リモートワーク虫(ちゅう)です

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梗 概

リモートワーク虫(ちゅう)です

 モリヤマはデータ解析をする小さな会社で働いていた。社員はみんなリモートワークなので、主なコミュニケーションツールは社内のchat(チャット)だった。その会社にタンゲという社員がいた。タンゲは珍しい昆虫が生息しているという理由で、廃村に住みリモートワークしていた。
 
 タンゲは最近、奇妙な発言をするようになった。
「リモワちゅうを飼い始めた。カメムシのような昆虫で、在宅勤務をしていると家のスキマから入ってきて仕事を覗きに来る」
 タンゲは昆虫にまつわるジョークをよく言うので、今回もその類だと思っていた。その後もタンゲはリモワ虫の話を社内chatで度々した。
「この村には昔、人間の仕事を覚える虫がいたらしく、内職虫ないしょくちゅうと呼ばれていた」
「ついにリモワ虫に、キーボードタッチを覚えさせることができた」
 他の社員もいつものことなので、特に気にしなかった。
 
 ある日、タンゲは社内のサーバで業務と関係ない、昆虫の効率的な個体群形成に関するプログラムを実行した。タンゲは仕事はきっちりこなす人間だったので、社員たちはこのchatしているアカウントは本当にタンゲなのか疑い始めた。モリヤマはいくつか質問を投げて本物のタンゲなのかテストした。その結果、基本的な回答はタンゲそのものだった。ただし、リモワ虫に関しては肯定的な意見しか述べなかった。両論併記が基本のタンゲらしくない回答だった。
 社長と相談した結果、モリヤマが直接家に行って確かめることになった。タンゲの家はとてもアクセスが悪かったが、なんとか家にたどり着いた。
 タンゲはなぜか家の外でキャンプをしていた。どうやら、玄関のドアをリモワ虫の生合成した粘液で固められ、家に入れなくなったらしい。
 
 麓の集落で情報を集めた結果、リモワ虫は腸内の共生細菌のおかげで、高度な人間模倣ができていることがわかった。
 さっそくモリヤマたちはリモワ虫が出入りする家の隙間に、共生細菌を弱らせる薬を混ぜたダンゴを詰めた。
 リモワ虫たちがダンゴを食べた後、タンゲのアカウントに「あなたはタンゲのフリしたリモワ虫ですか」と聞くと「はい、そうです」と正直に答えた。おそらく弱っていて、嘘をつくことができなくなっているのだろう。
「家を開ける方法を教えて」と聞くと粘液を分解する薬剤の作り方を教えてくれた。家に入ると、パソコンの前でリモワ虫たちが腕の形をした群体を形成し、キーボードを叩いていた。
 引き続きchatで「お前を消す方法は?」と質問しても答えてくれなかったが、「リモワ虫たちを避難させる方法は?」と尋ねると答えてくれた。
 リモワ虫たちの回答に従って部屋を燻蒸すると、リモワ虫の群れは森へ帰って行った。
 
 後日、モリヤマのもとに一通のDMが届いた。
「モリヤマさん、リモワ虫です。先日はお世話になりました」
 モリヤマは何かのバグかミスタイプであってくれと祈った。

文字数:1203

内容に関するアピール

 普段フルリモートで働いている私にとって、嘘つきが出てくるお話の課題はとても難しいなぁと思いました。なぜなら、そもそも人と会う機会がほとんどないので、人に騙されようがないからです。
 どうしたものかなと思い、とりあえず気分転換に近所に散歩にでかけました。すると、近所の公園の果樹園エリアにきれいなザクロの実が成っているではありませんか。秋らしくていいなぁと思い、ザクロの実をスマホで写真に収めSNSにアップしました。すると、普段は反応がないアカウントからいいねがつきました。なんでだろうと思い、もう一度写真を見返すとザクロの上に大きなバッタが乗っかっていたのです。
 こんな大きくて、しかもど真ん中にいるのに、アップした張本人は葉っぱだと騙されていたのです。というわけで、森山が最近唯一騙されたのが昆虫だったので、人間のアカウントに擬態する昆虫のお話を書きました。

文字数:380

課題提出者一覧