さすらいのマリア

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さすらいのマリア

春のおわり、細い道の青いところを踏みながら、ネロは近く十歳になる体にはちょっと大きめのいびつな銅鍋の、両側の取っ手に小さな石をあててしっかり挟み込み、ゆっくり丘を上がった。空は薄く曇り、斜面に生えた膝までもない薄い草のなかを九十九折りに曲がる小道は、丘を越えるとそのまま緑の葉の光る林に降りていく。
 林の下は草も少ない。木々の合間に、幹と幹のあいだに狭い天幕のようにはりめぐらせた、すこし薄汚れたシーツが見える。紐で腰を絞めるズボンにあたまからかぶって孔から首と腕を出す衣の腰を帯で締め、木靴を履いた少年は、天幕の前に立って声をかけた。
「ごはん」
 返事はない。地面に鍋を置いて天幕を下から引き揚げて中を覗き込む。天幕に囲まれたちいさな部屋ほどの空間には、ネロの体より細い二本の木の、低い二股のあいだに張られたハンモックがあるが、誰もいない。
 鍋を天幕のなかに引き込んでハンモックのそばにおろしネロは声をあげた。
「マリア」
 やはり返事はない。ネロはハンモックのそばにおかれた、木製の簡単な腰掛に座った。これは兄のヨカンが、この天幕をマリアのために用意したときに、家の隅に押し込んであった角材などからつくったものである。
 ネロは鍋の蓋に手を当てた。まだかなりあたたかい。ネロは立ち上がって天幕から出て林のなか、そのあたりをすこし見て回った。マリアが来て以来ヨカンのいないときはネロが鍋をもってくる。その都度炊きものにいい枝など落ちていないか探すのだが、そう頻繁にあるものでもない。気配を感じて斜面のよこをに目を向ける。オレンジのショールをかぶって、ゆっくり痩せた浅黒い女性がやってくる。三十歳ほどである。
「マリア、ごはんをもってきたよ」
「ありがとうね」
 マリアはまだ遠いところからことばを返した。
「今日は誰にも呼ばれなかったのよ」
 ネロについてマリアも天幕に入り込んだ。ネロは鍋の蓋をあけて中身を眺め、マリアは腰掛に座った。ネロは、マリアの膝に蓋を裏向けて置いた。マリアはハンモックの頭側をしばりつけた木の根元においた物入袋から、塗りの入った大き目の木の杓子を取り出した。
「すまないね、今日も特別だね」
「今日も同じだよ」
 ネロは小声でつぶやいた。このやりとりを数日つづけていて、何が楽しいのかわからなかった。
「毎日が特別なのよ、今日もちゃんとやってきたのが特別なの」
 鍋から煮込んだ鶏の骨と芋の粉を練った団子を蓋の裏にあけ、骨をしゃぶり始めた。ネロは立ったままそれを見ていた。
「肉を外した後の骨のところしかくれなかったんだよ、スープもとるからってこれだけ」
 しゃぶりながらマリアは二重の目をネロに向けた。
「どこにいっても、食べて寝るところだけは何とかしてもらえるんだからありがたいわよ」
 頷いて微笑み、杓子で鍋から汁を掬って口に運んだ。
「いままで、いろんなところでいろんなもの食べたんだろ」
 マリアは、口の中のものを呑み込んではその合間に話をする。
「そうだね、もっとひどい野宿もあったし、ちゃんとした部屋にいさせてくれたこともあったね、「守る人」もいろいろよ、ヨカンみたいに、私にはなにもさせずなるべくのことをしてくれる人ばかりじゃないわ」
「前世がないと、そんなふうになるんだね、僕は前世をもらえるんだろうか」
「滅多にないことだからね。十のときに、あたしには前世がないことになって、父さんは口をきかなくなったし、母さんは、しょっちゅう泣いてたわ、それまで仕合わせだったのにね、兄も姉も前世をもっていたのに」
目を鍋の奥から離さずマリアは肩をすくめた。
「十五で家から出されるまでは、それでも何とかなるのかと思ってたのだけどね、あとは、守り男から守り男にわたされていくのよ」
 顔をあげてマリアはネロと目を合わせた。
「今、かわいそうと思った?」
「わからない」
「そうね」
 マリアは軽く微笑んだ。
「わからないものを、かわいそうに思ったり、笑ったりしないのよ、わからないものは、わからないだけなんだから」
 余計わからなかったがネロはそのまま黙り込み、マリアは骨をしゃぶるだけしゃぶるとの蓋のすこし脇に戻して、汚れたスカートの裾で指を拭き杓子に団子を載せてかじりついた。じっと見ているネロにマリアは、
「ネロはごはんたべたの?」
と訊いた。
「うん」
 じゅうぶんとはいえなかったが、マリアがいる間はマリアが優先なのだと、母と自分に宣言した兄に逆らう気はなかった。
「兄さんは、細工師のほかに、マリアを守るのが前世からの仕事だからね、でも、いままでの前世で、マリアに会ったことはなかったらしいんだけど。だからどうやって守ったらいいのかわからないんだって」
「あたしには前世はないからさっぱりわからないわよ」
 鍋の蓋をマリアはネロに渡した。
「今までの人は、前世のどっかで私にあったらしくって、その前世でやってきたことが人によって違うんだけど、ヨカンみたいに腫れ物に触るようにされることはなかったよ、今回あたしに慣れて、将来の世ではもっと気楽に接してくれたらいいけどねえ」
「気楽じゃないと困る?」
 杓子の汁をすすって、マリアはネロを見た。
「気楽すぎても考えものよ、あたしをいろいろこきつかう人だっていたから」
「どんなふうに」
「いろいろよ、知っても仕方ないことは知らない方がいいわ、嫌な気持ちになるだけだから」
 杓子を引き上げてこれもスカートのすそで拭き、物入袋に放り込む。底に残ったスープには団子がまだひとつ残っていた。
「ありがとう、おなか一杯になったのよ、なにもせず話の相手してくれて、ネロはいい子ね」
 ネロは載ったままの骨をスープに戻して蓋を鍋に戻した。軽くなった鍋を取っ手を今度はそのままもって天幕までいくと、マリアが立ち上がってやってきて、通れるように引き上げた。
 丘の上に戻ったネロは、蓋を開けて鍋から直接口にスープを流し込んだ。スープは口の脇から頬、頸に少し流れた。ネロはスープを飲み干し最後に団子を口に含んで、残った骨は地面に捨てた。
 咀嚼しながら曇った空の下を見た。丘の下には十軒ほどの、石と煉瓦を木組みにあわせた平屋が並び、隅の井戸には人影があった。そのまわりには、乾いた土とわずかな草の生える土地が広がり、ところどころの区画に濃い緑があった。かなり離れてかすんむあたりに、隣の集落があり、そこには社(やしろ)もある。
 目の下の家の一つから、金属を叩く音が聞こえてきた。まだ兄は戻らない。ネロは、空になった鍋に蓋をして、ゆっくり丘を降り始めた。

