ホテルの窓ガラスをぶち破って翔べ

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梗 概

ホテルの窓ガラスをぶち破って翔べ

安い航空会社の利用は色々トラブルのもとだ。

アキの一人バカンス、リゾート地からの帰国は、オアシス都市にあるハブ空港を経由してスムーズに母国へのフライトに乗り継げるはずだった。しかし機材の故障で出発が遅れたためハブ空港への到着も大幅に遅れ、乗り継ぎ便はとうに離陸した後だった。アキは他の乗り継ぎ客たちと一緒に空港に隣接したトランジットホテルへ宿泊することになった。皆、自宅や会社などへ帰国が遅れる連絡を試みる。アキは食品会社への出社は明後日からなので構わないが、犬を預けているペットホテルには連絡を取りたい。しかしWi-Fiも空港ロビーやホテルの電話もまともに繋がらない。断線しがちな通話をなんとかできた人はごく一部だった。皆、疲れとショックで気力を失う。さらにホテルは設備も食事もひどい、この国は滅びかけているのだ。しかし部屋の窓は別世界に繋がっている。部屋の面した方角ごとに、窓の先は、雪原、ジャングル、島、人のいない大自然。空間を歪めて、部屋ごとに異なる土地に接続しているという謳い文句だ。

翌日も出発できない。一方、各地からの到着便は続々とやってくる。閑散としていたホテルが、徐々に宿泊客で溢れてくる。アキは、昔の恋人のパティに再会する。

宿泊客に観光バスツアーを出すという。元気な人たちだけで参加。アキとパティも一緒に参加する。今どこで何やってるのか、お互いにぎこちなく探り合う。パティはIT企業で3次元ディスプレイの開発をしているという。観光ポイントをバスが巡る。古代遺跡、宮殿、工事途中の超高層ビルとショッピングモール。モールの免税店で買い物の途中で暴動が起き、フロアを暴徒が占拠した。アキたちは何とか逃げ帰り、ホテルへ籠る。
飛行機が飛ばないのはこの治安のせいだ。電話の不通も、ホテルの設備も。何も調べず値段で決めたのが失敗だ。

逃げようぜ。パティに誘われ、窓をぶち破って向こう側の国へ行こうとする。秘境ながら生存できそうなジャングルを選択。必要な装備をホテル内でかき集めて、窓ガラスをぶち破る。

飛び出したそこは空中で、谷に落ちないようロープで体を繋いでいたから墜落はしなかったが、ホテルの窓を破っただけだった。よその空間に繋がっているとかは嘘、演出の勝利。

ああ、これうちで手がけてる3Dだ。気づけよ! いや、知っててやったな?

二人は大使館を探して駆け込もうとする。というか、今国籍どこ? 別々だね。

空港に大型旅客機が次々に到着する。この国のものではない。アキの国とパティの国の航空会社だ。うちに来ないかとパティが誘う。アキは断る。なんでだよ?
「犬飼ってるから。じゃあ、パティはうちに来れる?」「ごめん、わたしも猫飼ってる」他にも理由はあるが、それはお互い言わないし、尋ねない。それで別れた。

連絡先くらい、交換しても良かったかと思っていたある日、部屋の中にパティが現れた。3次元ディスプレイ表示。

文字数:1200

内容に関するアピール

トランジットホテルに閉じ込められ、飛行機は来ず、治安ばかりが悪化する。そのような場所で、主人公のアキは昔の恋人パティと再会します。パティはトラブルメーカーではあり、その破天荒さが過去の別れの原因なのですが、やり直したいという気持ちがあります。優秀な技術者でもあり、アキのメッセージIDを勝手に盗むことくらい容易で、ラストで自宅に映像を送りつけてくるのは良識にも法にも反して愛情が重いのですが、情熱だけは本物という愛すべきところのあるキャラです。

季節柄、小説の中ぐらいは熱い土地を舞台にしたいと思い、砂漠の中の、ドバイあたりが衰退したような都市を舞台にしました。実は序盤は実体験、ただし夏でも寒いモスクワに、アエロフロート乗り継ぎで足止め食らった経験がもとになっています。

衰退した都市の暴動も、パティの行動も、やり直すという感情の暴走です。強めの感情をポジティブに描きたいと思います。

文字数:391

課題提出者一覧