていた。その不摂生が祟ったのかその人は三十歳になる前に早死にしてしまった。その先祖は餓鬼になってしまった。雄介の母親はその餓鬼の霊に憑りつかれてしまった。幼い雄介に食事を与えることができなくなった。と親戚は語った。

 石田巡査は推測する。
 自分の中に餓鬼の霊を封印させるために雄介の母親は意識不明になっていたのでは?
 その霊が母親の体から抜け出して今は雄介に憑りついているのではないか?
 まったく信じられないことだけれど今の現象を見ればそうなのかもしれない。

 雄介は自分の中にいる餓鬼の霊を追い出すために自分を食べようとして自分を燃やす。雄介の中にいた餓鬼の霊が火にあぶられて雄介の体から外に出る。餓鬼の霊供養のために麻理亜はオムライスを作る。雄介が美味しそうに食べると餓鬼の霊は消えていく。

文字数:1200

内容に関するアピール

何かを食べたくなるには腹ペコ状態になるのが一番!という思いからこのような話を作りました。ぜんぜんSFになっていないのですが。。。
実作は、食べたくても食べられない主人公の目の前に、美味しそうなものを次から次へと出して、読んでいる人も食べたくなるように書きたいと思います。

文字数:134

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