晴れていた。ネロが朝早くからやってきた、隣の集落の社のそばの、掘っ立て小屋に近い学校には、七歳くらいから十歳までいろいろな年齢の子供たちがいた。十歳で子供たちは「前世」をもらうことになっている。前世をもらったら、大人の仕事の手伝いを始めるものも多く、その上の年齢まで通う者たちは、昼過ぎて仕事がおわったらくるのである。
 髙さ数mの円錐の社は壁は土で固められ、南に向いた戸口の中は、赤い土を撒いた床に金属の台が立って、水晶の玉がのっているのが見える。
 学校はその社の入り口前の空間に、西側から出入り口をあけていた。四人ほど並んで座れる長い机と椅子が八列おかれ、入口の反対にむいて右に少年、左に少女が座り、社(やしろ)の主(あるじ)である教師が、奥の黒板に学年ごとの課題を書いていた。やや老い痩せて額の禿げた社の主は、黒い長いガウンを白っぽい上下のうえにかぶっている。
「もうじきだね」
 石板相手に書き取りをしていると、隣の少年がネロに小声でささやいた。ネロは返事をせず書き取りを続ける。となりの少年はしばらく見ていて、怒ったように自分の石板に向かった。
社から、こもった大きい音がした。
「これはこれは、、早いな」
 社の主は机の間を通って小屋を出て社の前に立った。
 三時間ほどの授業のあと、主は黒板を背に声をあげた。
「今日はこれまでで帰ってよろしい、家に帰ったら、今日暗くなったら、「治める人」がきてくれると家の人に言うんだ」
 子供たちはいっせいにしゃべり始めたが、ネロは黙って机を離れた。となりにいた少年が、
「ネロ、遊びに来ないか」
 ネロは一瞬体を止めた。
「だめなんだよガモ、兄さんが帰ってくるから今日は帰らないと」
「ちょっとくらい大丈夫だよ」
「母さんが具合悪いし、いろいろやらなくちゃいけないんだ」
 集落と集落の間を半分走って、丘のふもとにネロは戻った。集落はすべて、木の枠に泥で壁ができた似たようなつくりの家が並んでいる。大きさはそれぞれである。ネロは、端のほうにある小さい、壁の隅の少し崩れた家に入った。
 ひとつしかない部屋の半分をしめる寝台に、ネロの母親が寝ている。兄がいないあいだは、母親とネロ2人で眠ることになり、すこしは広く使えるので母親は楽なようだ。ネロは静かにゆっくり家に入ったが、気配を感じて母は目をあけた。
「兄さんは帰らないかい」
 ネロは首を横に振る。遮蔽版を開けてはいても窓は小さく部屋は薄暗い。炭箱から残り少ない石炭をいくつか出して、寝台の反対側の壁にある炉の熾きからまた火をおこす。火の上には鍋がぶら下がっている。
扉のあく気配があり、外の明かりが外気とともに入り込んだ。兄のヨカンが立っていた。ネロが黙ってそちらをむくと、ヨカンは一週間ぶりであることも感じさせない口調で、会話の続きをするようにいきなり言った。
「マリアが、今日はごはんは大丈夫といっていた、行った先でなにかもらったらしい」
 ネロは黙って火の着きかけている石炭に土をかぶせた。
 三十歳に近く、痩せて背がたかく、薄汚れたシャツに茶色の腰巻をつけたヨカンは、腰の鞘のナイフはそのままに、仕事道具の入った袋をおろしてネロを見下ろした。
「前世をもらうのはもうじきだからな、もらったらそれにあわせたことを習うことになる」
 ネロはだまってヨカンをみあげた。
「この家にいて俺の助けになる前世だったらいいんだが」
 ネロは二回ヨカンと自分の足先の間に視点を動かして、おずおずと言った。
「僕が決めることじゃないよ」
「逃げる奴もいるからな、逃げてもたいがいなんともならない、たまに逃げた先でうまく前世を使っていい暮らしができることがあるみたいだが、どこにいっても、あるものはそうかわりはしない」
「変な夢見ちゃいけないよ」
 寝台から母親が声を出した。
「兄さんもこのところはおとなしくなったけれど、子供の時は口のきき方も変だしすぐに癇癪をおこして暴れるし、自分のやりたいようにしかしないから、本当に困ったよ、かわった子供だったから、ヨカンのあとできた子供たちはみんな始末してさ、でも前世があってたんだね、いつまでも細工をいろいろ凝ってやるもんだからいまじゃ遠いところからも呼ばれるようになって、ご飯もちゃんとたべられるようになって、だからネロは残したんだよ、なのに今度はお父さんが亡くなって、私の具合も悪くなって」
 いつもする話なので、神妙な顔のままネロは口をはさんだ。
「今日、「治める人」がくるんだって」
「そうか、マリアのことを言ってくれるかもしれないね」
 母親はヨカンに言った。
「すぐに出ていくという話だったのにもうひと月よ。前世のないものの相手をいつまでしなくちゃいけないんだろうね、そんな気味の悪いものを守るなんてねえ。おまえもいいかげん、だれかと番(つが)わなきゃ、誰にも相手されないよ、番いつくれば、少々はめ外したって大丈夫なんだからね、そりゃはめ外さない変わり者はいるけれど、あたしだってこの村の男はみんな相手したもんだし、父さんだって」
「俺の前世からの仕事は、今の仕事のほかに、マリアを守る、ことだ。マリアがいるうちは、守らなければいけない」
 硬い顔のままヨカンは母親に返事し、ネロをまた見下ろす。
「「治める人」は暗くなったらくるのか」
 ネロは頷いた。

夜の社の前には人だかりができていた。ネロはヨカンと、少し後ろから見ていた。
「子供がいるなら前に回りなさい、背の高いものはうしろに」
といつものようにいいながら、教師でもある社の主が学校のさらに横の、赤い土でできた小屋から出てきた。ヨカンに背中を軽く押されてネロは前に社の戸口のほうに回り込んだ。
 社の木の扉には細工がはめ込まれていて、ヨカンのつくったものもその中にあった。夕方になると閉められる扉をあらためて主は開くと、水晶の玉がゆっくり光り、そのまえに、白い衣を体に巻いた整った顔の人物の姿が立ち上がった。男か女かもわからない。背丈はそれを眺めている大人たちとそうかわらない。四方から照らされているように明るく光り、すこし透けた体のむこうに水晶の玉が見えている。
 「治める人」がこうやって現れるのを見るのが好きで、ネロはヨカンについてきたのである。ネロだけではなく、何人もの子供たちが人だかりの前に座り込んで、半ば口を開けて「治める人」を見ていた。
「ガルの者たちよ、ききなさい」
 「治める人」は、焦点のあわない目を中空に向け顔をゆっくり左右に動かしながら、滲むような声を出した。この社の領域を総称してガルというのである。
「はやいうちに、あなたがたの今生を、社にもどしておきなさい、これは命令です、あわせて、今年前世をもらう子供は、もう、もらっておけばよろしいです」
 社のなかに「兜」があり、年に一度それをかぶることで前回かぶってからあとにおこったことを「戻す」ことになっていた。その仕組みはだれも知らなかった。
「そして、あまり遠くにはしばらくいかないように、これは命令ではないが、あなたたちのためです」
「どれくらいの間なんです」
 人だかりの中から男の声がした。「治める人」はその声のほうを向いて、
「ミロ、もうじき石炭売りはくるから、買いに行く必要はありません、ほかに、なにか訊きたいものはありますか?」
 べつのほうから声が出る。
「作付けはふつうにしてもいいのですか」
 「治める人」は、発言者の名前をまず口にしては、すべての問いに答えていった。ネロは、ふりかえってヨカンを探したが、姿を隠したように、みあたらなかった。
「マリアはいつまでここにいるのですか?」
 思わずネロは声をあげた。
「ネロ、前世をまだもらっていないものは訊いてはいけない」
 これは「治める人」ではない。社の主がネロをしかりつけ、ネロの隣の子供はネロを肘でついた。「治める人」はなにも応えず、人々を眺め、
「私はいつもあなたたちとともにあります」
といういつもの締めの台詞とともに、すっと消えた。水晶だけが、社の中でぼんやり光っていたが、つづいてそれもすっと消え、人々の集まりはゆっくりほどけていった。

数日後のことである。
 「前世」をうけとったネロは、口に祝福の種なしパンを含みながら呆然とした顔で、社からでてきた。耳の後ろがまだチクチクする。順番を待つほかの子にも人々にも目をやらず、学校に背を向けて歩きはじめたところに、社の主が、社から姿を現して呼んだ。
「ネロ、学校で待ちなさい」
 ネロは、乾いた喉に、パンを嚙み下した。
 誰もいない掘立小屋の長椅子に座ると、主が人々を待たせたままいそいそとやってきた。
「前世は、都の人だったというのかね」
「はい、詳しいことはこれから勉強して思い出さないといけないんですが」
「その前世のものは、十五歳になったら行かなければいけない」
 教師でもある主は、いつものような厳しい口調ではなかった。
「私がここの担当になってから、都行きははじめてだ、お前はあまり騒がないが、聡明な子と思っていたが」
すこし嬉しそうな主を、上目遣いでネロは見た。
「いかなくちゃいけないでしょうか、兄の手伝いをして母を養わないと」
「ううん」
 主は、ネロの座る長椅子のよこの長椅子に座って、通路ごしにネロに顔を向けた。
「前世を捨てて違うことをするのは、いちからすべてを学ばねばならないからたいがいはうまくいかない、都はこことは違って、むかしのものがたくさん残っている。あまりに違うので出入りは極端に制限されているから、行かないのはあまりにもったいないのだ、私も、最外郭しかはいることは許されなかった、ネロは、どこまで入れる前世だったのだね」
「よく覚えていないのです、ずっと中に入って、そこからあとは霧の中のようで、でも、あの水晶が都からの連絡装置で、治める人はそこからの映像だということは思い出しました」
 それらは、いままでネロのなかに、概念としてすらなかった用語だった。
「そして、その話をしていいのは先生だけだというのも」
「都のことは、その場に行かないと思い出せないようになっているのだ」
 主は立ち上がった。
「皆には、都にいく前世だとだけいっておきなさい、十五歳までに覚えておかないことは多い、私が教えてあげよう、だから、私の恩を忘れてはいけない」
 念を押すように言う。
「いいね」
 ネロは、気圧されて、はい、とだけ答えた。

「前世が決まったのね」
 天幕の中でマリアが言った。なんだか腋臭臭いなと思いながらネロは鍋に蓋を戻した。
「都にいたんだよ、だから十五歳になったら行けっていうんだ」
「何をやっていたの?」
「それはよく思い出せないんだ、いったら思い出すんだって」
「行先があるのはいいことよ」
「前世をもらったあと、うすい焼き菓子みたいなものもらったよ、祝福の種なしパンとかいって、先生が口に入れてくれた」
「そういえば、私ももらった、ちょっとちがったけど。口に入れてくれたあとで、これは残念ながら祝福ではない、しかし、お前を守るものがいつもあらわれるだろう、とかいって、そのあとは、社にいこうとしても、たいがい追い払われるばかりだったねえ」
 天幕の外から声がした。
「マリア」
 天幕をくぐってヨカンが入ってきた。顔色がわるかった。
「ネロ、鍋を持って家に帰れ」
 黙ってネロは外に出たが、天幕にでて遠回りに少し歩き、反対側からゆっくり天幕に戻って、鍋を地面において、聞き耳をたてた。
「、、ここにいる間は客をとるのはやめられないか、番(つがい)のないものが相手をとるのは不品行だ、間違っているし、あぶない」
「番のない私だから金くれるのよ、珍しいし、まだちょっとは若いんだし。あんたの家の近所ではやってないわ」
「俺が稼ぎをわけるといってるだろう」
「私はもっと高く売れるのよ、あなたの分はお母さんとネロにとっておきなさいな」
「あんたを守れなくて俺はつらいんだよ」
「じゅうぶん守ってくれているよ」
「どうせ相手をとるなら、俺と一緒になってずっとここにいたらどうなんだ、「治める人」にも、いつまで守ればいいのか次どちらに送るのかわざと、訊きに行っていない」
「危ないことするのね」
 マリアの声が少し途切れた。そのあと口調が強くなった。
「できないのよそれは。長くいてはいけないということになっているし、よくないことが起こるの、週も4つ目に入ったからね、もうじゅうぶん長居してるの、それに、私はたぶん子供ができない性質よ、いくらやってもできない、みんな、手を触るだけでもできるのにね。ヨカンもためしてみたらいい」
 咳が出そうになって、急いで鍋を持ち上げて静かに天幕から離れようとして、鍋の蓋がすこし鳴った。
「ネロ」
 天幕の中のヨカンの怒鳴り声から、ネロは走って逃げた。

