梗 概
嘘つきは世界の終わり
現実はつまらないと部屋に引きこもる水野は、ガチャを回し腹が減ったら壁を叩き合図を送り親に飯を作ってもらうという生活を送っている。ある日突然光に包まれ、目を覚ますとそこは教会の聖堂、目の前には修道服を着た少女。異世界に召喚されたのだ。
司教が現れ「神様! まさにイメージした通りの姿です!」と言うと、ぼーっとした様子で水野に近寄り堂々と財布を盗んだ。謎の行動に戸惑っていると、司教は我に返り説明する。この世界には、嘘をつくと我を失い泥棒になってしまうというルールがある。盗みが達成されると正気に戻るが嘘はバレてしまうのだ。司教は召喚された水野を神と思ったが雰囲気が神っぽくないと疑ったので嘘になり、水野の所有物を盗んでしまったのだ。
水野は驚くも咄嗟に自分は神であると嘘をつく。異世界人のため、嘘つきは泥棒の始まりルールは適用されなかった。そして神として悠々暮らしつつこの世界を学ぶ。ルール下で人は社会を形成し、嘘をついて泥棒しても問題ないよう私有財産が廃止された共産主義国家、嘘が肯定され財産を増やすことが正義である資本主義国家、そしてここ、嘘は神の罰とされる宗教国家の三国があるようだった。
しかし現実との違いはルールだけで魔法などはない。なぜ自分は召喚されたのかと疑問に思っていると、水野を召喚した修道女が「実は私、神を信じていないんです」と言った。それは嘘ではなかった。彼女は幼い頃から神に祈ってたが、その存在を疑うようになっていた。自分に嘘をつき祈り続けるも泥棒したい状態になっていた。しかし聖堂は密室でなにも盗めるものはない。その結果、異世界から水野を盗んできたのだ。
突拍子もない推理に水野は言う。「なら密室で一人で嘘つけば異世界からなんでも持って来れるのでは?」 それは単なる反論のつもりだったが成功してしまった。その技術は、God Chance、略してガチャと呼ばれた。ガチャは富を得る手段として確立され、嘘はバレるので瞬く間に他国に広まっていった。そもそも嘘が困難なこの世界では人は主に本能や直感で行動しており、それは必然の連続で皆が退屈していた。ガチャはこの世界に偶然という魅力をもたらしたのだ。人々は密閉空間を求めるようになり、それは国というシステムも破壊して、世界中が引きこもるようになる。
しかし水野は嘘をつけるためガチャを回せない。なので誰かが籠もってる部屋にこっそり穴を開けて密室を解除するという嫌がらせを繰り返し、『壁を殴る者(古代ギリシアで泥棒の意)』と呼ばれ人々から忌避される。だが人類の引きこもり化は止められない。
世界を見回す。自分だけが外にいて、皆は部屋の中にいた。そしてガチャの結果、既知の技術から未知の魔物まで、なんでも召喚され滅茶苦茶になっていた。嘘のような本当の世界があった。
「外の世界も意外と楽しいな」 水野の呟きが嘘か本当かは、わからなかった。
文字数:1199
内容に関するアピール
最小限の嘘は「もし嘘つきが本当に泥棒の始まりになる世界があったら」です。
私はなるべく正直に生きたいなあと思ってるので、嘘がない世界は人間関係がギスギスしてダメみたいな単純な話にしたくないという思いでどんどんドミノを倒しました。
いわゆる異世界転生モノは未だに毀誉褒貶が激しいと思うのですが、架空の設定がある世界を語る時に現実の価値観を持った主人公の視点にすると書きやすく読みやすくていいじゃん!というシンプルな気づきがありました。
普段から小説を書く時、哲学的なテーマ、世の中に主張したい自分のメッセージ、人間を超えた斬新なキャラ、観客の感情をコントロールする起承転結のテンポとかそういう途方もない夢想が頭をぐるぐるして雁字搦めになるのですが、今回はとにかくドミノを倒すぞ!と集中でき、面白い妄想を楽しむという基本に立ち帰ることができました。課題に感謝します。
文字数:381