梗 概
双子の国
ある日を境に全ての子供は一卵性双生児として生まれてくるようになった。原因は不明。ある生物学者は進化に行き詰まった人類の同時多発的な突然変異ではないかと言った。
夜明けに生まれた一卵性双生児、アサとヨルは小学生4年生。二人のいる学校では双子を均等に別々のクラスに分け、効率的な管理を可能にする「偶数クラス制」を採用している。1組には相川A、伊藤A、宇崎A…、2組には同様の構成で相川B、伊藤B、宇崎B…がいる。クラスメイトまでもがコピー状態にあるのが双子世代の特徴だ。二人は共にアサのクラスメイトである男子、黒川Aを好きになり、ある日喧嘩をしてしまう。二人の間にはそれ以来見えない溝ができた。
中学生になり、ヨルは髪型や服装、趣味など、自分だけの個性を求めるようになった。分りやすい非行にも走り、両親を困らせる。双子世代のアイデンティティの危機は全世界的に見られた現象であった。そんな時に政府は「双子特区」と呼ばれる、中央軸を境界に左右対称に同じ道、同じ施設が存在する街A、街Bを持つエリアを各地に作り、双子たちを平等の環境のもとに引き離すことができる環境を用意した。荒れるヨルを見かねた両親は双子特区にあるA高校、B高校にアサとヨルを通わせた。
高校以降、双子特区で別々に過ごした二人は社会人になり、実家で久しぶりの会話を交わす。それぞれ別の道に進んでいたものの、仕事の愚痴や恋愛に対する考え方が驚くほど一致することに、ヨルは改めて気付く。その頃、双子特区では成人した双子たちのニーズに答える形で、双子特区の左右対称の構造から逃れたエリア、双子の双方が出入り可能な「中央区」ができ始めていた。ヨルはアサに、中央区での二人暮らしを提案する。
5年後、二人は共に黒川Aと結婚し、三人夫婦になっていた。黒川Bは相川ABと男性三人のトライアドカップルとして暮らしているらしい。ヨルは双子の男の子を生んだ。ヨルは夜明け時に生まれたこの二人に”ヨアケ”と名付ける。これは二人の共通の名前でもあり、二人で一つの名前でもあった。全人口の1/2以上が双子になったこの頃には、婚姻や出産、戸籍に関わる制度が目まぐるしく変化していった。
25年後、二人のヨアケは共に建築デザイナーになっていた。ある日は二人のヨアケとして働き、またある日は一方のヨアケのみが働いたりしながら、双子の成長過程に合わせながら部屋の構造を変化できる住居をデザインしている。この頃には各地の双子特区の中央区の面積は拡大し、非双子特区との境界は曖昧になり、代わりに左右対称の街A、街Bは廃れていった。
更に20年後、アサは事故で亡くなり、ヨルはそれ以来自分のことを”アサヨル”と名乗り、二人分の役割を生きた。アサヨルの自宅に子供達と孫たちが訪れる。二人のヨアケとそのパートナー達であるアイとケイ、彼らの子供であり、戸籍上はいとこ、遺伝上は兄弟姉妹である四人の孫達 ―14歳になる頃に自分たちで名前をつけた― サンセ、夕蜜、εト、鳶尾だ。
文字数:1244
内容に関するアピール
本作のひとつの設定(仮定、嘘)は「全ての子供は一卵性双生児として生まれる」です。この設定から始まり、教育、街の構造、婚姻制度、出産、名付けなどの社会制度が次々と変革していく様子を描いています。
「全ての子供は一卵性双生児として生まれる」という設定が頭に浮かんだ時、まず引き起こされるのは「アイデンティティの危機」であろうと考えました。左右対称の構造を持つ双子特区は、この危機を回避するために、街に起こった変化です。しかしさらに事態が進み、双子の第二世代が生まれる頃には、むしろアイデンティティという概念事態が変容し、個人であり二人でもあるような状況が生まれ得ると考えて、後半の展開としています。
実作では二人の会話や学校、職場での出来事を通した自然な感情の変化と社会構造の変化が上手くリンクするように描きたいと思います。
文字数:361