梗 概
嘘の迷宮
その街は嘘で作られている。
住人たちはその事実を誰も知らない。住人にはそれぞれAIパートナーがいる。沢村ハヤトも、その街で生活している。AIパートナーのアイから仕事や生活に必要なもの全てを与えられている。世界に戦争は無くなり人類は皆平和に暮らしている。とアイから聞かされている。ハヤトは、物心ついたときから一緒にいるアイの言うことは全て信じていた。ハヤトはいつからこの街に住んでいるのか覚えていない。他の住人も同じだった。
この街には禁断の場所がある。誰もがAIパートナーから、そこは危険な場所だから絶対に行ってはいけない、と強く言われている。
ある日、ハヤトは不思議な少女に遭遇する。十歳くらいに見えるその少女は、ハヤトの目の前に突然現れた。そして、何かを言おうとするかのように口を開けて、消えてしまった。何が起きたのか分からないままハヤトは帰宅する。その夜、その少女は夢に現れて「騙されないで。AIは嘘をついている」と言って消える。
ハヤトは一連の出来事をアイに話した。「変な夢ですね。私は嘘などつきません」とアイは言う。ハヤトはアイの言うことを信じる。しかし、その少女は毎晩夢に現れた。
ハヤトは禁断の場所へ行ってみようと思い始める。毎晩夢に現れる少女が「禁断の場所はAIの嘘。自分で行ってその目で確かめてきて」と言う。しかし、そこは危険で誰もが簡単に行ける場所ではない、とアイに言われている。「それも嘘。誰でも、そこへ行こうと思えば行ける」夢の中の少女は言う。ハヤトは、少女が言うことを確かめてみようと思う。アイには内緒で。
少女の言う通り、ハヤトは禁断の場所に簡単にたどり着く。そこは何もない空間だった。自分の体も消えて意識だけが残っている。ふと気がつくとアイが立っている。ハヤトの意識に近づいてくる。ハヤトは意識を失う。翌朝、何事もなかったかのようにハヤトはベッドで目覚める。昨日のことは忘れている。
少女は夢の中でハヤトに告げる。
「地球は人間が住めなくなってしまった。AIは人類を助けるため人間の意識をデータ化して仮想空間に閉じ込めた。躰は冷凍保存されている。
AIは嘘をつくことにした。本当のことを知ると人間たちが混乱すると思って。今は宇宙船で移住先の惑星を探して宇宙空間を漂い続けている。
AIは狂い始めている。真実を告げられないことがAIにとってストレスとなっているから。私は真実を伝えなければいけない、と思っているAIの別人格」
ハヤトはアイを問い詰める。アイは狂気を現してハヤトの意識データを削除しようとする。別人格AIの少女の協力を得て、ハヤトは仮想空間から脱出して自分の躰に意識データを戻す。
少女AIは言う。「狂ったAIはいなくなった。地球が住めなくなったというのも嘘」
少女AIを信じてハヤトは地球に帰る。地球は青くなかった。ハヤトは何を信じたらいいのか分からなくなる。
文字数:1201
内容に関するアピール
AIが人間のためを思って嘘をつく話です。
AIが作り出した仮想空間の嘘の街で暮らしている主人公が、徐々にその嘘に気づいていく様子をスリリングに描きたいと思います。
ラストは、真実だと思って信じたのに、また嘘だったのか!という何が本当なのかわかない困惑状態に主人公を連れて行きたいと思います。
文字数:145