ネロは熱発した。変な咳が出て顔が浅黒くなり、だるくて動けなくなった。同じ寝台にいると全員が休めないといって、ヨカンはマリアのところにより頻繁にいくようになった。ネロはときどき頭に載せた布に母親が水を差すのを感じながら、朦朧としてほとんど動くこともできなかった。
 数日で熱は下がった。昼前まだすこし頭がふらふらするままに、多めに母親の残してくれた鍋のなかの汁と団子を寝台の端に座ってゆっくりすするところで、家の外から声が聞こえた。
「ネロの家はここか」
 教師でもある、社の主の声である。
「はい、ここです」
と答えようとして、ほとんど声が出ないのに気付いた。よこの母親が声をあげた。
「先生、ここです、どうぞ」
「いや、ここからにしておこう、出てこなくてもいい。熱を出したというが、大丈夫だったのか」
やはり母親が答える。
「熱は下がりました」
「そうか、よかった、前世をもらうと体が弱くなるからな、私もそこにいけば危ない。危なくないのは、前世のないものと「守る人」だけだ。おまえが、いい前世をもらったものだから、心配できたのだ、あちこちで病気が流行っている。「治める人」は、自分の不品行を思いながらおとなしく暮らすよう言っておられる。学校もしばらく休みだから、お兄さんの手伝いでもするといい、流行りがおわったら、都にいくのに必要なことを教えてやる」
 自分の不品行はなんだろうとネロは思い、母親がすこし不満そうな声を出した。
「都にはいかなくちゃいけませんのですか」
「せっかくなんだ、もったいない、あんたは母親として嬉しがってやりなさい、前世をうけたんだからもう始末もできないよ」
 がっかりしたように母親はため息をついた。

数日ののちである。今度は母親の具合が悪くなった。寝台の横で、体を少し起こして喘鳴を出している母親をネロはじっとみていた。ヨカンはマリアのところから帰ってこない。
 銅鑼を鳴らす大きな音と一緒に、石炭売りの声がした。
 戸口を出る。集落のなかを通る道にとめた、ロバにひかせる二輪車の荷台には石炭袋が5つつまれている。あちこちの家から男や女がぞろぞろ出てきた。子供もいる。
 丘の向こうの林から得られる、枝や葉だけでは火力が足りないのである。
「ここの村はまだ流行りはこないのかい」
 石炭をわけながら、賑やかな縫い合わせに茶色の下穿きの石炭売りは目の前の男に訊いた。ネロの三軒むこうの、やや暮らしのいい家の主人である。いっしょに出てきた子供がネロを指した。
「ネロがかかった」
「そうか、用心しろよみんな、かなりきつい、俺の家族も2人死んだ、俺も苦しかったよ、もともとの体力がないと危ない」
 たしかに、以前に比べて肉付きが落ちている。ネロのまわりの人が、すこしネロから間をあける気配があった。
「今から考えると、マリアって女がやってきて、出て行ったんだ、守る男というのが面倒を見てたが体も売ってた。そのあと病気が流行ったんだから、あいつはとんだ疫病神だったんだな、まずはあいつを買った男が倒れたんだ、俺もお世話にはなったんだが」
「お世話になったのか」
 子供の父親は平然と訊き、石炭売りは平然と答えた。
「具合はよかったな」
 別の家の女が言う。
「マリアだったら、裏の林にいるよ、ネロはヨカンといっしょに面倒見てるだろ、隣の村までいってやってるそうだけど、ここではやらないみたいだよ、うちでそんな金かけるの、あたしが許さないけどね」
 なんでマリアのことをみんなそんなによく知っているのだろうとネロは思った。そこへ、道の向こうから男が三人やってきた。となりの集落の男たちで、社の前の集会で見たことがある。
「あんたらのところにもこれからいくよ」
 石炭売りは男たちによびかけたが男たちは答えない。暮らし向きのいい男たちで着ているものもよかったが、みな以前より痩せて顔色が悪い。手には手首くらいの太さの棒を持っている。
 ひとりが言った。
「ヨカンはどこにいる、それとマリアだ」
 誰も応えない。人々の訝しげな表情を見て、その男は嗄れた声を大きくした。
「ヨカンだ、マリアを買うのが気に入らないと言って、マリアの相手した男の家にひとつひとつやってきてさんざん騒いで帰りやがった、奴がさわいだもんで、マリアの相手した男がわかったんだ。どの男も、マリアの相手した後流行り病にかかったというのはどういうことだ、俺もこいつらもえらい目にあった、3人死んでるし、家族もいま苦しんでいるし、隣近所まで広がった、マリアが何か持ってきたんじゃないのか」
「やっぱりそうなのか」
 石炭売りは声をはりあげた。
「俺も同じ目にあった、そうじゃないかと思ったときにはもういなかったんだ」
 人々は集落の奥の丘に目をやった。

人々の気配を感じて、天幕からヨカンがでてきた。
「マリアはそこにいるか」
 棒を持った男が怒鳴った。
「なにかをマリアはばらまいていったぞ、祟りなのかそれは」
 ヨカンは眉をひそめた。
「何をいってるんだ、あんたは」
 こちらの集落のものたちも、棒を持った男たちの後ろで眺めている。買ったばかりの石炭袋を持ったものもいる。子供もいる。石炭屋はずっとうしろの丘の上、自分のロバの見えるところにとどまりこちらに大声を出した。
「俺もえらいめにあったぞ、マリアの相手をしたものはみな病気になった」
「お前たちみなマリアの客か」
 ヨカンは棒を持った男たちをにらみつけた。うしろの天幕からマリアも出てきた。人々はすこしどよめいて後に下がった。男たちの後ろに控える女たちの一人が言う。
「祟られるよ」
「あんたらの不品行のせいじゃないのかそれは」
 ヨカンが、人々を見渡した。そのとき、子供のひとりが石炭をマリアに投げた。別の子供も、その子供の袋に手を突っ込み石炭を手にした。そばの女が、その手を抑え込んだ。
 ヨカンはいきなり激怒した。
「何をするのだ」
 わめきながら人々に素手で突っ込んでいく。組打ちになるが四方から棒で突かれ、倒れたまま苦しそうにしていたが腰に手をやった。そこにはナイフがある。
「こいつ刃物を出すのか」
 棒を持った数人が、上からヨカンを叩き放題に叩いた。うちひとつがうしろの首筋に入った。ヨカンの体がいきなり反った。
「おい」
 男たちは、動きを止めた。マリアが小走りにやってきた。男たちもまわりの人々もさあっと遠ざかる。マリアはヨカンの頭のそばに座り込んで、俯いて両手で顔の両側を包んだ。
 ネロが近づくと、マリアはネロを抱き寄せた。
 天幕のそばに、女が一人、
「もったいない」
と言いながら、マリアに投げつけられた石炭を拾いに走った。

棒を持った男たちが動かなくなったヨカンを社まで担いだ。ネロもヨカンのそばを、すすり泣きながら歩いた。
 集落のひとびとがそのあとに続き、ずっとうしろをマリアがついて歩いてきた。
「なにをやっているのだ」
 社の主はあきれたように腕を組んだ。
「これは、裁定が必要だ、ヨカンと、棒を持ったおまえたちは、今生をいちど戻すのだ」
「こないだ戻したばかりだよ、だいたい、ヨカンはもう死んでるんじゃないか」
「生きている間のことなら死んでもしばらくは戻すことができる。裁定には、何があったのか、お前らの言うことではなく、お前らの見てきたことを、「治める人」が知る必要がある」
「マリアも戻さないのか」
「前世のないものは、そもそも今生も戻さない、そんな今生が前世になってもどうにもならない」
 ネロはぼんやり、埋め込んだチップから活動記録を読み取るのだと思いながらみていた。これも、前世の記憶から来た知識で、ほかの者たちにはわからないことだった。
 まずヨカンが社に引き込まれて兜をかぶせられた。そのあと、社の前にヨカンの体が横にされ、顔には汚れた布がかけられ、棒を持った男たちが順に社の中にいれられた。
 まわりの人だかりは、夕方になってもそのままで、誰も学校には入らない。
 薄暗くなったころに最後の男を社の主が社から押し出し、主はそのまま水晶玉に向かった。主の向こうで水晶玉の輝きが強くなるのがわかった。
 主は社からでてきた。
「裁定がくだった」
 戸口のわきに身を寄せると、戸口の前に「治める人」の光る姿が立ち上がった。
 足元にはヨカンが横たわり、距離を置いて男たちが向かってならび、さらに人々が遠回しにそれを見ている。
「守る人、ヨカンは、前世のないものを守る立場だった、それをしようとしたことに罪はない、しかし、「治める人」にわざと近づかず、マリアを長くここに引き留めることで禍を呼んだ、したがって、ヨカンの死については、ヨカンに最も大きな責めがある、それは死で償われた」
 「治める人」は、いつものように中空をみながらよどみなく語る。そばに立つ社の主はヨカンに目を落とし、そこから男たちに目をやった。「治める人」はついで棒を持った男たちの名前を並べる。
「おまえたちは、不品行のために病にかかった。前世のないもの、マリアは、「守る者」に従って動いているだけであるから、マリアを責めてはいけない、お前たちの禍は、お前たちのせいである、これは」
 「治める人」は、別の名をよび、集団のさらにうしろでロバを押さえている石炭屋が、直立不動になった。
「お前も同じであるから、そのように心得なければならない」
 すこし間があく。
「マリア、前世のないものは」
 調子を変えず「治める人」の声がまた響く。マリアは顔をあげて遠巻きに、光る姿を見ている。
「長く居すぎただけだ、ここから早く去るのが良い、不品行は問題にならない。金を出すものがいるだけの話だからである、どこに向かうかは、「守る人」がいなくなったのであるから、社の主から聞くのが良い、これは、広く知られる必要がないからである」
 「治める人」の姿はゆらいで消えた。ほうっというため息があちこちから聞こえた。かなり薄暗くなった社の前から、人々は、ぞろぞろ立ち去ろうとした。マリアはゆっくり、社のまえにいる主に近づいたが、
「あまり近づかないようにしなさい、みんながいなくなったら、どこにいくのか教えよう」
といわれて立ち止まった。主は人々に声をかけた。
「ヨカンを戻してやりなさい」
 集落から来た男たちが数人でヨカンを、裏にあった戸板に載せた。ネロはそれを見上げ、マリアを見た。マリアもネロを見ていた。何か言おうとしたが、首を振って、黙ってしまった。
 人々はヨカンを運び始めた。ネロはその列について歩いた。マリアにときどき目をやりながら、遠ざかっていった。
 棒を持った三人は彼らの集落に向かい、石炭売りはそちらについていった。
 ネロが家に帰ると、母親がこと切れていた。

