恥の多い人生を送った男は牢獄で星を編む

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梗 概

恥の多い人生を送った男は牢獄で星を編む

キリス星人の少女・ミュは子供ながらに、衛星まで足を運ぶことを許される年齢になった。
 その年の夏、彼女は自由研究の為に、牢獄衛星アルカキューブに向かった。そこにはたったひとりの男が収容されている。誰もが知っているが、罪状はほとんどの者が知らない。看守達は注意するものの彼女が行くのを止めなかった。ただ、監視球眼が彼女の周りを飛び回り、危険がないか見張っていた。アルカキューブは宇宙空間に浮かぶ黒いクリスタルだ。キューブの中にはミュと同じ金属質の強化皮膚を纏った若い男が座っていた。彼は光輝く糸で編み物をしている。
「あなた悪い人だってね」
 ミュが言うと、青年は笑みを浮かべた。
「悪い人と分かっていてここへ来たんだ」
「どんな悪いことしたの? 教えてよ!」
「いいよ」
 青年はあっさりと答えた。拍子抜けしたミュ。
「恥の多い人生を送ってきた」
 構わず青年は静かになぜ収容されるに至ったか語りはじめる。

 ある宇宙でのことだった……。

 それはひとつの星を破壊する物語だった。語る間、彼はずっと編み物をしている。色とりどりの球体を編み、作り終える度に、愛しそうな顔をするのだった。
「何を作っているの?」
 青年は答えなかった。

 家族や友達は彼女を咎めた。母親はミュの脳波伝達突起の発達の遅れを嘆く。ミュは嫌な気持ちになった。再びアルカキューブにやってきた彼女は青年にお話ししてくれと頼む。

 ある宇宙でのことだった……。
 
 青年は多元宇宙を旅して数々の星を破壊した罪について語った。ミュは彼の語り口に魅了さていった。
 ミュは思い立って、アーカイブで彼のことを調べる。閲覧制限がかかっていた。しかし、名前はユウラということ、かつてキリス平和統一軍に属していたこと、歳はすでに二万を超えていることが分かった。平均寿命が五千年である彼女の惑星ではあり得ない年齢だった。牢獄にいる彼はとても若い男に見える。他の宇宙に行く方法はまだ彼女の惑星にはなかったが、ミュは彼が実際に宇宙間移動をしていたのだと思った。

 ある宇宙でのことだった……。

 友人は自由研究をまとめるミュに、中断すべきだとアドバイスした。反発心を抱いたミュは、彼をもっと知ろうと、何度もアルカキューブへ赴く。

 ある宇宙でのことだった……。

 彼女は青年にどうやって宇宙を移動したのか聞く。そこに看守がやってきて、キューブを移動させようとする。うろたえるミュ。青年は編み物しながら
「僕は星を編んでいる。僕が壊して、解けてしまった星をなおしているんだ」
 とにこやかに言った。ミュは何も出来ず、移動されていくアルカキューブを見送る。

 それから千年。成人し、科学者になった。彼女の脳波伝達突起はちゃんと発達した。それにより、彼女は自分達の種族が事実に反することを言う事が出来ない種族だと理解できるようになった。彼の言うことはすべて本当だった。
 彼女はいま母星を捨てて、他の惑星で、多元宇宙の研究と星を編む技術の研究をしている。彼女の記憶には星を編む青年の真摯で愛しげな表情がこびりついて離れなかった。

文字数:1261

内容に関するアピール

なぜ、嘘やだましを行うのか、ということについては、調べる時間がなかったのですが、動物の脳が発達したと同時に、生き残る為に得た何かなのではないかと思っています。(研究書とかあったら教えてください)
 嘘を言わないことが生き残ることに有利に働く種族がいたとして、そんな種族における嘘とはなにか。そんな事を考えて書きました。嘘を言わない種族であれば、彼らの話すことはすべて事実であるとして、荒唐無稽な話もすべて事実として受け止められなければならない。そんな世界で規格外の事実を語る者が現れたら……。ちょっとどころではなくまとまりがないですがそんな発想からスタートした話です。うん、穴空きまくりだ。
 ところで看守なんで止めないんですか。危ないでしょうが。でもそれじゃあ始まらないから許してほしいです。甘え? 実作ではその辺をちゃんと詰めます。はい。主人公のミュがなぜ罪人を自由研究に選んだのかですが、発達の遅れによって、事実を事実として受け止められないからです。嘘かもとか思うから好奇心で研究しにいっちゃう。異端児ですね。
 ある宇宙でのことだった……。以下はいくつか星を破壊したエピソードを書く予定です。ちょっと怖いもの、ちょっと笑っちゃうものもあるはず。ユウラの動機とか能力の理由とかも決めてはあるのですが、迷った挙句、全部削除しました。判断ミスってたらやだなぁ。
 ユウラはずっと事実を語っています。いまの宇宙から別の宇宙に移動したことも、星を破壊したことも、編み物をすることが、破壊した星を修復する行為であることも。だから人々は恐れて収容したというのが本当のところなのでしょう。
 しかしまぁ、本当のところってなんなんでしょうね。私たちの世界に本当とか事実とかってあるんでしょうか? お題、とっても難しかったです。す。

文字数:755

課題提出者一覧