人新世アントロポセンの美食行

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梗 概

人新世アントロポセンの美食行

遠未来、太陽系から遙か遠く。原始惑星に人類が降りたって永い年月が経った。雌性のプラヌラと雄性のラタリアは、同じ幼生学校で育ち十三歳を迎えた。互いを好ましく思う二人は誓いを交わしつがいとなった。これから互いの親を訪ね、その可食器官を食むことで成体へと変化する。伝承の「始めの人」とよく似ているとされる彼らと親の姿は似ても似つかない。プラヌラは鯨族げいぞくの子、ラタリアは駝族だぞくの子として生を受けた。どの種族も子は親と似て生まれる。しかし千に一つほど、特別な胞衣えなに包まれ胎児で早く産まれる子がある。彼らは幼生学校に集められ、地に根を張った木族ぼくぞくの樹乳で育ち、親は違えど皆一様の姿の幼生に成長する。

二人はまずプラヌラの親を訪ねることにした。しかし、大洋を回遊する鯨族を捜すのは難しい。そのための案内人を雇うには代価が必要となる。二人は蜂族ほうぞくの城で女王の世話係をし蜜蝋を得た。壺一つの手付けで汎族はんぞくの案内人、クィジコを雇う。彼は大柄だったが幼生のプラヌラたち同様にあまり特徴がない。放浪生活にはその方がいいと聞かされる。クィジコは蜜蝋があるなら塩も欲しいと言う。海辺の儒族じゅぞくの土地に寄り海水を煮詰める火の番をする。這うにも泳ぐにも適した儒族は、その巨躯を海水に浸して眠りをとるため夜は火の不寝番が必要なのだ。

浮き島のように大きい亀族きぞくの背に乗り、プラヌラの親を捜し当てるクィジコ。鯨族の可食器官の鰭を得て食べるがピンとこない。鰭を入手したクィジコは蜜蝋を用い鮮やかな手つきで鯨鰭の甘露煮を作る。とろける食感と初めての濃厚な味覚に魅了される幼生の二人。ラタリアの親の駝族だぞくは、砂漠を渡り交易に従事する。クィジコは行商路を突き止め砂漠の畔の町で待つ。長い尾を持つ親の背中は脂肪の瘤で覆われている。一つをつまみ取り脂を刺身にする。ねっとりとして癖のない味。塩水に漬けて干し麝香椒じゃこうしょうを振り炒めるクィジコ。脂の旨さが引き出された絶品に思わず溜め息が漏れる。

クィジコとの契約はここまでだ。プラヌラとラタリアは礼を言い、最後に汎族の身を食べたいと頼み込む。互いの親の身を味わい、二人は他の種族も知りたいと思うようになった。汎族は特定の可食器官を持たない。痛覚が無いという右の腹にナイフを刺し、抉り取った肝臓を炙って与えるクィジコ。その玄妙な味わいは、遺伝子として取り込まれる前に二人の幼生の情熱に火をつけた。

成体となる転機はペアの精神的合意の上でしか訪れない。十年越しのペアを解消する者もいる。成長が止まる猶予期間モラトリアムの幼生は半端者だが、どこにいて誰と接しても許される自由がある。今後を問うクィジコに「世界を歩いてみようって」とプラヌラが答え、ラタリアが続ける。「この世を味わい尽くすまで!」

文字数:1198

内容に関するアピール

舞台となる原始惑星に入植した人類は、生態系への非干渉を最優先として自身を作り替えています。食物から摂取してきたビタミン類は体内で合成し、超高効率な光合成器官を細胞内に取り込みました。体内の細菌との共生すら排除し、ミネラルウォーターと日光だけで生存を可能とまでしています。陸に生命はなく、海に珪藻のような生物しか存在しない世界に降り立った人類は、自然界のあらゆるニッチに適応を進め、可食器官の摂取による遺伝子の水平伝播の仕組みまで整えています。

梗概に登場した以外の草花に相当する種族や、普段は食物を口にする習慣を持たない人々の可食器官や種族ごとの特産品に対する嗜好。また、クィジコの身に付けている、その多彩な調理法についても、もっと描写したいと思っています。

文字数:328

課題提出者一覧