流行り病は数か月でおさまった。
 ネロは、十五歳になるまで、社の主が面倒みることになった。これは珍しいことだった。
「都にいくものは、面倒みなければいけない」
と、社の主は言った。そして、
「恩を忘れてはいけない」
と、ネロに繰り返した。母親も兄もいきなりなくしたネロには、はいという返事をする以外の気力は残っていなかった。
 ネロは、学校の手伝いもすることになった。ものをならべたり、教室を手入れしたりする。主のために煮炊きもするのである。
 授業の間は、いちばん後ろの席で、ネロも石板に向かった。子供の数はずいぶん減っていた。
 ネロは、ひとりの子供に訊いた。
「ガモ、みないけれどどうしたんだい」
「お父さんが死んだよ」
 その近所の子供が答えた。
「育てられないからって、始末されたんだ、前世のないうちは、神様のもんだからね」
 自分を遊びに誘ったものがもういないということに、ネロはすこし気落ちした。
 どの集落でもそうだが、交接後の女たちの妊娠率は高かった。男女一人づつで基本世帯は構成されていたが、相方の女が相手してくれない時期には、べつの世帯の女のところにいくことも多かった。番った後の女たちは子供の相手にも忙しい。子供はどんどん生まれた。手軽な相手がいない時に相手してくれるマリアに金を払うのはあたりまえだったのである。
 今回の流行り病により、ネロの集落はそれほどでもなかったが、ガルの領域全体ではずいぶんの者がなくなった。年寄りが多かった。前世をまだもたない子供は流行り病にかかることはなかったのだが、前世を持たないものは、その命は親次第ということになっており、世話するものが倒れたり死んだりして育てられなくなった子供たちがずいぶん始末されたり、遠くにやられたりしたので、けっきょくは、かなりがいなくなったのだった。
 しかし、死んだものの土地も持ち物も、残った者たちのものになった。分け前が増えた者たちは、あらためて子供を産み始めた。番っていても相手かまわない風習が、それを進めた。
 そろそろ増えた子供たちが学校に来るというタイミングで、ネロは都に行かねばならなかった。社の主は仕方なく、前世に読み書きを教えたことがあるという男をネロの代わりの手伝いに入れることにした。

ガルの領域からマリアが追い払われて、十年たった。
 マリアは、あいかわらず、「守る人」のいうままに、集落から集落に移っていたが、過ごし方をかえた。
 前の集落の「守る人」がなにか売れそうなものをつくっているようならそれを次の集落で売る。持ち運ぶのに困らないようなものをすこし仕入れるほかに、目立たないところにあるものをこっそりもらってしまうこともあった。今生をときどき「治める人」にみられるふつうの者とちがって、自分はみられることはまずないのに気づいた結果の、悪い手癖だった。そうして持ち物がなくなった者も「ものを盗まれる」ことにふつうは思いも至らない。「盗む」という単語はほとんどつかわれず、学校で習う時も説明をきいて、「ありえない、治める人にわかるじゃないか」という反応を引き起こすことが常であった。
 居やすいところでは、接触を避けてむしろなるべく早く立ち去る。「守る人」があまりに役に立たず金も食い物もないとき、前世のないものにきつくあたるもののいる集落だったときは、固めて客をとる。そういうところでは、わかってしまうとなにをされるのかわからないので、手癖は控える。
 四十も超え、皮膚は乾いてすこし硬くなっていて、このごろは客になる男も減ってきた。
 暑い時期には温度の低い地方に、寒い時期には高い地方に、ジグザグに移動していく。どこまでいっても、同じような規模の集落が続くばかりである。言われる通りにうごくので自分がどこにいるのかもわからない。森や家にはネコ、畑には犬、平原には山羊、家には鶏がかわれ、空には鳥が飛ぶばかりの景色のなかをマリアはずっと歩いてきた。いくら避けてもひととの接触は避けられない。あった人のことはほとんど覚えていない。
 気候風土によってすこしづつ食べ物や着るものが違うとはいえ、どこも社を中心にに暮らし、定期的に「治める人」がそこに現れる。人々は定期的に「今生」を社に戻す。今生を「治める人」がみていることが皆にわかっているから、中途半端な不品行はともかく、盗みや殺しをするわけにはいかない。争いがあれば、今生に基いて「治める人」が裁定を下すのである。
 ものの輸送は緩慢にすこしづつ行われてた。人口は増えると見ると流行り病で減る。ものが決定的に足りないことはないがつねにすこし不足し、あたらしいものの工夫は伝えられることもなく消え、どれくらい長い間、この世界がこういう状態であり続けているのか、誰も知らない。
 社を通して誰かがこの世界を統治していることすら、人々のあたまには上らない。

その集落には旅人を泊められる宿があった。数部屋余分に客のためにとられているのである。珍しかったのはその集落の「守る人」が、自分の納屋やら裏の空き地などではなく、そこにマリアを泊めたところであった。
 狭い部屋に低い寝床がある。厚めに草を編んだ面のうえに布がかかった簡素なものであったが、こういうところには、壁際の低い台のうえに顔よりおおきいサイズの、打ち出しの水盤と水差しがおいてあり、その前に、金属を磨き上げた鏡がぶら下がっていることが多い。
マリアが寝床に腰を置いてひと息ついていると、戸口より若い女が覗きこんだ。
「仕事していい?」
 返事はきかず部屋に入ってきた。二十歳そこそこにみえる、赤い粗い紡毛の上着を羽織った髪の長い痩せた女である。体を小さくしてマリアの前を通り鏡の前の床に座り込んだ。手にした袋からさらに小さな袋や皿を出す。
「水もらうね」
 袋から赤い粉を皿にすこしとり、水をたらし、赤と黒で汚れた布でそれを混ぜた。手元をみているが、マリアの方に注意が来ているのはわかる。混ぜ終わると鏡を手に取り勝手に話を始めた。
「この家は鏡がなんでかたくさんあるの、宿やってるせいというだけじゃなくて、何代か前のひとが好きだったのね、きれいになっても長くはもたないからときどき磨くの、これが私の仕事、これだけじゃないけれど」
 マリアはだまってその手つきをみていたが、そのまま部屋を出て、建物の外の厠にいった。部屋に戻ると、若い女はもういなかった。マリアはふたたび寝床に腰を置いて、自分の振り分け袋の中身を出して、前の集落で手に入れた、木と金属環でつくった挟の細工が3つ足りないのに気づいた。
 急いで部屋を出てせまい廊下から狭い食堂に出る。主人がひとりで盤の上で駒を動かして遊んでいる。
「女の子は?」
 マリアが訊く。
「女の子?」
「鏡を磨くコ」
「ああ、リンならいま出て行った」
 宿を出る。前の狭い道を見渡すと右のむこうのほうに、頭巾をかぶった姿がゆっくり歩いていくのが見えた。小走りに追って、気配を感じたリンが振り返るのと同時にその手にした作業袋をひったくった。
「なによ」
 リンが声を出したがマリアはそのままその袋を逆さにぶちまけた。鏡磨きの小道具と一緒に木鋏が3つおちてきた。
 マリアは黙ってそれを手に取って、宿の方に向かって歩き始めた。
 しばらくして、リンの追ってくる足音が、マリアの足早な歩みに重なって聞こえてきた。
「ねえ、待って」
黙ってマリアは歩き続ける。追いついたリンは後ろからすこし高い声で話し続ける。
「お願い、どうしてわかったの」
「あなたがいなくなってものがなくなったんだから、あなたのせいにきまってるじゃないの」
「みんなふつうはそうは思わないのよ、気のせいとしか思わないのに、どうしてはじめからそう思ったの」
 マリアは立ち止まってリンを見た。
「どういうこと」
「そういう目にあったり、そういうことをしたりしたんじゃなきゃ、そうは思わないのよ、でも、そういうことする人はいないでしょ、みんな「治める人」にわかられちゃうんだから。どこでそういう目にあったの」
 マリアはぼんやりリンをみていたが、ふと思った。
「あなたは今生返すときにきっちり罰受けるんじゃないの、怖くないの」
 リンは変な笑い方をした。
「いいのよそれは。あなたみたいな人からなにかをとったという話を聞いたことがなかったのよ、私の知らない人がいるのかと思った。勘違いならごめん」
「マリア」
 宿の方から、背の低い灰色の衣の、髪の短い中年の男が近づいてきた。
「なにかあったのか、守れなかったのならすまない」
 この集落の「守る人」である。マリアはリンから離れて宿に向かい守る人はその前を歩いた。
「あの、リンという子はどういう人?」
「守る人」は振り向かずに答えた。
「ときどき回ってきては、鏡を磨いたり、あといろんなものを磨いたりして、稼いでる」
「磨かなくっちゃいけないもののある家って、暮らしのいいところが多いのかしら」
「それはそうだね」
 マリアは黙って「守る人」の後ろを歩いた。

