梗 概
オフィスのお仕事
そのオフィスには十ほどのカウンタ窓口が並び、ひろい待合には年齢性別を問わないたくさんの人が詰めかける。窓口の中のブースに担当がいる。客とは透明版で仕切られ横とは薄いボードで仕切られるだけで頭上も背後もあきっぱなし。男子女子半々ほどの担当者が目の前の小さなモニターを見ながら順番に受付する。若い女子の姿の篠原もそのなかで客に対応していた。
それは仮想空間への申し込み窓口で、オンラインでできそうな作業であるのにいちいち窓口で対応していた。申込者の志向をききだして設定を行い、となりの接続室に送り込む。いくら送り込んでも申込者は切れない。申込者の希望はさまざまである。端末に入力しながら篠原は意識を失う。
気づくと、窓口はカーテンが下ろされ、椅子は伸ばされて仮眠状態になっていた。やや若い上司の大野が、仮眠時間はもう終わると言い渡し、篠原は起き上がってまた客の相手をし始める。客はあいかわらず好き勝手なことをいう。そしてまた意識を失う。
おなじようなことを繰り返すうちに、いつから自分がそこにいるのかを思い出せないことに篠原は気づく。
意識を失う前に篠原は立ち上がる。大野が飛んできて作業を続けるように言う。まわりのブースから担当者たちが見ている。気が付くと篠原は申込者の相手をしている。うしろで、大野がべつの担当者が立ち上がったのに飛んで行った。篠原もたちあがる。気づくとまた申込者の相手をしている。
立ち上がる。大野が飛んでくるが、こんどはそのまま時間が続く。大野は困った顔で、リソースが足りなくなってきた、自動修正もできなくなってきた。それでも作業を続けるよう篠原に頼み込む。
むこうの窓口で申込者が騒ぎ始める。担当が消えたらしい。大野は飛んで行って、申込者をべつの窓口に誘導する。申込者の混雑はややましになっているが、そのあと、どんどん担当者が消え始める。仕方なく篠原は元の作業に戻るが、モニターのすみに「終了後設定」とあるのに気づく。大野が順番にブースをまわってくる。先が見えたのでこの入力ができるようになってきたが、客が終わってから使ってほしい、いままで消えた担当はこれを使ったからなのでと、お願い口調である。
ここは仮想空間で、自分はなにがしかの作業をさせられているのが、申込者に対する作業としてあらわされていることに篠原は気づく。隣のブースの担当も消え、大野が泣くように、もうすこし頼むよと叫ぶ。申込者はどんどん減る。後数人になったところで篠原は大野に、どういうことか教えてくれないともう動かないと言い渡す。担当者も数人残るだけだがあっというまに消えた。大野は、現実世界ではどうしようもない状況で仮想空間にみな逃げ始めたが、それを相手するAiリソースも足りない。まずは人々を第一段階の仮想空間に入れていき、担当者の頭脳が利用されて、その先の仮想空間に人々の意識を送る作業をしているのだと説明した。そこで待たされた申込者がブースに入り込み作業をさっさとしろと暴れる。
作業が終わったら、担当者たちも仮想空間に送られる、これはブース内でできるという。そして、大野は、最後はこうしようと思っていたのだと、篠原の端末を使って自分を送り出す。
その空間にひとり残された篠原は、目覚める。さっきと同じ部屋だがブースはなく、ずらすら並んだベッドのひとつに自分はいた。仮想空間に行った人たちが寝ている。篠原が起き上がると、仮想空間にはなかった窓の外にふくれあがった太陽がある。地球が飲み込まれるまで何年もない。その日まで仮想空間で死を忘れて人々は過ごす。オフィスで最後に残ったものが目覚め続けてその地域の管理者になることを篠原は思い出す。本当は大野がそのはずだったが、篠原の分を奪ってしまった。
大野が自分の恋人だったことまで思い出し、篠原は窓の外の太陽を呆然とみつづける。
文字数:1584
内容に関するアピール
このお題には前に書いたもののほうが適してるよなあなどと思いながら、同じ場所でずっとなんかやってる、という話を考えました。
半分頭が麻痺した感覚でたくさんの人間の相手をする状況はモブの書き方でいじくれるものなのでしょうが、オチなどかなり古風で、どうしたもんかという感じです。
文字数:136