リトル・ヴィシュヌ

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梗 概

リトル・ヴィシュヌ

女子高生のシイカは、夜の学校で、あこがれの同級生のソウマくんが校舎の屋上から飛び降りるところを目撃した。
 地面に着いたところは見えなかったが、次の日にソウマくんは傷一つなく登校してきた。
 ソウマくんは空想癖があり、正確は天然ぎみで、勉強はさっぱりできなかったが、スポーツ万能で優しかった。
 シイカは好きだったソウマくんを自宅に呼び、告白をしてキスをした。

そのとき、ソウマはヒンドゥー教の神、ヴィシュヌの化身だと名乗った。正確には、ヴィシュヌの精神が乗り移ったものだった。ヴィシュヌは何千年も精神体で過ごし、乗り移った生物の寿命が近づくと、次から次へと乗り移っていた。人だけでなく、動物や魚、植物など様々なものに乗り移っていた。ヴィシュヌの伝説が宗教として残っているのは、そうした昔の記憶が残っているからだという。(昔はヴィシュヌのような超人はたくさんいたが、地球を捨てて出ていくか、地球に残って身体能力が退化し、ヒトのように道具を使い始めたらしい)。

シイカが彼の話を疑っていると、ヴィシュヌは彼女に「一時的に」乗り移った。
 その瞬間、シイカの五感は研ぎ澄まされた。目をこらすと、数十キロ先の人が食べている夕食が見えた。目を閉じると、飛行機からでしか見たことがない「日本列島」を空から見ることができた。念じると真っ暗な空が見えた。視線を動かすと、自分が「宇宙」にいた。「月」、「火星」、「木星」が見えたところで、意識がとぎれそうになった。
 声を出そうとした。いま声を出せば、日本中の人間が空を見上げるということが理解できた。驚くべきことに、より小さな生き物の声も聞こえた。耳をすますと、水の音、虫の声、植物の脈動が聞こえた。なぜ今まで無視できていたのかわからないほど、世界は音でいっぱいだった。

意識を取り戻したシイカはのたうち回り、部屋のベッドに胃の中のものを全部吐いた。目をふさいでも空が回り、耳をふさいでも宇宙の音が聞こえた。それは幻覚や幻聴ではなく、ヴィシュヌがふだん感じている知覚すべて、現実に存在するものだとわかった。

シイカは三日三晩ぶっ倒れたあとに目覚め、ヴィシュヌの事情を聞いた。彼は地球を捨てて、同族がむかし旅立った宇宙に行きたいと言った。彼はいままで多くの生命体に乗り移ってきたが、多くのことは知覚できるものの、運動はどうしてもうまくいかないのだという。高速で走ったり飛んだりすることはできるようになったが、さすがに地球を飛び出すことはできなかったらしい。(それで乗り移った生物が何人も死んだ)。ヴィシュヌは身体能力はすごいものの、勉強はさっぱりできない。宇宙飛行士にのりうつったことがあるものの、人間の大人はヴィシュヌの知覚に耐えられず発狂してしまう。彼はシイカに宇宙に連れて行ってほしいと頼む。シイカはうんざりするものの、ヴィシュヌを通して見た宇宙に惹かれ、宇宙を目指すようになる。

文字数:1201

内容に関するアピール

 へんないきもの、と考えて、歴代のエイリアンや宇宙生物を調べていましたが、どういうわけか神様にたどりつきました。ヒンドゥー教の最高神3体のうちのひとり、「宇宙を3歩でまたぐ」「化身が10体以上ある」「幻術を使い、実はこの世界そのものも幻術で作っている」らしいヴィシュヌ神に惹かれました。(あとふたりの神はシヴァとブラフマー)。
 厳密に言うと「生き物を作ってない」かもしれませんが、伝承で存在するヴィシュヌ神を、どうやってそれっぽい生物にするか、に苦心しました。ヴィシュヌは身体能力はとんでもなくすごいですが、ヒトのように複雑な計算や道具をあつかう必要がなく、そっち方面は超バカという設定でした。(ヒトも身体能力は動物と比べて微妙ですが、いちばん宇宙に近そうだから)

 インド神話は多くの伝承や宗教を吸収しており、それぞれの英雄や神様も「実はあれもこれもヴィシュヌの化身(アバター)だった」と後付けしていったようです。結果、ヴィシュヌの化身は10体以上いて、魚、亀、猪、小人、英雄、英雄、英雄と、どれにもストーリーがあって大活躍するようです。なんかズルっぽいですが。

文字数:481

課題提出者一覧