マリアは、ずっと、部屋から出なかったし、客もとらなかった。ここを、ほかのところ同様に、数週間で出なければならないのはすこし残念だったが、「守る人」がやってきて告げたので、仕方なかった。
「治める人、が、そろそろ次に、といっている」
「そうね、つぎはどちらにいけばいいのかしら」
「次のところは」
「守る人」は困ったようにいう。
「ひとのいないところなんだ、社だけ残っている」
 マリアは首をかしげたが、何も言わない。
「社に、「治める人」が待っているそうだ、そこからどうしたらいいかも、言ってくださるそうだ」
 前世がないと宣告されて以来、「治める人」に面したのは滅多になかった。どの社の主もマリアが社に近づくのを嫌がったからで、その理由もヨカンの集落での騒ぎでわかっていた、社の主たちは口には出さなくても、流行り病のことを知っていたのだ。
 宿から出て、集落の外れから古い轍をあいだに草の生えた道を言われたとおりにあるく。すこし遠くに森が見える。道はその森のそばを通るようである。
 もともとは森ではなかった道のそばまで、森が拡がってきているようだ。このあたりはあまり「しっかり治められていない」とマリアは感じたが、ひとがいなくなったのなら仕方ないとも思った。人間なんてすぐ増えるものなのに、このあたりはどうして住むものがいなくなったのかはわからない。
 森の近くから道はゆっくり曲がって少し離れた低い稜線に向かう。
 うしろから声が聞こえた。
「マリア」
 振り返ると、リンがいつのまにか少し離れたところをついてきていた。立ち止まって待つとリンが近くまで来て立ち止まって、灰色の頭巾を後ろに落とした。屈託なく微笑みやや薄い色の髪が揺れた。
「あなた、前世がないのね」
 黙って見ているとリンは続けた。
「でも、「治める人」と話はできるのね」
「滅多にないわ、社の主が、そこまで近づけてくれないもの」
「そう、でもこれからいくところには主はいないわ、私もついていくわ、「治める人」にあいたいの」
 マリアはすこし不思議に思った。通常は、定期的に社に行くものだからである。これからどこに行くのかなぜ知っているのかもわからなかった。
「どうして知っているの」
「あなたの「守る人」からきいたわよ、することをすればたいがいの男の口は軽くなるから」
 稜線を超え、夕方近くになって平原の中の捨てられた集落に入った。
「これも聞いたわ、「治める人」がなかなか出てこないことも多いんだって。それにべつのところじゃ、いきなり消えたりしゃべり方がおかしかったりするっていうわ」
「私は滅多に会わないからわからない、そうだったのね」
 リンは答えなかった。
 集落を抜けてすぐのところに広場があり社があった。どこも似ていて、ここもその横には掘っ立て小屋がある。
 社の扉もひっかかって重い。リンといっしょにそれを引き開けると、中には水晶玉が台の上で淡く光っている。マリアは近づいてそれを覗き込んだ。ここまで近づくのは前世をもらいにいって、もらえなかった時以来だった。
「きれいね」
 戸口でリンがつぶやいた。マリアは黙ってリンのところまで後退った。
 マリアと水晶玉のあいだに、白く光る人物が立ち上がった。白い衣をかぶり、俯き加減からゆっくり顔をあげた。そこですこし顔がぶれた。顔がはっきりマリアに向いた。
「マリアよ」
 なぜかマリアは胸が詰まり、膝をついた。
「「治める人」、私になんの御用でしょうか」
「あなたの務めを除けようと思う、あなたは好きなところにいくのがよい、いきたいところがあればいうがよい」
 いきなり言われて何も頭に浮かばない。マリアは正直に言った。
「治める人、突然のお言葉です、なにも頭に浮かばないのです」
「いきたいところにいって、そこでまた社にくるがいい」
「社の主が嫌がります」
「これは完全な祝福ではない、しかし、おまえのつとめがはたされた証である」
 水晶玉の乗った台に拳ほどの孔がある、そこに小さな薄い種なしパンが浮かんできた。マリアはそれを手にした。
「もうあなたは、人の中にいて何も気にすることはない」
 ぼうっとしながら、マリアはそれを口に運んだ。
 すぐうしろで立ったままのリンが、ひょう、と、変な声をあげた。「治める人」はそちらに顔を向けたが何も言わない。顔の動きが、ゆっくりになった。いままではなんとなく生気のようなものがあったのだが、彫像のようである。
「「治める人」」
 リンが声をかけた。「治める人」はじっとリンを見ているがやがて、細い、高い声を出した。
「今生のないものとのやりとりはできない」
 そのまま姿は消え、暗くなってきた社の前に二人は取り残された。

社の中でそれぞれ反対側に相対するように、二人は壁にもたれていた。夜は更けつつあり、星の光もとどかない社の中はさらに暗い。月もなかった。壁際に非常に厳めしい青銅の椅子があり、その横に座り込んだリンがマリアの様子を伺いながら声を出した。
「さっき、口に何か入れたわね、なんなの、あれ」
 気になるのはまずそこなのね、と思いながらしばらく黙っていたが、やがてマリアは顔をあげた。
「私はまえにもらったわ」
 マリアは昔を思い出そうとした。
「前世をもらいにいったとき、みな、兜を脱いだら、祝福といっしょに、あの、乾いたパンの板を、口に入れてもらってたと思う、私は、もらったけれど、これは祝福ではないと言われたの」
「どんな味なの?」
 いろんなものに関心があるわね、と思いながらマリアは相手をした。
「乾いた、ただのパンの板だった」
「祝福されたの?前世をもらったの?」
「前世なんてもらってないわよ、今回も、完全な祝福でないと言ってた、よくわからない、次には何か言ってくれるのかもしれない」
「私は相手にされなかったわ、前世がないと相手にされないって話にはきいていたんだけど、あなたは違うのね、私には今生もないといわれたわ」
 リンは土の床から目をあげた。マリアはそれをじっと見て、訊いた。
「どういうこと」
「あたしは、もともとから前世をもらってないの」
「ふつうに生まれたら、十歳になったら社でもらうでしょう」
 マリアの言葉にリンは首を振った。
「だから、ふつうじゃないのよ、父さんと母さんが、あまりうまくいかなくて住んでたところを出て、私はそこそこ大きくなっていたからついて歩けたんだけれど下のきょうだいたちはみな始末されて、社になんかいかないまま大きくなったの。十歳の時に前世をもらいに行かないと、そのあと治める人には、誰だかわかってもらえないってきいたんだけど、主のいる社じゃそんなこと確かめられない。ここにきても私ひとりじゃ「治める人」は出てこないし、あなたについてきたのよ」
 マリアはいきなり怖くなった。このリンは、「治める人」に今生を確かめられることはない、なにをしても、罰を被らないのだ。自分のところから黙ってものをもっていったのも、あとで確かめられることがないからだった。何をするのかわからない。
「マリア、あなたもそうじゃないかと思ったのよ、私があなたのものをもっていったときにすぐにわかったのは、そういう目にあったからではないのなら、あなたも同じじゃないかって、なのにあなたは「治める人」に会いに来て、「治める人」はあなたに答えた」
 そこで緊張の切れたマリアは、小さく笑い始めた。めったにないにしても、自分もたまに足りないものを、黙ってそこからもっていくことはあった。自分は「守る人」がそれなりに守ってくれたからその程度で済んだのである。
「何笑ってるの」
「そうね」
 マリアは目を見開いた。。
「私は前世はもらえなかったけれど、社には行った。何度も、今生を返さなくてもいいといわれたのだけれど、返さなくてもいいだけでたぶん今生はあるのね、おまえにはないとは言われなかったもの、それで、どうしてあなたは今更「治める人」に会いたかったの」
「うまくいかないときはみな「治める人」にきめてもらうでしょう、ききたいことがあったのよ」
「前世なし、治める人にもあえず、いままでよく生きてきたわね」
「誰にもわからないようにね、同じ場所には長居しないですぐ動くのよ、あなたは守る人がいるけれど、私は治める人も相手されないのにどうされるかわからないんだから、とにかくあたりさわりなく。みられないところでなにかするのはいいのよ、誰も、そんなことをするとは思っていないから、たまたまとか気のせいとかで済んでしまう」
 自分のものをもっていった手際を思うと怪しい、とは思ったが、マリアは何も言わなかった。
 やがて気づいて訊いた。
「さっきから、いろんなことを、きいたとかいってるけれど、いったい誰にそれをきいたの」
 リンは、少し考えた。
「あなたは今生をもっていてもいちいち返す人じゃないわね、だったら「治める人」に知られることないわね。思わせぶりなことを言っても仕方ない、そういうものが、何人かいっしょに住んでるのよ」

