梗 概
楽園は近くて遠いところ
人類の寿命が格段に延び、星間飛行が当たり前になった時代。人々は、飛躍的に進歩したテラフォーミング化の技術を活用して、地球以外の星へ散り散りになっていった。
長い長い時を生きる双子の姉妹は、とある星でたったふたりで暮らしている。臆病で疑り深く、死への恐怖にとりつかれた姉は、住居兼研究所に籠りきりで、この星が命を終える日や突然の災害や不運などに備えて、他にも自分たちが居住可能な星を探し続けている。条件の良い星を見つけると、自分たちが住めるように星を造り替える計画を立てる。妹は、その星へ向かうための船をつくり、実際にその星へ赴いて姉に命じられた通りに星を造り替える。造り替えた星の数が100をこえた頃、姉の行動はどんどんエスカレートしていき、手当たり次第に星の造り替えを命じるようになった。今までは、お互いの存在が不可欠だと信じて疑わなかった妹も徐々に姉に不満を抱き始める。
ある日、ふたりの家の前に小さな銀色の球体が落ちてきた。妹は姉に命じられて球体を調べると、球体の中にキノコの菌が入っていることが判明。妹はキノコを「ミュケ」と名づけ、育て始める。ミュケがどこかほかの星からやってきたことに気づいた妹は、ミュケの存在が姉に知られたら、ミュケのいた星やその周辺の星々も造り替えるよう命令されるのではないかと思い、球体はただのデブリか何かの類だろうと姉に嘘をついた。しばらくすると、ミュケは手のひらと同じくらいの大きさまで成長した。ミュケの透き通るような青い傘は暗闇で仄かに光った。妹は、姉の命令に従って他の星を自分たちの都合で造り替えることへの罪の意識や苦悩、姉への葛藤など今まで誰にも言えなかったことをミュケに打ち明けるようになる。次第に、もっとミュケと意思の疎通ができるのではないかと考えた妹は、ミュケにアンドロイドの身体を与え、ミュケの発する電気信号を自分たちの言葉に翻訳できる機械を作った。
しかし、身体と言葉を手に入れたミュケは妹に無断で姉の前に姿を見せてしまう。ミュケは、自分が別の星から来たこと、そして、その星がいかに素晴らしいところかを姉に熱弁した。最初は半信半疑だった姉も、次第にミュケの言葉を信じてゆく。数日後、とうとう姉はミュケの母星に夢中になり、次は妹をミュケの母星へ派遣する計画を立て始める。ミュケは、昼夜を問わず姉に協力した。
妹には、ミュケの行動が理解できなかった。ミュケは毎日姉にべったりで、でたらめに思えるような母星の素晴らしい話ばかりしている。妹は、無二の友のように思っていたミュケに裏切られたような気がして塞ぎこむ。それでも妹は、ミュケの母星を造り替えることに抵抗を覚えた。ミュケを星に帰し、自分は姉の呪縛から逃れるためにどこか遠くの星を目指すことを密かに決意する。妹はミュケの母星よりもうんと遠くまで行ける船をつくり始めた。
ミュケの星へ出発する日の朝、妹は自分で利き手の指を折った。怪我を理由にミュケを助手として一緒に母星へ連れて行くために。姉は、あっさりミュケの同行を許可する。妹は姉の反応に違和感を覚えるが、ミュケと一緒に母星へ旅立つ。久々のふたりきりの状況にお互い気まずい。妹は、ミュケの真意がわからないままで、どう接してよいのかわからない。
ようやくミュケの母星に着くと、そこには粉々に砕けた星の欠片が辺り一面に漂っていた。妹がミュケを問い質すと、ミュケは母星が命を終える前に、かつての母星の住人たちに逃がしてもらって、たまたま姉妹の星に辿り着いたのだと明かした。そして、姉に母星の嘘をつき続けたのは、妹を姉から解放するためだったと語った。また、それが姉の秘めた願いであったことも。姉は、妹がそうであったように、ミュケにだけ自分の心の内を打ち明けていたのだ。姉は早々に母星が粉々になっていることに気づいていたが、妹を送り出すためにミュケに騙されたふりをしていた。ミュケは、自分を育ててくれて身体をくれた妹への恩返しと、姉の切実な願いを叶えるために妹と一緒に来たのだと笑った。
一緒にうんと遠くへ行こう、とミュケは妹の手をぎゅっと握った。妹は、ふいに姉を恋しく思うが、いつかきっとまた会えることを信じて、ミュケと一緒にさらに遠くの星を目指すことを決意する。
文字数:1757
内容に関するアピール
嘘というのは、良くも悪くも変化をもたらす、または強いるものなのではないかと思います。なので、嘘によって変化する関係性をテーマにしました。また、今回の課題は、「ドラマに力点を」とのことだったので、自分のためにつく嘘ではなく、他者のためにつく嘘のお話にしてみました。そっちのほうが、それぞれのキャラクターの思考や行動により様々な動きが出せるような気がしたので。。
設定は、人類の寿命がうんと延びたり、テラフォーミング化の技術が飛躍的に進歩したり、星間飛行が当たり前になったりした遠未来です。姉妹はどこか人ならざる者の雰囲気で書く予定です。すこし怖い絵本みたいな感じで。萩尾望都の「半神」が大好きなので、なんとなく、イメージを寄せられたらと思います。
文字数:323