梗 概
誤記
流行作家、海薫が亡くなり個人全集を編集することになった。その編集にあたり、故人の過去作を集める中、故人が商業作家になる前に同人誌に寄稿した作品のある一文が目についた。家族との生活を綴ったもので、奥さんとの生活を書いた短編小説だった。その中の一文に「娘二人と」とある。題材自体はありふれているものだが、編集は違和感を抱いた。収集した遺品の中に故人の家族写真があり、その内容と齟齬があったからだ。
その写真もまた極ありふれた光景で、写真館で撮ったものではなく、故人の奥さんが何気なく写した生活の断片でしかない。写真には三人の娘が写っていた。その内の二人は故人の葬儀でも会っており、写真からも特徴が見てとれたが、見知らぬ三人目はそのどちらとも似ていなかった。
故人の短編小説の内容自体は奥さんとの生活が主題であり、「娘三人」が実は誤記であって修正しても別に内容には問題ない。しかし実際に「二人」だったのか、あるいは実は誤記ではなく何らかの意図により、三人目が秘されているのか。その確証を得たかった。
二人の娘さんは奥さんの連れ子だそうである。ではこの三人目の娘は、故人の結婚前の子なのかと、編集は気になりそれぞれの娘さんに連絡をとってみた。答えとして、二人姉妹であり、三人目の姉妹などいないと、どちらも答えている。また、故人に連れ子など居なかった、と。
だが、妹さんの方はこの写真に写っている娘に覚えがないというが、姉の方はかすかに覚えがあり、他愛のない会話をした覚えがあるという。当時は親戚の子ではないかと思って、素性など特に気にはしなかったが、後に親戚付き合いが始まった後も遭遇することはなかったから、結局誰だったのかは分からない、と。
その人と連絡が取りたいが、広告を出しても全く連絡が来ない。そこで個人的なつながりもあるネットの動画配信者でインフルエンサーの麻呂と名乗る男に相談した。麻呂もこの話に興味を示しており、報酬次第で探すのを手伝ってやるという。成功報酬という前提で依頼することにした。
果たして後日、本人だと名乗る女性から連絡があった。「確かに故人の娘であり、血のつながりもある」と。写真の人物とも似ている。しかし、それは故人の再婚前の奥さんの連れ子や代理母ではなく、故人が産んだ娘だ、という。
実は故人は結婚前に性転換を行なっており、その前に出産したのが私だ、と主張する。だがそのことは伏せられており、結婚する前に多額の養育人とともに里子に出されたそうだ。
その養育費の条件が、性転換の事を公表しないこと、と。だが、一度だけ遠縁の子という名目で故人の結婚後に遊びに行ったことがあった。故人と会ったのは、それきりだったという。なぜ性転換したのか、父親は誰なのか、この秘密を誰にも打ち明けさせなかったか、という疑問については本人も知らないとのことだった。
そして最後の確認として、海薫の短編小説の一文、姉妹の数の「三人」は誤記として扱い、「二人」に訂正して良いか? との問いに了承を得た。
後日、麻呂にどのような方法で見つけたのかと聞いたら「海薫について流言飛語を伝手の経由でばら撒いた。そのうちの一つに実は性転換者だとな。ただ、事実かどうかはどうでも良く、目立った動きを示した奴にDMを送った」と。「証拠を公表されたくなかったら編集のところに行け」と。「実際に編集部まで訪れた最初がそいつだったんだろう」
「何故海薫が性転換を行なったのか」と何気なく聞いてみた。「実は心当たりもあるが、突き止めるなら追加の報酬になるがどうするか?」と聞かれ「全集編纂には関係がないので」と断った。
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内容に関するアピール
嘘つきとデマゴーグとして、それぞれ作家とインフルエンサーを配置しています。ノンフィクションライターでもないのなら作家は皆嘘つきなので、作家の他にもう一人胡散臭いのを出しました。
文字数:88