翌朝、マリアとリンは、この社まで来た道を引き返した。
 途中にあった森のそばを通る時に、気づかなかった小道があった。リンが先導してその道を森に入っていく。
「この道はあまり使わないの」
 下草の多い道だが、小石や枝はなかった。ずいぶん歩き、ちょっとした起伏も乗り越え、木々の向こうに明るいところが見えてきた。煙の匂いが漂ってくる。
 森の中に、ちょっと大きな畑地がひろがっていた。
 むこうに丸太を寄せた小屋が3つ並んでいた。そばで火を焚く男がいる。痩せて背が高く若い。着ている衣はそれほど汚れてはいない。畝の間を歩くリンとマリアを見た。
「リン、その人か」
「マリアよ」
「治める人は?」
「ダメだったわ、マリアの相手はしたけれど、私はダメ」
「そうか」
 がっかりした様子もなく男は肩をすくめた。リンとマリアが火のそばにくると、
「ようこそ、私はダモンです」
と、マリアに言い、返事も待たず屈みこみ火のそばにたてた串を回した。3本あって先に肉の塊が焙られていた。火の回りには、簡単な腰掛が3つおかれている。
「おもてじゃ、こういうのは食べないよな、森にいるんだ、この肉は」
「ジネズミよ」
 リンは得意そうにいう。
「あたしのネコがとったのよ」
 見回すと、小屋と小屋の間から、小動物がこちらを伺っていた。
「あなたのネコ?」
「つれてきたの」
 ぼんやりときいていたが、気づいてマリアはリンの顔を見た。
「どこかのネコを黙って持ってきたのね」
「ほんとうに小さかったの、懐に入れても誰にもわからないし、なにも声も出さないし」
 ダモンは立ち上がり、ちいさな腰掛に腰を下ろした。
「マリア、あなたも、前世がないときいた、ふつうの暮らしもできないし、いるものがなくて困ることも多い。わからないようにそうすることはわかるだろう、おなじところにどうせいられないのだから」
「私も危ないのはわかってるからしないようにはしてるの、でも、リンは、いろんなものを持って帰ってるみたいね」
「ちゃんと手に入れたものが殆んどだ、手に入れるための金は、たまには黙ってもってくることもある、仕方ない、わからないようにやれば、気のせいとかうっかりしていたとか勝手に考えてくれる」
 マリアは黙って聞いていた。自分でも考えたのとおなじことがひとの口から出ると、いかにも状況を舐めた態度のように聞こえた。ダモンはリンを見た。
「でも、たしかにおまえははちょっとやりすぎだ、見境がない」
「ちゃんと暮らせるようにするには仕方ないの」
 リンの口が尖った。マリアは訊く。
「ここは、前世のないひとが集まっているの?」
「ときどきここで休むのよ、八人かな、いま五人は出ている、何か月かに一度帰ってきてはゆっくり休んで、手に入れた役に立ちそうなものをおいて、情報交換するの、前世のないものなんてもっとたくさんいるのかもしれないけれど、きっかけがないとわからないもの。マリアがあのとき気づいたのも、前に前世のないものにそういう目にあったんじゃないかとまず思ったの。マリアは「守る人」がいて、いいよね」
 自分で選んだわけではないとマリアは思ったが、口には出さない。
 離れた小屋から、灰色の衣をかぶった背の低いやや禿げて髭も白くなった、皺の多い男が出てきた。マリアには目をあわせようとせずゆっくりダモンの後ろをまわって、炎をはさんで向かいに座った。
「でも、私はあまり長居しない方がいいと思うから、もう行かないと」
 マリアはリンに言った。
「長くいると、流行り病にみんなかかるらしいのよ」
「どこにいくの? どこにいってもいいと「守る人」は言ってたわね」
「わからない、なにも思いつかない」
 マリアは、炎のむこうで焙られつつある赤身の肉をみながらつぶやいた。
「ここでは、流行り病はたぶん大丈夫ではないかな」
 向かい側の禿げた皺の多い男が、俯いたまま声を出した。
「俺はあんたを知ってる、十年くらい前にあんたが通った後流行り病でやられたところにもいたが、俺はまったく大丈夫だった」
「初めてきいた」
 ダモンは眉をひそめた。
「リンからきいたのが同じマリアか、わからなかったからね」
「マリアを見たことがあるのか、シーフ、その言い方は」
 シーフと呼ばれた男はすこし詰まってから、あると言った。マリアはこの男をじっとみたが覚えがなかった。通り過ぎた集落も多すぎてよほどのことがないと思い出すことができない。ダモンは頷いた。
「通り過ぎただけなら、ひとによっては助かるんじゃないか」
 シーフは苦笑いして、通り過ぎただけでもなかったんだよとつぶやいた。マリアは気づいた。
「あなた、私を買ったことがあるのね」
「覚えてないんだな、そりゃそうだな」
 マリアはまじめな顔で言った。
「正直に言ってよ、私はどうだったの? ずっと知りたかったの」
「よかったよ」
 二人とも黙ってしまったところで、ダモンは口を出した。
「そこまでの間柄で、シーフは大丈夫だったんだ、今ここにいない連中も、流行り病のなかにいたけれど大丈夫だったとか、言っていたな、誰もかかったことがないから、ちょっとどこまで用心したものかわからないが」
「子供はかからないぞ、大人ばかりだった」
 シーフは付け足した。
「いえ、私はめったに長居しないから、だれが罹ったのか知らないけれど、一度だけ、長くいて、子供が罹ったのを見たわ」
 マリアは考えながら言った。ネロを思い出したのだった。
「おなじ鍋のものを食べたりしたのよ、ちょうど前世をもらったところの子供で」
「そうやっても流行るのか」
 ダモンは目を細くした。
「お兄さんが「守る人」だった」
 ここで、ヨカンのことを急に思い出した。声が出なくなった。黙っていたが誰も何も言わない。リンは怪訝そうにダモンをに目を向けダモンは頭を左右に振った。枝が炎をあげてぱちぱち鳴った。
「前世をもらうと体が弱くなると、社の主にいわれたって」
 しばらくたってからマリアはつづけた。すこし風が吹いて、煙がダモンの方に流れた。ダモンは風がやむまで体を焚火から離した。さらにすこし沈黙が続いた後、ダモンは静かにリンに向いた。
「じゃあ、前世のない我々は大丈夫だな」
「あてになるのかしら」
 シーフが、炎の向こうでマリアを見上げた
「あなたと一緒にいて大丈夫だったものがここにいるんだから、一緒にいればいいよ、どこにいこうか思いつくまで俺のいる小屋にとりあえずきたらどうだ」
 空は暗くなっている。
「お金あるの?」
 マリアが尋ねシーフは苦笑した。
「それなりに持っているよ、でも、その気はあまりない、齢だからな」
「その気が、私はあるのよ、ここから先もお金はいるんだから。私の経験で言うと齢はあまり関係ないわ」
 どこでシーフに買われたか覚えていないが、宿の客に声をかけるにしても余裕のありそうな恰好の男に声をかけることにしていたから、それが違わなければ、シーフの金回りはそう悪いものではないはずとマリアと思った。

どこにいこうか思いつかないまま日が過ぎた。
 シーフは面倒がっていたが、三日目からマリアの相手をすることになった。
 五日目を過ぎてマリアはリンに言った。
「おなじひとと日をおいて何度もするのってはじめてなのよ、なんとなく安心するものね」
 明るい日差しの下で草を引きながら、畑のジネズミを探し回るネコをみていたリンは、怪訝な顔で浅黒いマリアをみあげた。うしろの小屋から咳ばらいをしながらシーフがでてきて、水をためた壺に向かった。
 さらに数日たち、シーフとマリアのいる小屋から漏れてくる、少し抑えた会話とときどきマリアが笑う声をききながら、ダモンは夕方の火をおこしながら低く独り言をいった。
「シーフは、金がもつのかね?」
 陽も落ちたところで、火にくべた鍋の中の練り物をダモンとリンが分け合っているところに、小屋からシーフが出てきた。
 ダモンは、黙って、串に刺した肉を差し出した。シーフは黙ってその串を受け取ったが、かじる場所を探すように向きを変えてはみているうちに後ろからマリアが出てきた。
「決めたの、シーフも一緒にいってくれるから」
 リンがマリアに顔を向け、シーフは串をゆらゆら振った。
「ガルは、ここからそんなに遠くないからね、そこまでいったら、社でまた「治める人」がなにかいってくれるだろう」
「近いとは思わなかったわ、ぐるっと回って、戻ってきたのねたぶん」
「あの、ひとのいない、社だけのこったところの2つくらい向こうがガルだよ、あのひとのいないところは、流行り病がひどすぎて、捨てられたんだ」
「私のせいね」
 マリアが声を落とした。シーフは串をさらに強く振った。
「どうしようもないことだ、今更仕方ない、よそで人があぶれたらまたどんどん移ってきて、あっというまに人だらけになるさ、実をいうと、そこに紛れ込みたかったんだよ」
「あまり今まで通ったところはいきたくないけれど、いまさら新しいところも行きたくないの、ガルの集落は、私のために死んだ人がいるから、まず、せめてそのお墓にいきたいの」
「そこにも「守る人」はいるんでしょう」
 リンの声に、マリアは目を瞬いた。
「私の「守る人」が死んだところなのよ、そこにだけは、行った方がいいような気がするのよ」
「大丈夫かしら」
 仕方がない、という顔でシーフが付け加えた。
「だから俺も行くんだよ、もめごとが起こりそうになったら逃げるのだけれど、そばに誰かいるだけで違うだろうから」
「私もいきたい、そこではまた、「治める人」に会うのね」
 リンが有無を言わせない口調になった。
「私の代わりにでいいから、マリア、「治める人」に訊いて頂戴」
 訝し気にマリアはリンに目を向けた。
「子供が生まれないのよ、私たち」
 それは、マリアも思っていたことだった。
「私にも生まれないし、マリアにも、そんな暮らししていても、生まれないのね、みんな、手を触っただけでもどんどん産む、産み過ぎて始末するぐらいよ。どうして私はと思ったけれど、前世がないと生まれないのかもしれないわ。どうにかしたら生まれるようにできるのか、それを訊きたいのよ」
「子供、ほしいの?」
 すこし冷めた声でマリアが訊いた。若いリンは続けた。
「前世がなければ「治める人」は相手してくれないし、「守る人」のいない、前世のないものなんて、わかればみんな逃げるわよ。ふだんはよくっても、なにかのときに困ることになる。十歳の子供は、親がなんでも前世をくれることになってるわ、旅先で社に連れて行ったり、ひとりで行かせたり、みんなしてるんだから。子供ができて、前世をもらってくれたら、どこかにその子は根を下ろせる。私もそれを頼りにできるじゃないの」

