パラレル・ラメント

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梗 概

パラレル・ラメント

世界は難解な非線形偏微分方程式の初期条件問題に帰着され、その数値解析的研究により、世界構造がある一つのパラメータ”P”に依存することが明らかになった。現実世界の階層下で簡単化した方程式と任意のパラメータを使用することによって平行現実パラレル・リアリティを形成、それらを差分し2次精度の離散化世界を眼前に再現することは難しい話ではなかった。

※※※

2357年、初頭。カジハラはパラメータショップ「ワイドリープラザ」で悩んで居た。
「お客さん、いったいいつまで悩んでんだい」
 痺れを切らした店主が声をかける。
「いつまでって、決まるまでですよ。なんせ初めてなんです」
「初めてったって、時間は有限なんだぜ?対して世界は無限個あるらしい。悩んでる暇があるんだったらさっさとトリップしちゃうのがこの世の定石ってもんだ」
 店主の話は半分で、カジハラはパラメータを眺めて居た。様々な世界設定が鎮座している。初めてを捧げるにしてはチンケな品揃えしかないことに気づき、カジハラは店をあとにする。
 電子タバコヴェポライザァの電源を入れ、煙を燻らせた。

※※※

カジハラは世の中に疲れて居た。
 別に初めから残念な人生だったわけではない。少なくとも現実を捨てたいと思うほどではなかったのは確かである。
妻――真弓――が死んだのだ。数値誤差の被害者。並行現実パラレル・リアリティはパラメータによって制御した疑似世界を生成するのだが、精度が未だ保証されていない。その数値誤差によって生まれた怪物――リタ=デブリス――に真弓は飲み込まれたのだった。リタ=デブリスが発現した時期は定かではないが、それリタに見つかれば最期。世界の集積誤差として取り込まれてしまうのだった。リタ=デブリスに関する論文は多数提出されていたが、未だ解決策は見つかっていない。
カジハラは奇しくも平行現実パラレル・リアリティの開発者の一人であった。彼が見逃した離散化誤差によって妻を失ってしまったことが、彼の人生を狂わせている要因の一つであった。

彼は責任を抱えることができず、研究チームを辞任。それ以降は自分では試したことのない並行現実パラレル・リアリティに取り憑かれる毎日である。

 

※※※

 

ある日、違うパラメータショップに訪れるカジハラ。そこであるパラメータを偶然見つける。

“P=mayumi_0219_2322”

彼は仰天する。妻の名前である真弓、そして彼女の生年月日。彼は決してこんなパラメータは見たことがなかった。単なる偶然であろうと考える彼の脳内ではしかし、そのパラメータで広がる世界の可能性に魅了されていた。

ああ、真弓に会えるのだ。やっと会えるのだ。

そう思ったカジハラは自身にパラメータを注入した。白目を剥き、意識がトリップする。

 

※※※

 

リタ=デブリスはカジハラを見つめている。見つめている?

 

※※※

 

カジハラが目を覚ますと目の前にマユミがいた。
「真弓!やっと、やっと!」
 真弓はカジハラに目を遣り、虚ろな笑顔を見せる。
「ごめんね、リタ」
 カジハラは彼女の異変に気づく。
「何を言ってるんだ真弓、僕のことがわからないのかい。そうか、君はリタに食われたから動揺してるんだ。そうなんだろ、まゆ……」
「いいえ、違うの」
 真弓は消え入るような声で紡ぐ。

真弓の後ろにリタ=ダブリスが佇んでいた。カジハラは全てを思い出す。

カジハラは平行現実パラレル・リアリティによって作られた怪物の一つだったのだ。リタ=ダブリスと同じように。

研究者であった梶原を食べ、カジハラを演じていたのだった。そして真弓も……。

「そうか、そうだったか」

 カジハラは笑う。そして、リタ=ダブリスを見る。

「リタ、君の役割がわかった。君は悪くなかったんだ」
 「一思いに僕を食ってくれ」

リタ=ダブリスは頷き、カジハラを飲み込んだ。

文字数:1591

内容に関するアピール

拡張現実、仮想現実が盛り上がっている昨今、もしかして平行世界へ現実を拡張できる事ができたら面白いのでは、と思い並行現実を考えてみました。話がうまくまとまっていないのですが、実作ではリタとカジハラの関係性などを深く考察したいと思っています。

文字数:119

課題提出者一覧