梗 概
毒蛇を穿つ者
大陸の南方に位置する、小国オクム。
この国では王位継承の儀式として、聖地に生息する大蛇「バジリスク」を狩猟し、その肉を食すことで、王座に就くことが認められる。
長く国を治めてきたオクム王・ゴドルタは己の衰えを感じ、2人の息子のどちらかに、王位を譲ることを決意する。
ギサント王子は、兄のカシュー王子と王位継承権を争っている。カシューは横暴な性格であり、弟のギサントとは仲が悪い。また、カシューは兄である自分が王位を継ぐのが当たり前だと考えている。
カシューの妨害に遭いながらも、苦難の末にバジリスクを狩ることに成功したギサントであったが、肝心の調理が難航していた。
バジリスクはその身に強い毒を持つ。普通の調理方法では、死んでからも肉の隅々まで浸透した毒が、食す者の命を奪うのだ。
「バジリスクの肉は、滝壺に3日間浸すと毒が抜ける」との言い伝えがあり、歴代の王たちは、その方法で毒抜きをしてきた。
だが、ギサントが狩ったバジリスクの肉は滝壺に浸しても毒が抜けず、調理人と毒味役が命を落としてしまう。
バジリスクの肉を食すことが王位継承の絶対条件であるので、言い伝えが通用しなくても、ゴドルタ王は例外を認めない。
八方ふさがりになるかに思えたそのとき、駆け出しの宮廷料理人・エゴシが、バジリスクの毒を取り除く調理方法を自分が確立すると宣言した。
エゴシは、バジリスクの毒を除去するために、さまざまな調理方法を試す。
出来上がった料理を微量だけ取り分け、自ら毒味を行う。
微量でも、バジリスクの毒はエゴシの体を徐々に蝕んでいった。
ギサントもエゴシだけを犠牲にすることをよしとせず、自分も毒味役を買って出る。
そして遂に2人は、毒を除去する調理方法を発見した。
その方法とは、バジリスクの肉を切り開いてから串を打ち、聖地の特定の場所だけに生える木を燃やした火で焼くというものだった。
ギサントはバジリスクの肉を食べて、王位を継承する資格があることをゴドルタ王に示し、王位を継承した。
毒に体を蝕まれていたエゴシは、ギサントが王になった姿を見てから、静かに息を引き取る。
この調理方法は「蒲焼き」と名付けられ、後世における王位継承の儀式の際には、バジリスクを蒲焼きにして食べることが伝統になったという。
文字数:940
内容に関するアピール
変わった食材を調理する話にしたいと考えていたところ、思いついたお話です。
実際の蛇は苦手なので、毒を持たない蛇であっても、手で触るのは遠慮したいです。
文字数:74