むくの木の実が落ちる

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梗 概

むくの木の実が落ちる

本州の農業地帯で獣害が発生。今まで観測されなかった、北からのムクドリの群れの飛来が原因で、群れに詳しい動物生態学者・羽鳥瑛士は農林水産省の要請で現地へ。彼の研究は群知能仮説(神経細胞の繋がりが「意識」を創発させるなら、動物個体が繋がった「群れ」にも「意識」は創発しうる)を応用し、群れに「意識」を見出し対話を図るもの。益鳥群との対話による害虫駆除等の実用化例もあり、これによる獣害鎮静化を期待される。彼は自然とは「掌握可能で、人のために使うべき資源」と考えているが、協働者たる農林水産省の官僚・水島聡子は「人間は自然の一部」との考えで馬が合わない。彼女に現地のコウモリの群れと友好的関係を築く様を見せびらかし、誤りだと証明しようとする程。それでも犬猿の仲ながら協力して調査に取り組み、何者かが群れに同地域への飛来を唆すミームを植え付けていたことを究明すると、水島はこの地の生産者と競合関係にあるアグリテック企業が黒幕と推測。同社の人間の目撃情報もあり。だが、彼は水島の考えを認めるのが癪で反発し、企業のことは忘れムクドリの群れとの対話を続け元の渡り地に戻させるも、企業の人間に誘拐・監禁されてしまう。絶体絶命も、警察により企業の人間は逮捕、羽鳥は保護される。友好的関係を築いたコウモリの群れが監禁場所付近に大集結し、異常に気付いた水島が監禁場所を見つけ通報していたのだ。だが、羽鳥は彼女の機転ではなく自然を操る力の賜物と豪語し、険悪な関係のまま事件解決を受けコンビは解散。

以来、羽鳥は獣害解決の件で一躍時の人に。ほとぼりが冷めた頃、別種の群れによる獣害報告が各地で相次ぎ、再び水島から依頼が。マスコミも羽鳥ならばと煽り立て、仕方なく険悪コンビを再結成。企業の撒いた獣害誘発ミームには、企業も意図していなかった感染性があり、別種の群れを介し拡散していたことが判明。さらに別の渡り鳥により国外に伝播し、やがて世界中で獣害が多発。羽鳥は様々な制御技術を試みるも、先の件のように局所的獣害は抑制できても感染爆発の前には無意味だった。失望した農林水産省により羽鳥は担当を外され、自分を見つめ直す。自然の掌握を試みることが傲りだと認めた彼は、人間による群れ制御技術を撤廃させることを決意。対話効果を永久に喪失させる相殺ミームを作り、獣害誘発ミームを参考に感染性も実装し、水島に連絡。自らの過ちを認める羽鳥の姿勢に折れた水島と共に、相殺ミームをばらまく最後の対話型制御を実行。やがてそれは獣害誘発ミームを飲み込み獣害は収束。

事態は収まったが、かつて羽鳥が作った益鳥制御等も失われてしまい、彼は訴状とマスコミに追われていた。報道陣から逃げる彼を水島の車が拾う。二人の健闘が認められ、動物と人間の対等な関係下での一次産業を考えるチームが新設され彼をスカウトしたいとのこと。羽鳥は快諾し、新しい仕事場へと向かう。

文字数:1196

内容に関するアピール

「最小限の嘘」は多面的に設定しました。概念面は「人間は自然を掌握不可」(本当は嘘かは分かりません)、設定面は「群れ制御ガジェット」です。これがドミノ倒しにより二段階に波及する話を考えました。一段階目は「ガジェット×動物の渡り→人為的獣害誘発」、二段階目は「ガジェット×感染性ミーム→爆発的獣害パンデミック」です。第二回の梗概講評での「一本調子」という指摘をふまえ、単純なドミノ倒しの様を描くのではなく、一段階目の結果は先に起こった状態にし、その原因を探るミステリ的パート(誘拐というアクシデントも挟みつつ)に、それを解決したと思ったらドミノ倒しが一気に進み二段階目の問題が発生するパニックパートという形で、飽きが来ないよう転調を有する物語設計にしたつもりです。「嘘」の概念面を羽鳥の心理に組み込み、その克服が二段目の解決のキーとして機能させることで、主人公が苦難を乗り越える話としたいです。

文字数:395

課題提出者一覧