朝の学校が終わった後の昼下がりだった。久しぶりに雲のない空に陽がかかっていた。
 ガルの領域の、社の主は短い髪は白髪になり、腹だけがたるんで、すっかり老けていた。マリアはいちど見ただけだったので、それが同じ男かどうかもわからなかったが、主の方はわかったらしい。マリアがまだ遠くにいるのに、
「あまり近寄らないでくれ」
と、社の戸口の前に立って大声を出した。声が乾いていた。
 マリアは立ち止った。そのうしろでシーフもリンも立ち止まった。マリアは言った。
「この人が説明に今行きます」
 よくきこえなかったようで、社の主は再び大声で言った。
「「守る人」はもういないだろう、ヨカンは死んだ」
 茶色の衣のシーフはつかつか歩いて主に向かった。皺は多いが、五十を超えてもまだ元気ではあった。近づくシーフを主はじっと見ていた。
「私が、まあ、「守る人」です、マリアは、「治める人」に呼ばれて、ここに来たのです」
 恭しくお辞儀をしてシーフは主に言った。主は言葉に詰まりマリアを見た。
「主は、私に心配があるなら、すこし離れてごらんになってください」
 マリアは社にどんどん近づき、浮足立った主は学校の戸口まで小走りに逃げた。掘立小屋の学校の中から下働きの中年男が顔を出したが、主がしかりつけ顔を引っ込めた。
 社では水晶玉がぼんやり光っていた。
「マリアが参りました」
 社の前でマリアが跪いた。水晶玉が明るくなり、マリアの前に白い衣の男の立ち姿が現れた。
「マリアよ、あなたに告げることがある、兜をかぶるがよい」
 マリアは戸惑った。社の中には、青銅色にひかる、細かい細工を施した背の高い椅子があり、目まで覆う兜が座面におかれていたが、どう被ればいいのかいいのか知らない。
 マリアは、困惑した顔で主を、それから、あまり近づかず控えてるシーフとリンを見た。
「どうした」
 シーフは、声をかけてずかずかマリアに近づいていく。リンもついていく。マリアは立ち上がって青銅の椅子に寄って行った。
「どう、被ればいいのかしら」
「主よ、恐れずマリアに近づくがいい」
 「治める人」が社の主に声をかけるが、はあ、といいながら、主は恐る恐る数歩まえに踏み出しただけである。主からは社に入ってしまったマリアは見えない。戸口に立ったシーフは主に顔を向けた。
「俺がみてるからつけ方を教えてくれ」
 ときどき詰まりながら、主は、兜の結束のほどき方と結び方を口にした。シーフはそれを大声でマリアに向かって伝え、社の中でリンがマリアに兜をかぶせて、いくつかあるヒモを主の言うようにマリアにしばりつけた。慣れればあっというまにおわる作業の筈だったが、知らないことを言葉だけきいて行うのはすこし手間取った。
 兜の中で、マリアは目の前が明るくなるのを感じた。

目の前はもやもやと明るいがなにもみえない。いきなり耳から、やや低い男の声が聞こえた。
「マリア」
「はい」
「声を出さなくても、口や舌を動かすだけで大丈夫、やってみて」
 マリアがいわれるとおりに、声を出さず
「はい」
と口を動かすと、耳から
「はい」
という女の声が聞こえた。誰が出した声だろうとマリアは思った。
「あなたの声を合成している、これで、まわりに知られず直接会話ができる、「治める人」を動かすとログに残るからね、ネロだよ、覚えていてくれるだろうか」
 マリアは、すこしためらってから、口を動かした。
「ヨカンの弟の、ネロ?」
「そう」
 ヨカンが死んだときのことが頭にうかんだ。ネロを最後に見たのはヨカンがかつがれて運び去られるときで、涙も出なくなったネロは、マリアをちらちら見ながら去っていったのだった。
 マリアはなにもいわず、兜から聞こえる声を待った。
「あなたには済まない事だった」
 マリアは混乱した。自分のためにヨカンは死んだのになぜそういわれるのかわからない。
「私を恨まないの?」
「はじめはそうだったが」
 男の声がゆっくり続く。
「あなたの体がそうなったのも、システムとして決められたことだ、これは直達回線であなたにだけいうことだからいうのであって、ほかには言わないでほしい、僕もこれができる立場になったから、あなたについて調べたんだ」
「システムというのは、なんなの」
「この世界を見せよう」
 マリアの前にいきなり視界が広がった。社と学校とそのそばの主の小屋がみえる。マリアにとってはじめてだったのは、その景色が上からのものだったことである。その角度でものを見る機会は今までになかったので、自分の見ているものがなんなのか、はじめはわからなかった。
 社の戸口にはシーフが立ち、中を覗き込んでいる。右の奥に自分がいるのだろうが見えない。リンは社の奥に衣の色だけが見えた。社の主は学校の戸口のあたりでそれを眺めている。
「鳥の目だ、飛ぶものの中に、見ているものをこちらに伝える仕組みを持つものがいる」
 視点は上昇していく。社は小さくなっていき、広い平原に、林や森、丘、その間に畑や、集落がどこまでも点在している。
 さらに視点は上がり、空が暗くなってきた。太陽の反対側の大地に色の変わったところが現れた。
「マリアはかぎられたところを動くようになっていたからわからないのだ、あの暗いところでいろんなものが掘り出されたりつくられたりしている、その先に、都がある」
「ネロ、あなたはいま都にいるの?」
「そうだよ」
 視点はどんどん、暗いところに向けて移動していく。陽に照らされているのにそこは暗く、その先に白い円盤のようなものが見える」
「あの白いところが都だ、あそこでこの世界を維持している、いつから世界がこうなっているのか、まだ僕も教えられていない、「治める人」のプロトコールを触る権限は与えられたんだけど」
 マリアにはなんのことだかわからなかった。
「都の中心には入れないエリアがあって、そこに住む「中の人」たちに仕えるのが、そのまわりのもののつとめなんだ。僕も、マリアも、ヨカンもそうだ。すべてのシステムは「中の人」がつくったし、どうも、僕らの体も「中の人」の設計した通りにできているらしい。それを、祝福なんかのかたちで変えることもできるんだ。都を直接維持するものはあの暗いところで生産される、そのまわり、マリアの回るようなところはすべて、なにも与えられなくても自前でずっと維持存続できるようにでなっている、そして、人間を都やそのまわりに供給するんだ」
「わからないけれど、あなたのように都に行くのね」
「うまれたばかりの人間にはつよい免疫があり、生殖能力がない。そういうふうにいつからなったのかはわからない。十歳になると、兜の細工でチップが埋められて登録される。それでこちらからは個別認識ができるし、なにを見てきたかも選んで再生できる、それと同時に、祝福の種なしパンのを与えることで、免疫力は弱められ、生殖能力も与えられる。すべて、社会をコントロールするためだよ。前世と称したものが与えられるのも、それでその人生をコントロールするためで、実際に回収したものが再構成されて、次のものに与えられる」
 なにもかもちんぷんかんぷんで、チップという言葉もマリアにはわからなかったが、十歳になるといろいろ細工されるということと理解した。
「チップのないものに生殖能力を与えないのは、コントロールできないものが増えては困るからだ、だから、チップと生殖能力はセットで与えられるようになってる、で、そのあとはいくらでも生殖できる、これもよくわからないんだけれど、昔より出産がかんたんにできるよう人間はかえられたらしい」
「私は登録されてるの?子供は出来ないけれど」
「この仕組みだと、人間はどんどん増える。生殖能力と一緒に、免疫力が削られるのは、それをコントロールするためだ」
 ネロの声は、答えずに続ける。
「人が増えすぎて、前世の数が足りなくなりそうなときは、マリアのように、登録するときに前世のもらえないものがうまれて、免疫は弱めず生殖能力もないままで、病がその体に与えられる。その役割は、ひとを減らすことで、流行り病はそのためのものなんだ、病気で死ぬんだから、「治める人」に恨みは向かない。恨まれるのはマリアで、守るために免疫力だけは維持した「守る人」が集落ごとにおかれる。マリアのばらまく病気は、つまりは、人の数が増えすぎたから減らすためなんだ。ひどい仕組みだと思ったよ、口には出せないけれどね、いろいろ知って嫌になって、都から出るものもたまにいるんだけれど、出るときにはいろいろいじくられて思い出せなくなる」
 マリアは黙って聞いていたが、やがて口を動かした。
「私は、病をばらまくために生きているのね」
「たまたま、そういう順番だっただけだ、僕は調べてやっとわかった。それで、マリアを探したんだ、人口も減ったからもう病をばらまく必要はない。好きなところに住めばいいんだ」
「今更よね」
「そうだね」
 ネロの声は、ゆっくりになった。
「でも、今のうちにとは思ったんだよ、僕がこういうことができるのもいつまでかわからない、「治める人」はふだんは自動運転で、ずいぶん昔にできあがったプロトコールだから、どうかというところがあるんだ、そういうときに手動操作するんだけれど、つながりが時々悪い。そもそも、この数百年、「中の人」たちからの連絡とか指示とかがないんだ、いきなりぜんぶ止まってもおかしくない」
「止まってしまえばいいわ」
 マリアはうなるように口を動かした。
「そんなことのために生きてきたなんて」
「せめてできることは、与えられなかった祝福をあらためて与えることくらいだよ、チップといっしょに与えるんじゃないからちょっと手続きが違うんだけれど、探して、用意はしておいた、子供じゃないから量は増やしてある」
 すこし間があいた。
「兜を脱いだら、種なしパンがでているから、もらえばいい、子供をつくることができる」
「今更そんなものいらないわ、でも、病のほうはなんとかしてほしい」
「わかっていなかったのか、ごめんよ」
 ネロは意外そうに言った。
「前の、だれもいない社で出した種なしパンで、もう、マリアの中から病は消えている、そういう説明を「治める人」にさせたはずだったんだけれど、自動処理だからわかりにくかったかもしれない」
 マリアは少し笑った。
「あれでわかるわけないじゃないの」
「笑ったね」
 ネロの声が明るくなった。
「明るくて、むかしのマリアみたいだ、ヨカンや僕のいたところに戻って、これからどうする」
「ヨカンの墓守でもするわ」
「、、、ありがとう、その社から呼び出されるとは思わなかったよ」
 マリアは少し考えた。
「でも主がいやがりそうね、もう病はないといっても信用してくれないでしょうし」
「それは「治める人」のほうで命じるよ、押しつけがましくてあまり好きなひとではなかったけれど、いうことはきいてくれるだろう。マリア、僕はシステム側の人間になってしまったから、マリアに謝るのも自分の義務と思ったんだ」
「すごくよくしゃべる大人になったのね、むかしは私のほうがよくしゃべった」
「話すわけに行かないことを、たくさん話して、楽になったよ、マリアだから言ったんだ、ひとにはいわないでほしい」
 マリアは、兜の中で、遠くに見える都とよばれる白いエリアを望み見ながら答えた。
「言ったって信じないし、信じたってなんともできないし、嫌な気持ちになるだけよ」

