マキネッタ・ジェヘナ

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梗 概

マキネッタ・ジェヘナ

17世紀イタリア、トスカーナ地方。サンタジーナ修道院の牢獄に、1人の少女が閉じ込められていた。彼女の名はアリア、マキネッタの少女だ。

マキネッタとは、心臓から離れた末端から、徐々に身体が機械へと変わっていく奇病にかかった少女のことで、見た目にはさほど解らないものの、機械化した指や手足は取り外し可能なモノとなる。機械化が進むにつれて死なない身体となり、主の御許へは迎えないことから、当時の人々は悪魔との契約の証と考え、見つけ次第捕え、殺害・破壊していた。

アリアは、サンタジーナ修道院に多額の寄付をした地元名士の娘だった。娘がマキネッタであると気づいたものの、娘を手にかけたくない名士に頼まれた修道院長が、しかたなく預かっていたのが、アリアだったのである。

サンタジーナ修道院に預けられた修道女・マルタは、そんなアリアに惹かれる少女だ。鎖に戒められ、外の光を浴びることもできないまま、生きることも死ぬこともできず、緩やかな精神の死を迎えるアリア。もとは彼女の世話係だったマルタは、彼女の諦念に満ちた知性に、その美しさに恋をしていた。

アリアの世話をするのは、修道院ではマルタだけ。マルタはその立場を利用して、アリアの牢獄に入るたびに、アリアに彼女の血を飲ませてもらっていた。マキネッタは、感染者の血液を体内に取り込むことで発症する。マルタは「私もアリアと一緒に、永遠を生きたい」と、神の意志に背いてでも、アリアと共にいたかったのだ。

月日が経つにつれて、マルタの指も、手足も、徐々に機械へと変わり始めていた。ある晩、アリアから「こんな最悪な場所、いつか一緒に逃げだそう」と言われ、マルタは絆の証としてお互いの左手の小指を交換してもらった。

夜ごとにアリアの牢獄に向かい、血を飲んで、愛を交わすマルタ。「機械に変わっていくこの身体って、どこまでが私なんだろう」「たましいまで機械になったら、それでも私って言えるのかな」夜伽代わりのアリアとの知的な会話は、両親の方針で学問への道を閉ざされたマルタの心を満たしてくれた。

そして修道院長がローマに向かう新月の夜、マルタは、アリアと2人で密かに温めていた計画を実行する。修道院長の部屋からアリアを戒める鎖の鍵を盗み出したマルタは、アリアの牢獄に向かい、アリアを解放する。共に逃げだそうとしたその瞬間、マルタは頭に強い衝撃を感じて意識を失った。

――マルタが目を覚ますと、身体が鎖で戒められている。戸惑うマルタの目の前には、マルタの顔をした少女がいた。アリアは、機械化したマルタの顔と髪を剥がし、自分の顔と髪と交換したのだ。アリアはマルタの恋心を利用して、初めからこの入れ替わりを計画していたのだった。

「ごめんね、マルタ。さようなら。私も大好きだったよ」

いつのまにか、左手の小指はなくなっていた。マルタの絶叫も虚しく、牢獄は暗闇に包まれる。

文字数:1182

内容に関するアピール

「身体が徐々に機械になっていく女の子どうしの百合を書きたい」という思いから物語を膨らませていたところ、気づけばこうなっていました。少女同士の閉じた無垢な世界、そこに紛れ込むどろりとした真っ黒な悪意を描きたかったのです。

参考にしたのはヴァーホーベン監督の映画『ベネデッタ』、イメージしたのはwotakuさんの楽曲「ジェヘナ」です。

文字数:164

課題提出者一覧