梗 概
私の知らない女
2020年夏、コロナが流行せず、東京オリンピックが開催された世界。
スポーツトレーナーとして働いている男のもとにフェイスブックのメッセンジャーで外国人から連絡が入る。
それは男が高校生3年生の夏休み、オーストラリアに短期留学した際、ホームステイしたホストファミリーの長男ニックからだった。
当時17歳だった男。ニックは1歳年下の16歳。イギリス系の父、スリランカ系の母、そしてニックと年の離れた4歳の可愛らしい妹がホストファミリーにいたことを懐かしく思い出す。
東京を仕事で訪れるから会えないかとの連絡だった。東京行きが決まり、20年前、自分の家にホームステイをしていた日本人の高校生を思い出し、フェイスブックで探し出し連絡をしたという。大人になったニックの姿を見たいと思ったが、彼は一枚も自分の写真をアップしていなかった。
1日目
東京でニックと再会すると、記憶の中の彼とは別人になっていた。父親はイギリス系の白人だが、母親はスリランカ出身で、彼も浅黒い肌に、カールした茶色い髪をしていた。目の前にいるニックにあの頃の面影はない。完全な白人男性である。不審に思う男だが、ニックは当時を語り、確かにそれは男も覚えている懐かしい思い出なのだった。彼の父親は健在で、母親は若くして癌で亡くなったことをそのとき知らされる。
ニックと東京観光をし、明日、どこに行きたいか男が尋ねると、浅草の山谷に付き合ってほしいところがあるという。なぜ、そんなところに行きたいのか訊ねると、ニックは簡易宿泊所の中にオフィスを構える霊能力者に会いたいのだという。その通訳をしてほしいと頼まれる。
2日目
男はニックと三谷を訪れ、彼と霊能力者の会話の通訳を務める。
ニックはそこで初めて自分の妹がアメリカに留学に行き行方不明になっていることを話す。家族みんなで彼女を探した。何度もアメリカを訪れた。でも、結局、見つからなかった。口にはしないが、家族みんながそれぞれ、かわいかった妹が、誰かに暴行され殺されるところを何度も何度も想像した。母親は心労を重ね、癌で亡くなった。妹が生きているのか、死んでいるのか。生きているのなら、どこにいるのか教えてほしいと霊能力者に伝える。
妹はすでに亡くなっていると告げる霊能力者。
しばらくひとりにしてほしいとオフィスを出るニック。
ニックを追いかけようとする男は霊能力者にあることを告げられる。
3日目
男は日本を発つニックを羽田空港まで見送りに行く。ニックは男をハグし、ハガキを手渡す。
「ママの遺品から出てきたんだ」
そのハガキは高校生の男が、日本に帰国する直前に、自分宛に出したものだった。切手の料金が足りず、ニックの家に戻ってきたという。しかし、そこに書かれている内容にまったく身に覚えのない男。
国際線の搭乗口に向かうニックは微笑みながら男に言う。
「まさか、本当に俺のことをニックだなんて、思ってるわけじゃないよな?」
文字数:1200
内容に関するアピール
2020年夏、コロナなど流行せず、東京オリンピックが無事に開催された世界のお話です。
高校生の頃にホームステイしたホストファミリーの長男から20年ぶりに連絡があり、
東京で再会しますが彼が別人にしか思えないという物語です。
文字数:109