マリアの兜をシーフが脱がせると、社の前では、「治める人」が主に託宣していた。
「マリアからあなたに病がいくことはない、マリアはヨカンの墓を守る、そのようにあなたが働いてやるように」
 主は、黙って頭を下げ、「治める人」はすこし輝きを増してから、すっと消えた。
 シーフに手をとられて、マリアは青銅の椅子から立ち上がった。水晶玉のわきに、種なしパンが出ている。しかし、形がおかしい。割れたようなかたちであり、あるはずの破片もない。
「ごめんなさいマリア」
 リンが、その横に立っていた。
「ちょっと触ったら割れちゃったの」
 また手癖が出たのか、そんなに味が知りたかったのか、割れた欠片はどこにいったのか、マリアは訊く気にもならなかった。
「いいのよ」
 マリアは、パンをつまみあげ、懐から手巾をだして、それを丁寧にくるんだ。すこし遠いところから主はそれをみていたが、首を振って、社から離れていった。
リンはきいた。
「兜被ってずっと口を動かしてたけれど、なにかわかったの?子供のことはきいてくれた」
「そうね」
 マリアは、手巾にくるんだパンをマリアに差し出した。
「これを、ダモンに食べさせればいいわ、あなたはもう味もみたようだし」
 リンは涼しい顔で、少し舌を出した。

それから一年もたたないある日である。
 午後の、閑散とした学校で、主がおもてに引き出した椅子に座ってくつろいでいた。陽はいつものように柔らかく、風がすこし吹いている。学校の小屋の後ろから回り込んでくる足音がきこえた。下働きの男がずいぶん早く戻ってきたと思ったらその気配から声が聞こえた。
「先生」
 主は振り向いた。
「ネロか」
 ゆったりしたやや汚れた灰色の上下は、十年以上前、十五歳でここを発ったときに着ていたものによく似ていた。ネロは髭が増え、若いが子供の顔ではなくなっている。
「先生、戻りました」
「そうか、都はどうだったんだ」
「よく覚えてないのです、最外郭までしか入らなかったので」
「儂と同じだな、儂がもうずいぶん動きにくくなったから、助けに戻されたんだろう、そのうちこの社を預かるがいい」
「そういうことだと思います。恩を返します」
「とりあえず、昔住んでいたところに戻るか、あそこは今、あいている、ちょっと前までマリアが住んでいた」
「マリア?」
ネロは首を傾げた。
「前世のないマリアだ」
「ヨカンが死んだのは、彼女のためでしたね、どうして彼女が」
 ネロは病を広めヨカンが死ぬもとになったマリアのことを、軽い怒りとともに思い出した。
「一年前に、「治める人」がここに住ませるよう言われたんだ、ヨカンの墓守をするといってな、お前の住んでいたところに住んでいた、シーフとかいう男も一緒だったかな、客をとるようなことはしなかった、儂が助けてやれというのが「治める人」のご意思だったからな」
「流行り病はどうだったのです」
「もう、だれもかからなかった、「治める人」のお導きだろう」
「マリアはもういないのですか」
「死んだからな」
 ネロは遠くの話をきくような表情で、黙っていた。
「「治める人」が、マリアの命が危ないからあらたな祝福を授けるというので、儂が、くだされた種なしパンを、口に入れてやったんだがな、そのあと数日して死んだよ、間に合わなかったんだろう、シーフもすぐにいなくなった、仲が良かったからな」
 落ち着いたら社にきて主を手伝い始めると言い残し、ネロは自分の住んでいたところに向かって、畑の畝のわきを歩いた。
 暗い家の中はすっきり片付いていた。壁の炉には、何度も修理した跡のある鍋が白い灰のうえにかかっていた。
 ネロは、なんでマリアがここにいたのだろうと思いながら、寝台に身の回りのものをいれた袋をおいた。
 ネロはすっかり記憶を消されていた。都で「治める人」の手動運転をしていたことも覚えていない。
 ネロがマリアに与えた「祝福」の種なしパンが問題だったのである。ネロが、その項目を探し出して特別調整して出したものが、通常のものではなく生殖機能の完全な発現をもたらすものだった。その発動は特別事項である。定期監査でわからないわけがなかった。当然ネロは査問にかけられ、記憶を操作され追放された。
 マリアがそのパンを懐にいれたのは、それをみていた社の主のチップのよみとりからわかっていた。わかったのが数か月後で、マリアの妊娠は不明出産もまだ早すぎたが、生殖機能の完全発現したものを野放しにはできないからさっさと死んでもらわねばならなかった。主のあたえた祝福で死んだとは、主は思っていなかったのであるが。
 この、生殖機能の完全発現は、遺伝子に作用して継代できる形質改変であった。
 いまの人々は、チップとともに免疫力低下と生殖機能回復を祝福の形で受け取る。そうすれば生殖は可能だが、そこで生まれる子供は、やはり祝福されるまでは生殖ができない。チップのない人間は、世代交代できないから、逸れて集団をつくっても存続できない。ネロが与えたもので、完全に機能する生殖機能が、なにもなくても継代できるようになる。
 リンとダモンは、いまのところ、子供ができたら十歳で前世をもらいにいかせることしか考えていない。誰にもわからないままその形質はひろがっていくだろう。いつになるかはわからないが、都が止まってしまい、子供のできないひとたちが死に絶えたのち、ネロがマリアを通してリンとダモンに与えたその形質を受け継いだ者たちが、地に満ちることになるだろう。
 そんなことについては、ネロは全く頭にない。ネロはただ、かって住んでいたところに戻り、社の主の手伝いを明日からするのだと思いながら、ほこりをかぶった鍋を磨き始めた。

文字数:30677

内容に関するアピール

どこだかわからない星で、行動を記録できるチップを埋められ生殖能力と免疫能力の操作で治められる民の話です。チップを埋めるときに生殖能力が与えられる、増えすぎると病気を流行らせて減らす、チップを埋めたものだけを統治の対象にする、その社会は前工業的で、遠隔操作される統治者が、チップで全員を個別認識してコントロールするのです。チップを埋めるシステムが消えたら、そのうちみんな、子供ができなくて死ぬことになります。
低いレベルで持続する統治システムとしてなかなかよくできてると手前味噌におもいましたが、生き延びられるものが知らないうちにそのなかに拡がっていく、そのきっかけになる話をつくりました。
 ちょっと聖書を思い出しながら書いたものです。

文字数:316

課題提出者一覧