ぎがぱっち!

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梗 概

ぎがぱっち!

その日、とあるソーシャルVRアプリのオフ会に参加した女性が参加者の男に話しかけられる。旧型のタブレットが目についたのだという。「ストアから消えたアプリが手放せなくて」
 彼女がそのアプリを見せると男は過去を懐かしむようだった。
 
「人生はクソゲーだ!」
 大学のとある部室で国枝優来は嘆いていた。話によるとARゲームのオフ会に参加したが会話が弾まず隅っこで時間が経つのを待っていたという。人の顔と名前って一致しなくない? 話すって何、どうやんの? 堰を切ったように不満を話すが部員は皆人見知りのため気持ちは分からなくもない。
「いっそ人生をアップデートすればいいだろう」
 冗談で一人が提案するが優来は本気にする。
 優来がオフ会に参加したのは『エルゴ』という大人気ゲーム。ARと位置情報を掛け合わせたタイトルで有志によるMOD開発・販売が認められているのが特徴だ。これにより、ユーザー主導によるカスタマイズが日夜行われている。優来は部員を集めてエルゴのMOD開発を始める。第一弾として人に情報タグを付与する機能をヌルタグと命名して売り出した。学内で宣伝活動を行うと知り合いが購入し、構内で広がっていく。SNSでバズってお金が入り、さらなる機能の実装に動く。空間へのタグ付け、ナビ機能、支払い機能や画面上での衣装着せ替え。機能を追加するごとに開発にかける情熱は増すが、部員たちがヌルタグを使っても私生活に劇的な変化は起こらない。構内でカップルを見かけるたび人生を神ゲーにするぞと決意を新たにする日陰者ども。
 売上を使って部屋を借り、部室から活動拠点を移した彼ら、学校祭に向けてデカいのをぶちかまそうと話し合う。決まった案は、住んでいる都市の3Dデータを組み込んで都市そのものを飾りたてたものに変えてしまおう。作業できる時間は限られている。学祭当日にヌルタグのアップデートとして機能を追加。ヌルタグをインストールしているタブレット全部が画面越しに現れた世界に驚いた。ドット絵風のローポリが映し出される。彼らは光景だけでも現実をゲームに書き換えてやろうとしたのだ。
 反応は上々だったが、構内でおろおろしている女性を見つけた。優来が話を聞くとどうやら遠くから学校祭に来たものの、地元で母親が倒れたと連絡があったそうだ。学園祭は来場者も多く街まで混み合っていた。タブレットを渡して女性を見送った。学校祭は大成功で終わる。しかし、規約違反となってアカウントがBANされ、これまで作ったMODも販売停止となる。彼らは再度開発を進めるよりも就活を優先させる。ヌルタグの開発が実績となっておのおの理想とする道を進んでいった。

人生はクソゲーだなんていいつつもあの頃は輝ける日々だった。優来が女性のタブレットに表示されたヌルタグにまつわる物語を語り終え、女性は言う。
「あのときのお礼がずっとしたかったんです」

文字数:1188

内容に関するアピール

 
「人生はクソゲー!」と声高に主張しても攻略法がわかるなんてこともなく、現実は好転しないらしい。
 だったらもう人生の方をアップデートしてどうにかするしかないじゃないか、とそんな話です。
 本作の嘘はいわゆるARゲームで有料MODが公式に販売できるくらいには拡張性があること。非公式ならともかく公式はないはず……。

ビジュアル的イメージはADVゲーム『ROBOTICS;NOTES』です。当時プレイした際にARで人に名前がタグ付けされているのを見て、便利なので現実もこうなってくれないかなあと淡い期待をいだいたことがありました。

梗概ではお話が青春成長譚に落とし込んでしまったきらいがあるため、実作を書く際はMODの開発・リリースやその影響が拡大していくさまに重点を置いていきたいです。

文字数:339

課題提出者一覧