梗 概
アルカエオプテリス・アゲート
幼い頃、オーストラリア旅行で訪れたマンガン鉱で岩肌にデンドリックアゲートらしきシダ植物に似た紋様を見つける。それがあまりに美しく、主人公は思わずキスをする。キスをした罪悪感から「愛してる」と嘘をつくが、その瞬間、強烈な甘い香りに包まれ、眼に何かが飛び込む。その日以来、眼に桜色の斑模様があり、コンプレックスとなる。
主人公は人と眼を合わせられず、日陰での植物観察が趣味の暗い青春時代を送る。高校生になり、告白を受け付き合うが、恋愛感情が湧かない。恋人と抱き合う際に花吹雪の錯覚に襲われ、倒れる。加えてキスが怖くてできず、結局別れてしまう。
観葉植物を育てるが、酷く手間がかかり、すぐに枯れてしまう。それは恋人関係の儚さに似ていると感じる。一方で、宝石は永遠に美しく、怖いと感じる。
植物への興味で大学を選び、入学する。そこで自分の興味はシダ植物へ向いているのだと気がつく。強い好奇心から特別に研究室の標本などを見せてもらえる。そして、アルカエオプテリスの標本と出会う。その時、強い目眩に襲われ、それが恋心であると感じながら気絶する。その場にいた大学院生の青年に介抱され、標本は裸子植物の祖先の化石だと知る。青年は、主人公の目をサクラメノウみたいだと評する。
青年は語りたがりの性格で、研究テーマである植物の求愛行動について教えてくれる。裸子植物の多くは、実は雌花の求愛行動により意図的に花粉が移動する事によって受粉している。その原理は鳥や魚の帰巣と同じ磁気感覚に基づくものであり、花粉から光励起するクリプトクロムと応答する磁性マンガンを含有するデンドリマー高分子は青年が見つけた。磁気感覚が唱えられているコマドリや鮭からも同じ高分子が見つかり、話題となっている。
お互いの植物好きをきっかけに二人は仲良くなる。また、主人公は特待生としてこの研究室に早期配属が決まる。歓迎会の後、酔い潰れた主人公は青年の下宿に泊めてもらう。翌朝、主人公が無意識に抱きついていた事を契機に青年が告白し、二人は恋仲となる。
恋仲というものが分からず、二人で手探りの日々が続く。主人公から手を繋いでみたり、歩調を合わせたりする一方で、青年は主人公が眩しい場所が苦手だと見抜き、水族館などの行き先を提案する。暗いデートスポットとして宝石展に行き、デンドリックアゲートを見つける。主人公は化石標本を見た時と同じ強い恋心に似た目眩に襲われる。
二人で夜の遊園地に出かけ、観覧車に乗る。ライトアップの眩しい中で青年がキスをしようとしたところ、反射的に主人公は拒絶し、破局する。
破局の傷を癒やすため、主人公は単身旅行に出かける。行き先はオーストラリアのマンガン鉱山。飛び立つ飛行機の中で、自分は宝石に転身した古代植物の求愛行動を受けてしまったのだと気がつく。永遠の宝石に呼ばれながら、儚く萎れてしまった自身の恋愛の美しさを嘆く。
文字数:1199
内容に関するアピール
設定ではたくさん嘘をつきましたが、作中世界での嘘はただ一つ、「愛してる」だけです。恋愛に絶対はない、嘘も本当もないからこそ、相手を思いやり関係を保ち続けようと足掻く様が美しいのだという話を、枯れることのない宝石の花からの求愛に囚われさせることで描くことにしました。
前回梗概は
・主人公の感情に起伏があること
・設定やストーリーを通して伝えたい内容が明確であること
が評価いただいたと考え、そこを残しつつも前回の反省として
・すこしふしぎではなくサイエンスファンタジーを作ること
・主人公が様々な行動を起こすこと
を意識しました。
実際の研究を参照しながら大嘘をついたままでいることはとても心苦しいので、「クリプトクロム」、「磁気感覚」、「デンドリマー高分子」、「ホイスラー合金」について科学書籍を是非ともご参照ください。
文字数:360