彼等の行方を知るものは誰もいない

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梗 概

彼等の行方を知るものは誰もいない

カルナは、オラクルソフトが発展途上国で実施するエンジニア養成プログラムに選抜されていた。18歳の時に、大学へ無償で進学できる支援継続試験で不適合となり、その後は無為な日々を過ごす。カルナの趣味は専ら、ゲームのバグを見つけてはウェブで公開し、再生数を稼ぎ、承認欲求と金銭を得ることだった。ある時、コンペで優秀賞を取ったゲームを手に取り、感銘を受ける。カルナは初めてゲームを作り上げた。ウェブで公開すると、優秀賞の作者の凪海から、一緒にゲームを制作しないかという誘いを受ける。

カルナのプログラムは独特で、融通が効かず、扱いが難しかった。だが、ゲームには異質の感触がある事を、凪海は共同で制作する中で感じていた。プログラムを組み込むのに費用を使い果たし、クラウドファウンディングで資金を募る。開始から百時間で目標金額を達成し、さらにオラクルソフトCEOのマリア・アウシリアドラからオファーが届く。

収益化のため、ランダム型アイテム提供方式を組み込むことにした。カルナは凪海にコンセプトを尋ねられ、幸せな気持ちになれる演出でいいと雑に答える。ゲームが公開されると、好調なダウンロード数を叩く。それ以上に驚異的な数値を見せたのが課金額だった。SNS上では回しているだけで幸せと持て囃されていた。快調に売れ行きを伸ばしていくのと並行して、中国では有害で危険なゲームとして配信停止を受ける。凪海は憤るが、マリアに実際にガチャを回してみろと言われ、凪海は初めてガチャを回した。視覚から映像が、聴覚から音楽が、凪海の快楽中枢を刺激する。凪海は、この感覚を既に知っていた。

凪海は数年ぶりに、カルナのゲームを起動する。使い古されたネタだ。同じ部屋でのループを繰り返しながら、幽霊に追い詰められる。何周もすると、現実と虚構の狭間が揺らぎ、プレイヤーは息絶える。このゲームにクリアは存在しない。凪海は、死んだのは自分だと確信した。
 ポップアップで、最新パッチが配信されている事に気づく。部屋からの脱出エンドが追加されていた。スタッフロールを終えると、憑き物が落ちたような気がした。あの日からの出来事が全て悪夢のように感じられ、凪海は実家に帰る事を決める。

カルナはゲームを作り続けた。マリアの方針に従い、ゲームを濫造していく。カルナを理解する存在はついぞ現れなかった。そのかわりに、ガチャ演出プログラムがカジノやパチンコに転用され、違法な映像ドラッグとして劣化品が蔓延る。ゲームの価値は低下し、悪評ばかりが目立つ様になり、ついにはマリアもカルナを見限った。
 カルナはそれまでの資産を使って、ゲームを開発する。誰の手も借りない、月日ばかりが過ぎていく。凪海は、知らない誰かと、小さなゲーム会社を立ち上げていた。プレイはしたことがない。するつもりもなかった。会社のサイトに、凪海のアドレスを見つける。捨てアドを作成し、匿名で送付した。

 

文字数:1200

内容に関するアピール

最小限の嘘は「感情を操作するプログラムを書く能力」。
最小限の嘘から最大限の効果をというお題で、僕の脳内にはセカイ系的な想像が広がった。
君と僕の関係性がセカイの趨勢を左右し、まあなんか起こってしまう。そういうやつだ。
本作は一瞬セカイに手が届くも、片方が離れていってしまったことですべてを失ってしまう。そういった話になっている。
そして、未練がましくも届かない君に最後の悪あがきを送ることで、僕は最後の復讐をする。おそらく、君は悪夢を現実へと取り戻す。そのことには何の意味がないと知りながらも。
 
 
タイトルはテイルズオブシリーズでGameOverの代わりに表示される一文。「その後、彼らの行方をしるものは誰もいなかった…」から。

文字数:311

課題提出者一覧