狼少年と狼少女

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梗 概

狼少年と狼少女

氷河期。都市の警備の一翼を担うロボットのブルーは、言語機能に不具合があり、すぐ嘘をつく。虚言障害というべきバグで、単純に表せばアウトプットの一つ手前にNOTの論理回路が置かれているようなものだが、実際にはAIの複雑な言語処理の機能不全であり容易に障害を取り除くことはできない。

この時代、クローン再生された狼が都市を取り囲むツンドラの中に群れを作っている。狼少女のランはその狼とヒトのキメラである。どちらにもなれる変幻自在の身体を持ち、ひとりで都市の周囲を徘徊することが多い。

青が珍しく正しい報告を上げ、ランの接近を知らせる。しかし都市の制御知性群は青の報告を虚偽と判定する評価ルーチンを有効にしていたので、報告は無視される。ランは都市に侵入し、青と直接対面する。

ヒトとしてのランは言葉を解する。青と会話を試みるが、嘘ばかりで(すべてが嘘ではなく、真偽が混在するので相手を混乱させる)会話が成立しない。ランを創った魔道マッドサイエンティストは変身を制御する薬をランに与えているが、会話のストレスで薬が切れ、野生化したランは青を襲う。戦いの途中、他のロボットから誰何があるが、青はとっさの嘘で「誰もいません、問題なし」と答えて、結果的にランをかくまうことになる。

他に誰もやってこない青の管轄で(嘘吐き認定されても警備の任は解かれていなかった)、二人は会話と戦いをくり返す。青のボディはランに破壊されることはないが、勝ち目はない。二種類の薬が自動的に注射され、ランはヒトと狼の間を行き来する。その中で交わされた会話から、都市の成り立ちや、青の役割と障害を知る。ランは青の言葉の真偽によってボディの動作や表情に微細な差異があることを、狼の観察能力で見抜き、ヒトの言語能力で正しく理解できるようになっていく。

都市とは、氷河期前に何十億人もいたという人間のゲノムや文化を保管している、惑星に幾つか残るデータセンターの一つである。人間の一部を実体化してロボットと共に保全作業に就かせているがほぼ無人だ。青たちロボット、制御知性群、実体化した人間すべて都市の従属物である。都市から逃亡した野人や魔道師がツンドラには棲息するが、都市は彼らを敵とみている。むろんランも。

制御知性群が青にランの排除を命じてきた。バグも直せるという。しかし記憶とデータ処理は不可分だ。バグ改修と共にランの記憶もおそらく失われる。従おうとする青に対して外へ逃げようとランは訴えるが、青の精神の大半はボディではなく都市のクラウドにある。都市を離れられないと理解している青は「二人で逃げよう」と誘う。ランは言葉の真意を理解して、青の肩に噛みつき、倒して逃亡する。

改修後の青の肩に、深い歯型の傷があった。傷の理由は表層記憶から削除され不明だが、残すべきだと深層記憶が働きかける。青は傷を残す。嘘をつく方法は覚えている、次は自覚的に。

文字数:1200

内容に関するアピール

ボーイ・ミーツ・ガールの物語です。ただし少年はロボット、少女は人間と狼のキメラ。嘘つき常習の狼少年と、言葉と身体の振る舞いから真意を見抜くことができる狼少女の、出会いと別れの物語を書こうと思います。物語冒頭は、童話で言えば狼少年は二度嘘をついて信用されなくなったところからの開始となります。

舞台設定は文明が実質的に滅んだのちの氷河期の地球で、人類のデータを保管する都市をAIやロボットが守り続けています。変貌した世界で人間が生きられるかどうか試すために生み出された人間は、都市の周囲を野人となって徘徊したり、残された科学技術で合成生物を創ったりしています。そんな人類の都合とは関係なく、狼少年も狼少女も生きていて、別離の後の、未来の再会の可能性を残して物語は終わります。

前回課題(今回実作)はSF性皆無の路線でいったので、今回はSFを書こうと考えています。

文字数:378

課題提出者一覧