伝道師H

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梗 概

伝道師H

 グイグイ松本は、企画モノAVの制作会社に所属する、売れないAV監督。ある日、松本は社長から、来年度末までにヒット作を作れなければクビにする、と伝えられる。途方に暮れた松本が、大手アダルト動画配信サイト“BONANZA”を巡回していると、奇妙なことに気付く。今まで見向きもされなかった自分の過去作品のレビュー欄に、「何分何秒に何がなされたか」から「改善するには、何をなすべきか」に至るまで、実用的かつ生産的なレビューが書き込まれていたのだ。レビュアーのハンドルネームは「伝道師H」。

 BONANZA主催のAVアワードの受賞パーティーで、松本はBONANZAの事務職に転職した元AV監督で、かつての盟友であるホッピー高橋と再会、「伝道師H」の話を聞く。伝道師HはBONANZAのレビュアーランクで赤丸急上昇中、AVファンや業界関係者からも注目されているトップレビュアー。AVアワードを受賞した監督の中にも、信奉者は多いが、その正体は謎に包まれているという。実は、その日のパーティーにも招待されていたが、来場していないらしい。松本は高橋から、伝道師HのLINEアカウントを聞き出し、コンタクトを取る。

 伝道師HとLINEでやりとりを始めた松本は、彼のAVの知識、とりわけ企画モノに関する造詣の深さに驚かされる。その中で、伝道師Hは、実に上品で柔和な口ぶりで、松本が今まで手がけてきた時間停止モノの欠点を指摘する。なんでも“時間停止のさせ方がリアルではない”のだという。まるで実際に時間を操作した事があるかのような口ぶりで、延々と「わたしが考えた最強の時間停止AV」について語る伝道師。松本が「時間をリアルに停止させた所でエロさは増さないだろう」と反論すると、議論は白熱するが、ふたりはその議論を通じて意気投合。松本は伝道師Hの提言をもとに、時間停止モノの新作の制作にとりかかる。

  松本の出した新作「タイムストップ男vs絶対に感じない女」の売り上げは上々。気を良くした社長は、さっさとシリーズ化することを求める。すっかり伝道師Hのことを信用していた松本は、さらなる助言を求め伝道師Hに連絡するが、その際、誤ってLINEの「ビデオ通話」ボタンを押してしまう。と、ビデオ通話画面に一瞬、人型のゼリー状物質が映り、通話が途切れる。それ以降、伝道師Hは松本の連絡を既読スルーするようになり、連絡がつかなくなる。しかし、どうしても新作の相談がしたい松本が、諦めずに連絡し続けていると「秘密を守ると約束してくださるなら、私の家にきてください」と、自宅アパートの住所を教えてくる。

  教えられた住所に向かうと、家の鍵が空いている。家の中は生活感がなく、ちゃぶ台の上にノートパソコンと、開封済みのTENGAのようなモノが置いてあるくらいで、伝道師Hの姿は見当たらない。すると、突然TENGAの先から緑色のゼリー状の液体があふれ出し、次第に人の形をとる。「すみません。寝起きはいつもこうで……ちょっと待っていてください」と言葉を発し、しばらくすると緑色のゼリーが肌色になり、全裸の男が姿を現わす。その姿は人間と見分けがつかない。彼は、自分を伝道師Hと名乗る。

  彼の正体は、性文化の故郷たる、かに座α星から派遣されてきた「性の伝道師」。伝道師たちは多様な性文化を研究し、宇宙各地に布教、発展させていく使命を帯びており、伝道師Hは、その中でも地球人類を担当する伝道師だという。ちゃぶ台の上のTENGAのようなものは、彼の宇宙船。BONANZA上の数々のレビューは、地球の性文化の発展に寄与するための、彼なりの活動らしい。元来、生殖目的でしか性行為を行っていなかった地球人類に、多様な性文化を伝えたのは彼ら「伝道師」で、旧約聖書のオナンに避妊オナニーを薦めたのも、彼らの祖先だという。本来、布教対象に正体がバレた場合は、対象の記憶を抹消した上ですぐ母星に帰らなければならないが、松本が黙っていてくれるなら、このままAV作りに協力してもいいという。

  松本は、伝道師の入ったTENGA状の宇宙船(これは彼の寝床でもある)を持ち歩きながら、彼と協力して「タイムストップ男」シリーズの新作を次々と世に送り出し、一躍売れっ子監督となる。その過程で、松本は伝道師との絆を深め、彼の生い立ちについて色々な話を聞く。そもそも「企画モノ」も「時間停止モノ」も彼の親戚が地球人に提案したアイディアで、後者は、死んだ伝道師の父親のアイディアらしい。伝道師は地球に根付いたAVという性文化をとても気に入っており、父のように、いつか「素敵なAV」を提案するのが夢だという。AVの研究とレビューは、その夢を叶えるための努力でもあるのだった。松本は、伝道師のモノ作りと性に対する執念に心打たれ、社長に言われるがままに人気作の続編を作り続けることに疑念を抱き始める。

 BONANZA主催のAVアワードの時期が近づき、松本は社長から「タイムストップ男」の最新作をつくって、アワードに出品するよう命じられる。だが、時を同じくして、伝道師が10万作品に及ぶAVの研究・レビューを行った功績を母星に認められ、帰省が決まってしまう。松本は社長の反対を押し切り、伝道師が帰省する前に、彼の考える「素敵なAV」を形する手伝いをし、それを出品することを決意する。

  松本は、満を持して「時空消滅男」なる作品をアワードに出品する。それは「局所的に時空を消滅させる能力を得た男が、ある町の時空をまるごと消滅させ、エネルギーの揺らぎに還元された人々が、激しくぶつかり合いながら、性のビッグバンを引き起こす」という、シュールでカルトな内容であった。が、このAVの表現には、地球の科学が向こう数世紀は解き明かせないであろう、物理科学の最新理論が反映されている。まさしく自己満足オナニーの塊のような作品だったが、少なくとも、社長の言うままに、満足できない作品を作るよりは、よほど有意義で、素敵なAVになったと松本は思う。オナホールみたいな宇宙人に、自己満足オナニーの大切さを教えられるのは不思議なものだった。伝道師は、夢を叶えることに協力してくれた松本に感謝する。

 その日の夜、松本は母星へと帰る、伝道師とその仲間達を見送る。地球各地から集まった26個のTENGA型宇宙船が、輪を描きながら上昇し、淡い光を放ちながら、冬の寒空の中に消えていった。

文字数:2632

内容に関するアピール

DMM R18(最近FANZAに名称が変わりました)のレビュー欄に、時々物凄~く細かいレビューが書いてあることが実際にあり、これは一体誰が何のために書いてるんや……と思ったのをきっかけに書きました。ちなみにTENGAのコンセプトは「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」です。そんな日がくるのを、切に願っています。

文字数:160

課題提出者一覧